第237話・無敵最強ほえドール
––––ガギィンッ––––!!!!!
周囲に、弾くような高い金属音が鳴り響いた。
休日の喧騒を強制的に止められたフードコート内で、テオドールとエクシリアは鍔迫り合う。
閃光が何度も走る。
互いの剣から、凄まじい魔力の衝突が発生していた。
「まさか気取られるとはね……」
鍔迫り合いは互角。
互いに一歩引いたところで、テオドールは軽く走り……。
「よっと」
襲撃と同時に空中へ放っていた桃ジュースを、左手で上手くキャッチした。
ストローを咥え、髪と同じ銀色の剣を持ちながら啜った。
「こんな公然で襲うなんて、全くらしくないですね。そんな大きい剣持ってたら“銃刀法“で逮捕されますよ?」
中身を飲み終わったテオドールは、アイドルのような笑顔で後ろへ庇ったミーナに尋ねる。
「怪我は無いですか?」
「すっ、すみません……テオドール様。わたしが奇襲に気づかず、実力不足でした……」
「相手が相手なのでしょうがないですよ、別に気にしなくて良いです」
異世界の少女2人が剣を向け合う様は、日常が一転して非日常になった瞬間だった。
「あれ玩具……? にしては凄い質感だけど」
「あの銀髪……!! まさか、テオドールちゃんか!? 渋谷にいるとは知ってたけど」
「でもなんか、雰囲気がヤバそうじゃない……?」
周囲の人間が、距離を置きながらどよめく。
それを見逃さず、エクシリアは大きく剣を縦に振った。
魔力による飛ぶ斬撃が発生し、触れれば即死の技が机を蹴散らしながら飛翔して––––
「きゃっ!?」
間一髪のところで、横から割り込んだテオドールが斬撃をかき消した。
フワリと舞った銀髪の奥で、金色の瞳が敵を睨む。
「他人をワザと巻き込むのは感心しませんね、あなたの相手はわたしですよ?」
「知らないわよ、日本人がいくら死のうとわたしには関係ない」
「こっちには大アリなんです、ミーナ」
従者を呼びつけたテオドールは、即座に指示を行った。
「透たちへ連絡をお願いします、まぁ向こうも忙しいでしょうけど」
「りょ、了解です!」
そう言って走り去ろうとしたミーナを、「あっ、少し待って」とテオドールが呼び止めた。
再び近づいた彼女は、ミーナに空になったカップを渡した。
「それをゴミ箱に捨てといてください。ストローは紙なので燃えるゴミへ、カップはプラなので燃えないゴミへちゃんと分別してくださいね」
「あっ、わかりました」
今度こそ走り去っていくミーナを背に、テオドールは剣を構えなおした。
その余裕たっぷりな態度に、エクシリアは苛立ちを隠さなかった。
「ずいぶんと余裕ね、前に負けたのを忘れたのかしら?」
「別に忘れてませんよ、ちゃんとゴミは分けてから捨てないと、透に怒られるんです」
「じゃあアンタは燃えるゴミかしらね」
野次馬の中央で、テオドールとエクシリアは再びぶつかった。
執行者同士の戦いはまさにファンタジーそのもので、互いが地球人では到底できない動きで競り合う。
エクシリアは、攻撃を繰り出しながら思考した。
––––この短期間でパワーアップしたとは考えづらい、さっきの余裕は増援ありきのブラフかしら。
ならばやるべきは、周囲を鑑みない無差別攻撃。
「天界1等戦技––––『火星獣砲』!!」
エクシリアの左手から、渦巻く獄炎が発射された。
高熱、高圧力のそれは、テオドールでは本来防げない威力だったが……。
「だから––––」
「ッ!?」
野次馬ごと焼き焦がそうとした炎を、テオドールはさらに上を行く魔導防壁で防いで見せた。
衝撃が四散し、フードコートの窓ガラスをけたたましい音と共に砕いた。
煙を感知して、建物の火災報知器が鳴り響く。
「無差別攻撃はよしてください、卑怯ですよ」
”無傷”の障壁を畳んだテオドールが、全くと言った様子で立っていた。
あり得ない、全力の攻撃をこんなにアッサリと……。
「みなさん、ここは危険なので早めに退避してもらえると助かります」
世界のアイドルのお願いは、今まで動画を撮っていた野次馬たちを弾くように動かした。
「非常階段から逃げろ! 他の人にも教えるんだ!」
「テオドールちゃん、頑張ってー!」
「SNSよりも命だ! テオちゃんの指示に従え!!」
あれだけいた雑踏が、たった1分で姿を消した。
巻き添えでテオドールに精神的な負荷を掛けようとしていたエクシリアからすれば、この集団行動の異常さは不愉快だった。
いや、今はそれよりも––––
「驚いたわ、こんな短期間でどうやってそこまで力をつけたのかしら」
「さぁ、愛の力でしょうか」
あくまでとぼけるテオドールに、エクシリアは熟考を続けた。
今の彼女は、第3エリア防衛戦の時よりも遥かに強くなっている。
高まった魔力の操作精度は、魔力ロスを大幅に抑えることで大技を連発可能な域に。
魔力出力も大きく引き上がっており、さっきエクシリアの戦技を簡単に防いだことから……こちらも大きく跳ね上がっている。
こんな芸当が可能なのは––––
「まさか……、マスターとの魔力シェアか!」
「おや、バレましたか」
「本来自分1人では持てない魔力量を、マスターに”外付け”することで……疑似的に魔力総量を増やしているというの?」
「そうですね、加えて……透からは今回の任務をしっかりこなしたら、デザートを食べさせてもらうという”契約”も結びました。これでわたし自身の魔力総量もしっかり底上げしています」
「ッ……」
完全に舐めていた。
マスターと眷属という関係から得られる恩恵を、完璧に使いこなしている。
テオドール……いや、新海透がここまで魔法の知見を深めていたとは。
「っというわけで、端的に表すなら––––」
自信たっぷりの笑み。
膨大な魔力が放出され、テオドールの銀髪が美しく輝いた。
「今のわたしは無敵です、普段の2倍は強いです」
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