第229話・秋山の挫折
「わっ、結構量があったのに……全部食べれたね」
30分ほどして、机に並んでいた食事は綺麗に消え去っていた。
ベルセリオンは赤面しながら、恥ずかしそうに答える。
「ごめん秋山……、ちょっと食べ過ぎたかも」
「良いの良いの! むしろ君はちょっと痩せ過ぎ。これくらい食べるのがちょうどいいのよ」
食器を持ち、水道でお皿を濡らしていく。
そんな秋山を見ながら、彼女は内心興味を持ちつつあった。
さっきまでは自分の葛藤や、どうすればいいかわからない心情を秋山に吐露していた。
おかげで、大分胸が軽くなった。
心に余裕が出てきたベルセリオンが、好奇心で尋ねてみる。
「秋山はどうして人に、他人にそこまで優しくできるの?」
「ん? それは私が善良かつごく一般的な社会人だからだよ」
ドヤ顔で言い放った彼女だが、すぐに表情を崩す。
「なんてのは冗談で、私自身が……どうしようもない超人との差を知ってるからかな」
5秒ほど蛇口の水の流れる音がして、秋山は思い出すように呟いた。
「私……、今は美容室の店長をやってるけど。本当はそんな未来を目指してたわけじゃないんだ」
「ふえ? じゃあ何を目指してたの?」
顔を上げた秋山が、仕方ない……っと言った様子で返した。
「自衛隊」
「ッ!!?」
思わず硬直し、即座に臨戦態勢に入るベルセリオン。
そりゃそんな反応もするかと思った秋山は、すぐに安心材料を投下してあげた。
「大丈夫よ、自衛隊に入るのは目標だったけど……結局辞めちゃったから」
「じゃ、じゃあ……秋山は元自衛隊?」
「元と呼ぶのも現役の方に失礼かな……、だって私は––––」
意を決して、彼女は異世界人に過去の苦渋を公開した。
「“任官拒否”したんだから」
「任官……拒否?」
「そう、私の卒業した学校は防衛大学校。幹部自衛官の養成所みたいなものかな、そこから自衛隊で働くのが普通なんだけど……」
声を濁らし、続きを話す。
「わたしには無理だった、アイツらに……追いつけなかった」
ベルセリオンは驚愕していた。
これほどまでに肝が据わっていて、かつ人間として出来ている彼女にも……挫折した過去があったのかと。
これ以上聞くのは失礼かもしれない。
けれど、なんとなく聞いておくべき気がした。
だが、ベルセリオンが続きを聞くよりも早く、秋山が喋った。
「私の同期にはすっごく天才的なヤツがいてね、もう何やらしても評価はオールS。防衛大は優秀な人材が集まる場だけど、アイツはちょっと別格だったな……」
「競ったことがあるの?」
「まぁ友達だったし、機会は何度かあったわ。どれも完全敗北だったけど」
「秋山で全く敵わないなんて……、そんなヤツがダンジョンに派遣されてたら。きっとわたしボコボコにされてる……」
「そう、だから私とそいつの親友だった男は……最強過ぎる彼に差を見せつけられて、揃って任官拒否に至った。あんま人のせいにはしたくないけどさ」
秋山は咄嗟の銃撃戦にも冷静に対応し、さらには異世界人を恐れることなくお世話できる。
会話の仕方からして、頭もかなり良いはず。
そんな彼女が心を折られるほどの天才にして最強、この時点で……ベルセリオンには嫌な寒気が走っていた。
「な、名前を聞いても?」
「私と一緒に任官拒否したのは真島っていうヤツで、こっちは警察に行ったとか。っで、そのもう1人……問題のヤツが」
嫌な予感がした、聞くべきではなかったと……ベルセリオンは後悔した。
「錠前勉っていうヤツよ」
その瞬間、部屋の電気が一斉にバチンと音を立てて消えた。
同時に、鍵の掛かっていたドアが、ブリーチングチャージで吹っ飛ばされる。
「目標の部屋に到着! 2分以内に執行者を確保せよ! 随伴の女は殺せ!!」
大声の中国語が、部屋に響いた。
奥から投げられたフラッシュグレネードが、2人の眼前で爆発する。
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