第231話・錠前と秋山
秋山の住むマンションの周りは、警察と自衛隊によって完全封鎖されていた。
時刻は日没直前、屋上で手すりにもたれ掛かっていた秋山へ、声が掛けられる。
「やっ、久しぶり美咲」
私服姿で現れたのは、真っ黒なサングラスを掛けた現代最強の自衛官––––錠前勉だった。
彼は秋山に近づくと、まだ上空を旋回するヘリの音の中で呟く。
「期待半分だったけど、美咲ならやってくれると信じてたよ」
隣にもたれ掛かった錠前に、秋山はため息を吐きながらポケットへ手を入れた。
その顔は、ベルセリオンに向けていた優しいものとは全く違った。
「いつから自衛隊は、民間人を巻き込んで作戦するようになったの?」
「望んでそうしたわけじゃないさ、だが結果的にこうなった……だから僕が謝罪に来たんだよ」
「フーン、まぁ良いけど……あの錠前くんが私に頭を下げる姿が見られるなら、悪くないかもね」
意地悪気な笑みを浮かべた秋山は、薄っすらと見え始めた星空に目を向ける。
「まぁテオドールちゃんが私のお店に来た段階で、これは偶然じゃないって察してたけどさ」
「言っとくが仕込んでたわけじゃないよ、新海が予約したのがたまたま美咲の店だっただけ」
「どうだか、錠前くんはそうやってすぐ嘘つくし」
「僕の信頼度薄くない……?」
「まぁそんなことはどうだって良いのよ、本題に入りましょ」
サングラス越しに錠前の魔眼を見つめた秋山は、真剣な表情で続けた。
「ベルちゃんはどうなるの? まさか殺したりしないわよね?」
恐ろしい殺気すら込めた問い。
もし彼女に害をなす様なら、たとえお前でも容赦しないという目つきだった。
だが、錠前はそれすら気にせず飄々と答えた。
「うーん、彼女次第かな。あの子がもしダンジョン側に帰る選択をすれば……今度こそ、責任を持って僕が殺すよ」
「それは……、彼女が侵略者だから?」
「そうだね、でも多分大丈夫」
手すりから離れた錠前は、ニッと微笑んだ。
「美咲のおかげで、そうなる未来はきっと消えた」
「……、はっ」
呆れ笑いを浮かべた秋山は、ふと昔の頃を思い出した。
防衛大時代……最強の錠前と、よく喧嘩していた真島、間に入るように絡んでいた自分。
3人それぞれ別の道を選んだが、後悔はしていない。
あっという間の青春、自分の全てを否定した最高の時間、だからこそ異世界の侵略者にも優しくできた。
「民間人に過ぎないわたしができるのはここまでよ……、後はお願い」
「わかった。でも美咲、今からでも自衛隊に戻るつもりは本当に無い? お前さえ良ければ……掛け合うくらいはできるぞ?」
「私は拒んだ人間よ、そんな資格全く無い。お国の防衛は……君らみたいな最強に任せるわ」
「そうか……、じゃあベルセリオンくんにお別れをしておくといい。多分、もう当面会えないだろうからさ」
「うん、それはするつもり。ところで錠前くん」
下を指差した秋山は、ニッコリと笑った。
「もう部屋が住めないくらいボロボロなんだけど、わたしは明日からどうすれば良いかな?」
「あー……」
しばらく悩んだ錠前は、指をマネーの形にした。
「ちょっと中国大使館から、賠償金巻き上げてくるわ」
そう呟いた錠前は、翌日––––本当に中国大使館へ突っ込むことになる。
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