第234話・男と女の間に友情は存在しない
男子と女子の間に、友情は存在できない。
これは有名な偉人が残した言葉であり、紛れもない事実だった。
男が男である限り、女が女である限り。
そこにあるのは、異性としての恋愛感情のみである。
坂本慎也という男は、この真理をしっかり理解しているはずだった。
だが、そんな彼にも限界というものは存在する。
「どしたの? 早く来なさいよ」
ベッドの傍で、久里浜が呟いた。
ゆっくり近づいた坂本は、全力で理性を保とうと奮闘する。
しかし、久里浜の破滅的なまでの良い匂い。
壊滅的に無防備な格好。
太陽のような可愛い笑顔を前に、理性という名の防壁はあまりに脆かった。
「えっ?」
意識する暇すら無く、坂本は久里浜をベッドに押し倒した。
ドスっと鈍い音が響き、彼女の両腕をガッチリ上から押さえ込んだ。
「ちょっ……、あの?」
久里浜が必死に抵抗してくるのが、柔らかい肌を通して伝わってくる。
それは彼にとって、あまりに衝撃的だった。
「さか……、もと?」
久里浜の力は、想像より遥かに弱かった。
男の坂本からすれば、彼女がどんなに力を込めて抵抗したところで……抗うことなどできやしない。
今この瞬間、久里浜はようやく余裕のある表情を崩した。
「お前、そんなに誘って僕が何もできないと踏んでたのかよ」
「…………っ」
「初めて会った時に言っただろ、僕はお前をフィジカルで圧倒できる。銃もナイフも持ってないお前じゃ……僕には勝てない」
渋々といった様子で、久里浜は全身を脱力させた。
どんなに力を入れても、自分の肉体では勝てないと察したのだ。
「そんな顔……、初めて見た」
「調子に乗り過ぎたな、男っていう生き物を甘く見過ぎだ」
怒気すら込めた坂本の言葉に、久里浜は汗を浮かべながらも動揺を見せない。
「ようやく気づいてくれたと思ったら、ずいぶんと乱暴じゃん? 女の子には優しくしてよ」
「自分のビジュアル考えろよな、どんだけ可愛いと思ってんだよ。そんな女子がこんな無防備に、あからさまに誘いやがって……意味わかってんのか」
「アンタこそ、自分のこと過小評価し過ぎ。だからわたしがここまで仕掛けたんじゃない」
目を合わせた久里浜が、押し倒された状態で続けた。
「どうする? わたしは……アンタになら襲われても良いと思ってるけど。むしろ、所有物にしてくれても良い」
突然の性癖暴露に、押し倒している坂本の方が困惑した。
「驚いたよ、お前がそこまでフェチを拗らせてたとはな……。てっきり尻に敷くタイプかと思ってたよ」
「強引なのが好きなだけ、だから……今凄いワクワクしてる。だって、アンタみたいな“好みの男”がこうして力づくで押し倒してくれるなんて……ギャップで興奮する」
「猫かお前は、性欲に忠実過ぎんだろ」
「しょうがないじゃん、こんだけ意気投合して……顔も性格も好みで。自分のことを理解してくれる男性、坂本だけだから」
久里浜は本気だ、冗談でこんなことを言うやつではないというのを……坂本が一番知っている。
だからこそ、いつまでも奥手の自分ではいけないと思った。
自らの最も信頼する上司、新海透ならどうするか考えろ。
彼ならどうやって想いに応える。
あの人ならどんな行動をするか。
「隊長なら……、こう答えるかな」
彼––––坂本慎也の行動基準は、全て新海透を指針としている。
人を殺す判断基準も、自分が死ぬ行動基準も。
坂本は彼と最初に行った任務以来、全てを透中心で考えている。
迷うな、男なら踏み込め……そう言われた気がした。
「お前が恥を承知で暴露したんだ、その分には応えてやる。男を軽い気持ちで誘った責任をキッチリ取らせる」
より強く腕を上から圧迫した坂本は、口調を強めた。
「今夜だけ……、夜が明ける間だけ。お前は僕の所有物だ。徹底的に食い散らかしてやる、お前が泣こうが気絶しようが拒否権は無い! これなら満足か!?」
既に坂本に押さえられている久里浜の腕は、軽いアザになっている。
だが、彼女は恥ずかしさと興奮の狭間で答えた。
「……はい、わかった……。アンタになら、めちゃくちゃにされても良い……。好きにしてください」
「ッ……!!」
言質は取った、もう恐れる必要は無い。
手を自由にした坂本は、彼女の潤った身体へ手を伸ばして––––
「へっ……?」
ガッチリとホールド、関節技の姿勢に入った。
「男を試して遊んだ罰、しっかり受けてもらうぞ」
「ちょっま!! ラブコメの流れとちが――」
「問答無用、所有物なら黙ってご主人の命令を聞け」
その後2時間たっぷり、久里浜は関節技地獄を味わうこととなった。
腕十字固め。
三角絞め。
肩固め。
腕挫十字固。
膝十字固め。
アメリカーナ
火遊びをするとロクでもないことになると、彼女は身を以て思い知る。
幸い防音部屋だったので、久里浜のガチの悲鳴は隣室に届かなかった。
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