第238話・現代最強の自衛官②
テオドールがエクシリアと戦闘を開始したのと同じく、中国大使館殴り込み部隊も行動を開始していた。
目的は秋山への賠償金かつあg……訂正、請求だ。
当初は装甲車での正面突破が考えられたが、直前になって錠前から別の案が出された。
これを聞いた透は、思わずつぶやく。
「錠前1佐一人で……?」
彼の提案は、最初の突撃を錠前単独で行うというもの、理屈はわかっていたが……懸念点も当然あった。
「確かに1佐だけなら戦力を温存できる上、何か別のアクシデントが起こっても対応できるリソースが残ります。ですが……」
心配する四条だったが、錠前は軽く言い放った。
「大丈夫、僕負けないから」
たった一言だったが、透と四条はその場で納得した。
時刻は0930……、なぜか警備のいない正門をこじ開けて中に入ると、錠前はサングラス越しに笑った。
「ははっ、準備万端じゃん」
入った瞬間、大使館の窓という窓から一斉に重機関銃が向けられた。
正面ロビーからは、重武装の兵士が次々に展開。
あらかじめ横側にいたであろう人間も、全員が銃口を向けた。
そして––––錠前の眼前には、3人の男が立っている。
「いらっしゃい、錠前勉。まさか本当に1人で来るとは思ってなかったよ」
中国国家安全部、超エリートスパイ、陳大佐。
ロシア連邦スペツナズ最精鋭部隊隊長、セルゲイ少佐。
北朝鮮対日特殊工作666任務部隊隊長、李大尉。
これに加えて、5体の天界1等神獣が錠前を迎えたのだ。
「これで負けたら本当に後が無いけど、ちゃんと考えてる~?」
錠前の煽りに、セルゲイが返した。
「その薄ら笑い、今から消すのが楽しみだぜ」
「ほーん。いいね……、盛り上がってきた」
錠前はゆっくりと深呼吸をし、体全体に力を漲らせた。
彼の目はサングラス越しに相手を見据え、その表情には余裕と自信が浮かんでいた。
「さあ、始めようか」
「良いのかい? ここでやり合ったら周囲の被害がヤバいよ?」
陳の煽るような物言いと同時に、重機関銃が射撃体勢に入る。
枢軸側は知っていた。
“錠前勉は現在、魔法使用が困難な状態にある”、と。
第3エリアで無茶をした分のツケが、今になって襲っているのだ。
いくら人智を超えたアノマリーといえど、周囲への被害を配慮しながら。魔法使用も無しにこの戦力は相手にはできない。
セカンドプランは一応あるが、そんなものを使わずして……錠前勉をここで屠る。
ヤツさえ……。
「魔法、使えないと思ってるでしょ?」
「「「ッ!!?」」」
ヤツさえ倒せれば、日本とこちらでやっとイーブンになれる。
今日こそが、その最後のチャンスのはずで––––
「まさか……」
「嘘だろ」
「マジかよ」
陳大佐が射撃命令を下すより早く、錠前は魔眼を見開き……人差し指を立てていた。
「––––『魔法結界』」
この瞬間、中国大使館を中心とする半径1キロが……結界内に隔絶された。
展開時間は僅か0.2秒、阻止する暇すら与えられなかった。
「くそッ……、なんてヤツだ」
思わず歯噛みする陳。
錠前は確かに魔法の使用が困難な状態にあるが、完全に使えないという意味ではない。
単純にパフォーマンスが100分の1以下に落ちるだけで、元が規格外の錠前なら、エクシリアと同レベルの精度で魔法が使用できる。
「さぁ、始めようか」
二度目の宣言。
上空から鐘の音が響き渡った。
「来るぞッ!!!」
その音と共に、錠前は一瞬で前方に駆け出した。
彼の動きは信じられないほど迅速で、陳大佐、セルゲイ少佐、李大尉、そして天界1等神獣たちがその動きを追う間もなく、既に攻撃の態勢に入っていた。
「まずは北朝鮮人、テメーから殺す」
最初に錠前が狙ったのは、李大尉だった。
重機関銃の弾幕より早く肉薄し、ホルスターから拳銃を抜いた。
既にハンマーは起きており、初弾が装填されている。
「化け物めッ!!」
セルゲイが阻止に動く。
ウクライナ戦線で鍛えた動きで、背後に回った錠前にアサルトライフル『AK-12』を発砲。
だが––––
「ほーら」
錠前が右手に持った『P320』自動拳銃で、AK-12の銃口を剣のように弾いた。
体操選手並にしなやかな動きでターンすると、恐ろしく重い蹴りでセルゲイを吹っ飛ばした。
「グゥッ……!!」
陳大佐は即断する。
先刻の李大尉狙いはブラフ、本命はセルゲイだ。
「させないよ」
すぐさま近接戦へ移行。
中国最強たる陳の猛攻は、さしもの錠前であっても凌げるものではない。
セルゲイへ向かおうとした彼を殴打し、隠し持っていた拳銃を心臓へ撃ち込んだ。
人間ならこれで死ぬはずだが、こいつはアノマリー。
体勢を立て直した李大尉とセルゲイが、両脇から“魔力”を纏った攻撃をぶつけようとして––––
「『次元防壁』」
直前で止められた。
パフォーマンスは100分の1以下だが、彼は自身の周囲に高次元空間を纏うことで攻撃を防いだ。
「僕が本気出したら、攻撃なんて届かないの知ってるでしょ。学習能力が……ん?」
ふと見れば、李大尉とセルゲイの拳がギャリギャリと次元防壁を削っていた。
ニッと笑った2人が、揃って叫ぶ。
「「『魔法結界・装』!!」」
信じられないことに、2人の拳が僅かだが錠前に近づきつつあった。
無敵を誇った次元防壁が、悲鳴を上げている。
しばらく悩んだ錠前は、とりあえず高速移動で一旦距離を取った。
再び銃口を向けられながら、今の不可解な技について思考。
「あー……、魔法に詳しいダンジョンと組んでんだから。当然だよな。舐めてたよ」
冷静に解析を続ける。
––––『魔法結界・装』。……大容量の結界で僕の展開した高次元防壁を中和したか、結界術は世界を切り取る技……。それを展開するんじゃなく、薄い膜として自身に付与して攻撃したわけだな。
不敵な笑みを浮かべる3人は、魔力を纏いながらこちらを見ていた。
思い知ったかと言わんばかりに。
確かにアレなら、自分に攻撃は当たるだろう。
しかし––––
「降伏するなら今が最後だよ? 錠前勉」
有効打を示し、自信のついた陳大佐が挑発する。
「はっ、勘違いしてんじゃねーよ」
心臓の肉体反転による治癒を終えた錠前が……、ゆっくりとサングラスを外して“魔眼”を覗かせた。
「そんな小細工で僕を殺せると思ってる、その能天気な思考にビックリしてんだよ」
上空から2回目の鐘が鳴った。
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