第220話・サバゲーデート
––––横浜
遂にサバイバルゲームフィールドへ辿り着いた久里浜と坂本は、早速受け付けを行っていた。
「2名で予約してる“黒電話連盟”ですー、よろしくお願いしまーす」
もちろんだが、使う名前はチーム名。
あまりにヘンテコなこの名前は、久里浜の弟がアドリブで発案した物。
本人いわく、特に理由や意味は無いらしいが。
「なんだよこの名前……、お前の年代は黒電話知らねーだろ」
「ヒント、隣国。2017年」
「あっ、もういい。これ以上は聞かん」
凄まじい地雷臭がしたので、坂本は元ネタに敢えて触れなかった。
とりあえず料金の支払いと誓約書へのサインを済まし、現在は坂本が使うレンタルガンを選んでいる。
壁に飾られたそれらは、非常に種類が豊富で––––
「どうする? 長くて重い銃と、軽くてスケスケな架空銃……どれでもあるわよ?」
このフィールドは、レンタルガンの豊富さが日本トップクラスだった。
しかも箱出しではなく、高性能なドットサイトが付いているので初心者に大変優しい。
「僕みたいな初心者は、とりあえず軽くて装弾数が多いのを選べば定石。店員さんもそうオススメしてたな」
「でもアンタのことだから、どうせ長くて重いのが好きなんでしょ?」
「まぁそうなんだけど、都合よく好みの銃があるかな……」
坂本が悩んでいると、ニッと笑った久里浜が遠くの棚から1挺の銃を持って来た。
銀色のそれは、本来であれば初心者お断りのエアガン。
「これなんてどうよ!『M14EBR』!! 重くて長くてクソ扱いづらいわよ」
この銃は、主に遠距離を狙うことを主としたマークスマンライフルで、とてもではないがCQB向けではない。
だが5秒ほど見つめた坂本が、グッと親指を立てた。
「グッジョブだチビ助、それに決めた」
どうやらお気に召したらしい。
荷物を持ってセーフティと呼ばれる待機エリアに行くと、既に大勢の参加者で賑わっていた。
初めて来る未知の空間に気押されていると、机に置いたバッグから久里浜が服を取り出した。
「ん? 着替えんの?」
「当たり前でしょ、こんな薄着でサバゲしたらアザだらけになるわよ。お肌的にも上下迷彩服が一番良いの」
「フーン、まぁそりゃそうか。でも僕は着替え無いんだけど」
「大丈夫よ、アンタみたいなのはストリート・スタイルで通せるから」
確かに周りを見れば、私服っぽい姿のサバゲーマーが大半だった。
みんなシャツとジーンズ、もしくはコンバット・パンツにチェスト・リグといった、露出はしっかり抑えめながらも比較的軽装。
っというか……。
「迷彩服のゲーマー、お前以外1人もいねぇんだな。なんかイメージと違う」
「最近はサバゲーってスポーツとして露出してるから、ああいうカジュアルなスタイルが流行なのよ。わたしみたいな迷彩服ゲーマーはCQBだともう殆ど残ってないわね」
「絶滅危惧種じゃん。まっ、こんな室内で迷彩効果もクソも無いしな。サバゲも合理化の時代か」
「寂しいけどそういうこと、じゃあわたし着替えてくるから」
更衣室に行った久里浜を見送った坂本は、とりあえずドリンクを飲むことにした。
大きいサーバーがあって、太っ腹にも飲み放題らしかった。
見れば、コンソメスープまであるではないか。
絶対後で飲もう……、そう思いながらオレンジジュースを2杯のコップに入れて席へ。
ついでに、よそ様の銃を見学しながら歩いてみる。
––––M4ばっかだな……、でもカスタムは結構面白い。自衛隊では見ないスタイルだ。
・9ミリ仕様のコンパクトM4。
・そもそもハンドガードが無い架空銃。
・米軍仕様のM4A1。
色や風味も独特で、しかも外見は本物と正直見分けがつかない。
本当に非日常な光景だった。
「おっ」
自席へ戻ると、もう久里浜が帰って来ていた。
さっきのようなオシャレ重視の私服と違い、マルチカムの迷彩服で全身を覆っていた。
茶色の髪は任務の時のように後ろでくくっており、どことなくガチ感が滲み出ている。
「おかえり、着替えんの早えな」
「こう見えても自衛官よ、着替えは素早く済まさないと」
「そりゃ結構なことで、ほい。オレンジジュース取ってきた」
「あんがと、こっちもアンタのマガジンに弾入れといたわ」
流れるように交換。
電動ガン用なのでマガジンは軽く、坂本からすれば若干慣れない。
しかし、見た目は本物の玩具というのは案外悪くなかった。
人に銃口を向けてはならないのは共通のルールだが、撃っても絶対に死なないので非常に気が楽である。
あとは弾速チェックと呼ばれる、BB弾の速度が法定内かを確認する作業だけ。
立ち上がったと同時に、2人の携帯が鳴った。
「おっ、テオドールちゃんが呟いたぜ」
「わっ、シュークリーム美味しそー。相変わらず可愛いわね〜」
そこには、テオドールとミーナの、ツーショット写真が映っていた。
ここまでは計画通り、非常に順調だ。
何気なくアイコンをタップすると、“第1特務小隊”のプロフィール画面へ飛んだ。
最初は50フォロー、5フォロワーだったそれが……。
「……ん?」
「あれ?」
まばたきする度に、フォロワー数が指数関数的に増えていくではないか。
50、100、200、1000、5000……勢いは全く止まらない。
「はっ、えっ……ちょ!?」
たった10分で、該当の呟きは「18万いいね」と「7万リポスト」を記録。
フォロワー数も、10万人を一気に超えた。
さすがに早過ぎる……、テオドール効果を完全に舐めていた2人だったが。
「あのー、すみません」
声を掛けられてようやく気づく。
自分たちは……、変装も何もしていないことに。
「自衛隊の久里浜士長と、坂本3曹ですよね!?」
見れば、周囲は2人の存在に気づいたサバゲーマー達でいっぱいだった。
日本を背負って戦う最前線の配信小隊、その勇名は坂本と久里浜にも当然あてはまった。
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