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第236話・ほえのグルメ旅

 

「ほえー、大きいですねー」


 ––––東京都 渋谷区。


 ホテルをチェックアウトしたテオドールは、早速来てみたかった観光スポットに目を輝かせていた。

 小さな体躯の彼女の前には、巨大な高層ビルが立っている。


 地上46階建て、高さ229メートルを誇るこれは、“渋谷スカイ”と呼ばれるビルだった。


「はっ、はわわわ……こ、ここに入るんですか!? テオドール様!」


 護衛を担当するエルフのミーナが、どこか戦々恐々としていた。

 さすがにこのレベルの建造物に入るとなると、普通は結構な度胸がいるもの。


 しかし、テオドールは臆せず入り口から堂々入場。

 目指すは一箇所だった。


「暑いですし、何か冷たい飲み物をいただきましょう。ミーナも喉乾きましたよね?」


「わ、わたしは別に大丈夫ですが……」


 ミーナがそう言った時、テオドールが背伸びをしてミーナのおでこをデコピンした。


「はうっ!?」


「ダメですよミーナ、たとえ自覚が無くても水分はしっかり摂ってください。これは執行者からの命令です」


「て、テオドール様がそう仰るのであれば……」


 エレベーターを降りると、そこには大きなフードコートが広がっていた。

 ガンガンに効いた冷房に癒されながら、テオドールは早速なにか自分好みな物が無いか探し始めた。


「うーん、どれも非常に美味しそうですね〜。迷い箸してしまいそうです」


「み、未知の料理ばかり……て、テオドール様。やっぱりここは危険なんじゃ……」


「あっ、アレなんて良さそうですよ」


 テオドールが指差したのは、ドリンクをメインに販売しているお店だった。


「“福島の桃ジュース”、響きが良くないですか?」


「に、日本の地名ですかね……そんな得体の知れない場所の飲み物なんて……」


「何を言っているのですか! 早く買いに行きますよ!」


「て、テオドール様ぁ!! お待ちくださいー!」


 追いかけるミーナ。

 どうやら限定品だったらしく、あと5杯というギリギリのところで買うことができた。


 搾りたてで冷たいジュースが、プラスチック製容器の中でたゆたっている。

 果肉も漂っていて、ピンク色がフルーティー感を出していた。


「フッ」


 ここで、テオドールが謎のドヤ顔を見せた。


「まっ、既に散々日本のお茶やジュースを飲んだわたしに掛かれば、これも今更さしたる驚きは無いでしょう」


 何かを察したミーナは、預かっていたスマートフォンの電源を入れてカメラを起動。

 コッソリ隠し撮りを始めた。


「さっ、では頂きましょう」


 余裕しゃくしゃくなテオドールが、紙ストローで桃ジュースを気持ちよく一気に啜って……。


「––––ほえぇ……?」


 無様な鳴き声を上げた。

 彼女自身、舐めていた相手から渾身のボディブローを食らったような気持ちで、思わず取り乱してしまう。


「な、なんですかこの桃ジュースは……!! こんなに甘くて後味がスッキリしたもの、初めて飲みました……!!」


「確かに美味しそうですね……、テオドール様がそこまでリアクションするとは……」


「ふ、福島の桃……なんという恐ろしい果物なんでしょう。日本人はこれをいつでも飲めるだなんて……」


 そこから一口飲むたびに、テオドールはほえほえと鳴き声を出し続けた。


 ミーナは、彼女の予想外の反応に思わず笑ってしまった。

 普段は冷静沈着で何事にも動じない彼女が、こんなにも感動している姿を見るのは……ダンジョンでは珍しいことだった。


 日本では……いや、これが本来のテオドールの姿なのだろう。


「本当に、こんな美味しいものを日本人は日常的に飲んでいるんですね……。ああ、この世界にもっと早く来ていれば……」


「テオドール様ったら、そんなに感動するなんて……」


 ミーナは、彼女が桃ジュースを楽しむ様子を見守りながら、そっとスマホを下ろした。


「ミーナ、あなたもこれを試してみるべきです。これは命令です」


「あっ、はい」


 ミーナは頷き、慎重にストローを口に運んだ。

 甘く芳醇な桃の風味が口いっぱいに広がり、思わず目を閉じてその美味しさを堪能した。


「わ、わたしも……面食らいました。ちょっと驚きです。日本の果物って、こんなに美味しいんですね」


 テオドールは大きく何度も頷いた。


「そうでしょう? 日本は食事も素晴らしい国です。美しい自然、便利なインフラ、美味しい食べ物、そしてこの桃ジュース……。まるで天国のようです」


 2人はしばし桃ジュースを楽しみながら、フードコートの喧騒を眺めていた。

 そして、背後に立っていた執行者に優しく話しかける。


「あなたもいい加減、日本側(こっち)に来れば良いのに……ねぇ? エクシリア?」


 テオドールの真後ろでは、気配を完全に殺した執行者エクシリアが、鋭利な剣を首目掛けて不意打ちで振っていた。


236話を読んでくださりありがとうございます!


「少しでも続きが読みたい」

「面白かった!」


と思った方は感想(←1番見ててめっちゃ気にしてます)と、いいねでぜひ応援してください!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 美味しさ満喫テオドール 幸せいっぱいテオドール ほえほえ鳴くよテオドール [一言] アイサツ前のアンブッシュ! 一回だからシツレイではないが、美味しさにほえほえしている最中に狙うとはなか…
[一言] 食事の邪魔をされることをもっともも嫌いそうな現在のほえw
[良い点] まあ日本人の食に掛ける情熱と努力はハンパじゃないからね。 (異世界モノの定番) シャインマスカットやあまおうや二十世紀なんかの美味しいモノはまだまだ一杯あるぞミーナとテオドール。 [気にな…
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