第224話・錠前抹殺計画、執行者捕獲計画始動!
––––同時刻、ダンジョン内のとある場所。
荘厳な雰囲気に包まれた玉座の間で、ダンジョンマスターのエンデュミオンは椅子に座っていた。
その顔は、面白いゲームを観戦しているようだった。
「くっははは、まさかベルセリオンまでやられるとは思わなんだ。やはり、この世界の日本人は俺の“元々知っている日本人”とは全く違うようだ」
黒髪をかき上げ、コートに包まれた身体が嬉しそうに震えた。
そんなエンデュミオンを見て、不機嫌さを隠さなかったのは、金髪を下げた少女……執行者エクシリアだった。
「お前が第3エリアに来なかったせいで起きたことよ、少しは責任くらい感じたらどうなの?」
彼女は透によってM67手榴弾を丸呑みさせられ、瀕死の重傷を負わされた。
先日まで治療に専念しており、こちらもテオドールと同じく驚異的な回復を見せた。
だが、内心はマグマのように煮えくり返っている。
「エンデュミオン、お前に与えられた神のスキルは……自己満足のおもちゃではない。転生者なら少しはわきまえたらどう?」
「そう吠えずともわかっている。日本人……それも自衛隊なる、軍やら警察やらも知れぬ凡夫に負けたのだ。執行……いや、出向者としてさぞ悔しかったろう?」
「ッ……!! 主に情けを掛けられた身で生意気を……!! お前が来れば状況は変わってたかもしれないのに、何を呑気な……」
そこまで言って、口を止めさせられる。
正面に座るエンデュミオンから、全く別次元の恐ろしさを持つ覇気が放たれたからだ。
「痴れ者が……、出向の身なら少しは弁えろ。俺があの時行ったところで……錠前勉が来てしまった以上、全ては無意味だったのだ。満身創痍だったお前を、転移魔法の補助で逃してやった恩を忘れるなよ」
「ッ……!!」
空気がズッシリと重くなったところで、横から場違いな明るさで手が叩かれる。
「そういじめてあげないでよエンデュミオン、彼女だって頑張ったんだからさ」
全身を黒装束に覆った彼は、中国国家安全部所属の超エリートスパイ。
陳大佐だった。
「お前ら中国人はいつだって楽観主義だな、俺のいた世界でも悪い癖だったぞ?」
「それは失敬、きっとDNAに刻まれてるんだ。それにこれは楽観じゃない、チームのムードを良くしてるだけさ」
「まぁ良い、陳……そっちの計画は順調なのか?」
「なんとか東京に2個中隊送り込めたよ、北海道や九州で待機していた国家安全部所属部隊を。新幹線で向かわせた」
「陸路とは悠長だな、転移魔法で送れる質量には限度があるとはいえ……いささかゆっくりではないか?」
「君は知らないだろうけど、この世界の日本は地球で一番インフラが整った列強の大国だ。東海道を使えば空路より安全に……かつ良い装備を持って東京まで数時間で行ける」
エンデュミオンは微かに笑みを浮かべたが、その目は冷たく鋭かった。
「そうか。それならば……良い。今後の展開を楽しみにしているぞ、陳」
2人のやり取りを見ていたエクシリアは、唇を噛みしめながらも一歩も引かずに立ち続けていた。
彼女の瞳には強い決意が宿っている。
「エンデュミオン、次の戦いでは必ず勝つ。そのための準備を整えているわ……奴らは、新海透と錠前勉だけは絶対に許さない」
エンデュミオンは興味深そうに彼女を見つめた。
「ほう、次の戦いか。具体的にはどのような策を練っているのか、聞かせてもらおうか」
「次の攻撃では、私自身が指揮を執る。そして……第3エリア防衛戦で手に入れた“最強の部隊”を投入する」
ダンジョンマスターはその言葉に興味を示すと、にやりと笑った。
「それは楽しみだ。だが、この世界の日本人は侮れない。特に自衛隊の連中は、我々が知るものとは随分異なる」
「だからこそよ、けど最も憂慮すべきは……やはりあの男ね」
「現代最強の自衛官……、錠前勉か。少なくとも惰性で動いて勝てる相手ではないな」
「知っている、だから早急に手を打つ」
ここで、陳大佐が人差し指を立てながら割り込んだ。
「ヤツには通常の戦術や、倫理観が全く通用しない。無理に殺そうと躍起になるのはオススメしないよ」
陳の警告に、エクシリアは舌打ちした。
「知ったこっちゃないわ、今ヤツは魔法使用が困難な状態にある。殺すなら今しか無い」
「はぁ、一応警告はしたからね……君がどんな手を考えてるのか知らないけど、応援はしておくよ」
一連の会話を聞いていたエンデュミオンは、再び黒髪をかき上げ……意味ありげに頷いた。
「いいだろう。だが、2人共忘れるな。俺たちはただの勝利を目指しているのではない。ヤツらをダンジョン内で鏖殺し、エネルギーを蓄えるのが本来の目的だ」
「わかってる」
エクシリアは素っ気なく返事すると、転移魔法で部屋から出ていった。
「良いの? 彼女止めなくて……多分死ぬよ?」
「構わん、俺はそれよりも……裏切った執行者共の始末をお前に頼みたい」
「ベルセリオンはまだ裏切ったと確定したわけじゃないよ?」
「時間の問題だ、テオドール諸共殺して構わん」
「まっ、全力は尽くすよ……こっちには属国もいるし」
その時、ダンジョンの奥深くから新たな報告が届いた。
エンデュミオンは魔法回線を開き、内容を確認した。
「ふむ、どうやら例の小隊が関東に降りたようだ」
「ちょうどいいタイミングだね」
陳は微笑んだ。
「君が良ければだけど、執行者の子は中国に拉致しても良いかい? 異世界人の観光客として、共産党を礼賛する動画が撮りたいんだ」
「最終的に殺すなら好きにしろ」
「ありがとう、間も無く……日本には長年居座った大国の座から降りてもらう。取り返しのつかない失敗と共にね……。ベルセリオンかテオドールの拉致に成功したら、私と一緒に小笠原諸島沖へ展開した空母『山東』に連れて行く」
錠前勉の抹殺計画、ベルセリオンとテオドールの拉致計画が並んで始動した。
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