第222話・VS連合軍2
「UABってなんだよ、初めて聞くんだが……」
困惑しつつも、前線へ向かう坂本。
射撃で応戦しつつ、久里浜が答えた。
「大雑把に言うと、大会に出るような競技者よ。当たり前だけど超強い」
「サバゲに大会とかあるんだ」
「当然、気をつけて……言っとくけど相手はね」
無線の途中で、坂本は目にした。
一瞬だけ視界に映ったそれは、全身を真っ黒なスタイルで固めた合理化の権化のようなプレイヤー。
手に持った銃はコンパクトそのもので、何より動きが違う。
バリケードからミリ秒単位だけ銃口と顔を出し、正確にこちらの顔面を狙ってくるのだ。
「気をつけて!! アイツら全員3万円超えの電子トリガー付けてる!! たとえセミオートでもそこらのフルオートより連射されるわよ!」
数メートル前で久里浜が激しく応戦しているが、あまりにも当たり判定が小さい&一瞬なので掠りもしない。
坂本も攻撃に参加するが、すぐにやめた。
「おいチビ助! 相手さん弾を避けて来るんだが」
「競技勢は反射神経良いから、BB弾くらいの弾速なら普通に避ける! 下手に顔出したらアンタがお陀仏よ」
「おっかねえな……、どんな分野でもガチ勢はいるもんだ」
坂本は一瞬息を飲んだが、すぐに冷静さを取り戻した。
ガチの競技者相手に、普通のやり方では通じないことは明らかだった。
「久里浜、僕が囮になる。その間に回り込んでくれ……奴らの注意を引きつけるから、お前がフィニッシュを決めろ」
久里浜は一瞬迷ったが、すぐに頷いた。
「わかった。でも無茶はしないでよ。ホテル代を献上したいなら別だけど」
「ばーか、誰がテメーに奢るか」
坂本は深呼吸を一つして、全力で前進した。
無線機からは久里浜の声が続いていた。
「注意して、UAB勢はもう一種のプロフェッショナル。軍隊とは違った戦術やテクニックを完璧に身につけているわ」
「了解、気をつける」
坂本は短く返事をすると、一気に走り出した。
バリケードから顔を出すたびに、敵の銃口が鋭く反応する。
だが、坂本はその瞬間を見逃さず、敵の注意を引きつけるために発砲。
突出した坂本に気を取られ、相手の銃口が集中し始める。
やられてばかりでは意味が無いので、一応反撃してみるが……。
「薄いッ!! 被弾面積が薄過ぎだろ!!」
敵は本当に一瞬だけ、ごく僅かな面積しかバリケードから出さない。
ハッキリ言って、BB弾の速度で正面から倒すのは不可能に思えた。
「あと20秒持ち堪えて!! 死ぬ気で稼ぎなさい!!」
その間、久里浜は素早く側面から回り込み、静かに接近した。
彼女の動きはまるで影のようで、敵に気づかれることなく距離を詰めていく。
そして、事前にハンデとして店側から許可を貰っていた“禁断の戦術”を繰り出す。
同時に––––
「あっ、ヒット!」
近距離に複数人で詰められた坂本が、遂に弾丸を食らった。
「坂本3曹ダウン!!」
「やったぞ! 遂にキル取れた––––」
歓喜するUAB勢だが、その喜びが命取りだった。
「やあぁあああ!!」
彼らの側面後方で、久里浜が“バリケードを飛び越えた”のだ。
お店側から一部のバリケードで、1回だけ許された荒技。
さしもの競技勢も、これに耐える訓練までは積んでいなかった。
「やっちまえ」
坂本が笑顔で言うと同時に、久里浜は全力で突撃した。
彼女のM4A1がフロンガスを噴き、正確なショットが敵を捉える。
「ヒット!?」
「なっ、クソッ!!」
相手は驚愕の表情を見せたが、すぐに反撃。
電子トリガーを活かした高速連射を放つが、バリケード間をファンタジーもビックリな速度で駆ける久里浜を、UAB勢は捉えられなかった。
「ぎゃっ!!」
「ヒット!」
「速過ぎんだろ!! うわっ! ヒット!!」
なぜここまで狙いが外れるか、理由はちゃんと存在した。
競技勢が使うドットサイトは、より素早く構えるために高い位置で固定されている。
っということは、銃口から出る弾と重なるドットが、それぞれ距離によって大きく違う位置になってしまうのだ。
通常であれば補正が効く範囲だが、日本最高クラスの自衛官はこれを最大限利用。
凄まじいスピードで高さ方向のヘッドラインをズラしてくる久里浜に、人間側のズレ補正が全く追いついていないのだ。
結果として第三者から見れば、久里浜が未来予知でもしているかのような避け方をしているように見える。
「ひ、ヒット……!!」
サイト・パララックス、頬付けの不足によるブレ……。
競技勢が気づいた頃には遅かった。
久里浜の猛攻を受け、最終的には全員がヒットコールを叫んだ。
「試合終了!! 赤チームの勝ちです!!」
48対2という圧倒的に不利な状況下で、久里浜と坂本は勝利してしまった。
弾丸をぶち込まれた参加者たちは、
「これだよコレ! こんな試合を見たかったんだよ!!」
「自衛隊は銃撃戦に弱いなんて話があったけど、全く嘘だったな」
「これなら安心してダンジョン問題も任せられる」
負けはしたが、とても満足そうだった。
座っていた坂本に、銃を抱えた久里浜が近づく。
「今日のホテル代、ちゃんと奢ってよね♪」
「はいはい、まぁ……小隊のイメージダウンに比べれば安い出費か」
「いえーい」
見上げれば、運営が飛ばしていたドローンが2人を撮影している。
とりあえず広報の身であるので、勝った嬉しさも込めてピースサインを上げてアピール。
ネットで生放送されていたそれは、新宿のテオドールと同様に非常に大勢を引き付けた。
関東の人口が、この2組を目指して大流動を開始。
新海考案の“ベルセリオン捕獲作戦”、その第一段階が図らずも成功した瞬間だった。
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