第230話・奇襲には奇襲でもって応じよ(by錠前)
フラッシュグレネードの威力は凄まじく、強烈な閃光と爆音を室内に広げた。
合わせるように突入する中国部隊、その動きは練度からして特殊部隊そのもの。
少なくとも、一般の兵士では太刀打ちできない。
秋山もベルセリオンも、突然の奇襲でフラッシュグレネードを回避できなかった。
「あき、やま…………!!」
奪われた視界と聞こえなくなった耳、玄関から侵入してきた部隊が一斉に銃口を向けた。
「クッ……!」
終わりか……、ベルセリオンがそう思った時。
「大丈夫よベルちゃん、私たちは……絶対死なないから」
微かに聞こえてきた秋山の声。
それとほぼ同時だった。
「今だ! 四条!!」
「了っ解!!!」
特殊部隊の反対側にあったベランダの窓が、2人の自衛官によって蹴り破られた。
私服姿の彼らは、上階に括った慣性の付いたロープから手を離すや、手に持っていた『SIG-MCX』を向ける。
レーザーサイトの赤い光点が、銃を持った男達へ当てられた。
「奇襲には奇襲をもって応じろってな」
言葉通りの完全な不意打ち。
部屋に転がり込んだ透と四条は、躊躇いなくMCXを発砲した。
––––パシュシュシュシュッ––––!!!
サプレッサーで抑制された300BLK弾が、強烈なストッピングパワーで中国部隊を襲った。
「グァっ!!?」
「ガァ!!?」
前衛が倒されたのを確認すると、四条がそのまま突っ込んで行った。
「民間人を虐殺しようとしたのです、覚悟はできてますよね?」
「ひっ!!」
詰められた男が、フルオートで中国国産ライフルの03式自動小銃を乱射した。
5.8ミリ高速弾が撃ち出されるが、四条はロングスカートを翻しながら横へ回避。
伝説のサバゲ配信で見せた、超近接戦闘術をお見舞いした。
「よっ!」
打撃を数発食らわせた後、至近距離から首へ発砲。
倒れた敵を踏み越えると同時に、四条はMCXのストックを畳んでさらにコンパクトにした。
銃では本来あり得ない距離で、文字通り四条は暴れ回った。
「下がれ!! つっかえてる!!」
「もうやってる! あの女––––獲物はSBRか!? なんで日本の部隊がそんな良い銃を持ってるんだ!!」
四条の持つMCXは、バレルの長さが8.25インチしか無い。
1インチが25.4ミリなので、日本人にイメージしやすいように言えば210ミリ程度。
これは、一般的な定規や本に近い長さだ。
それほどまでに小さいライフルだが、使用弾薬の300BLKは中国製の防弾アーマーを近距離で貫くには十分な威力を持つ。
おまけに、四条は銃に付いたレーザーサイトを活用しているので、構えずとも照準可能。
そんな彼女の背後から、バカみたいな精度で援護射撃が飛んで来た。
「玄関から団子みたいに入るからこうなるんだよ、一般人相手で油断してんのが見え過ぎだ」
近距離設定でゼロインした『ロメオ8ドットサイト』で、透は四条に誤射せぬよう正確に射撃。
殆ど訓練でしか撃ったことのない中国部隊と、ダンジョンや新宿決戦を無傷で戦い抜いた第1特務小隊では、もはや差が圧倒的。
錠前仕込みということもあり、2人はたった2分で中国の突入部隊を全滅させてしまった。
これは、彼らが無抵抗の人間に掛けようとしていた時間と同じであり、まさに双方の練度の差を示していた。
四条はSFP-9自動拳銃に持ち替えると、倒れた中国人の頭へ順に弾を撃ち込んで行った。
死んだフリをされていても困るので、死体撃ちは必要な処置だ。
「こちら新海、室内オールクリア。外の状況を送れ」
耳にかけた小型無線機で、透は通信を行った。
すると、低い声が返ってくる。
『こちらアーチャー、マンションを囲んでいたバックアップ部隊は既に殲滅済み。送れ』
「ありがとうございます、増援の様子は?」
『警察の協力で、あえて突破口を近くに1つ用意してある。今そこで入れ食いのように増援部隊を潰して行ってるから安心してくれ』
「了解、感謝します。終わり」
無線を切ると、秋山と一緒に机の下に隠れているベルセリオンがいた。
しっかりと魔導防壁を張っており、秋山を必死に守っている。
「よっ、顔色良くなったな」
銃をセーフモードにした透が、優しい顔で微笑んだ。
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