第218話・デート
––––渋谷。
某109と書かれた有名な建物の前で、透と四条は歩いていた。
気温は36度、真夏を彩るのに相応しい炎天下だった。
「ふぅ、本当に暑いですね……早くお店に入りたいものです。アスファルトが熱を反射して大変なことに……」
「マジでヤベーな東京の夏。ダンジョンの中とあんま変わんね〜」
「あの空間自体が、どうも東京の気候と同期しているみたいですからね……どういう理屈かは知りませんが」
錠前と真島が悪い談合をしている頃、2人はようやく服屋に辿り着いた。
某有名ブランド店で、透は普段入らないお店だったが……。
「さっ、行きましょうか」
機嫌の良さそうな四条に引っ張られて、一緒に中へ入る。
室内はガンガンに冷房が効いており、汗が一気に引いていくのがわかった。
店内を見て感心する透を見て、四条は思考する。
––––透さんは……、どんな服が好きなんでしょうか。
そう、透の好みだ。
今までは自分の好みで当然選んできた彼女だが、やはり若い乙女として……透に可愛いと思ってもらいたいのが本音。
成り行きでペアになったとはいえ、これはまたとないチャンスだった。
第3エリア攻略戦で、テオドールに言われた言葉を思い出す。
『ウカウカしてたら、透はわたしが頂いちゃいますよ』
「ッ…………」
テオドールはまだ実年齢13歳の子供だが、十分四条のライバルたるポテンシャルを持っていた。
それだけ美人であり、同性の自分ですら惹きつけられる魅力がある。
自分も頑張らねば……!
「透さんは何か買うものあるんですか?」
「俺なぁ……、特に無いかな。強いて言うならシャツくらいか? 外出が少ない自衛官の身分だし、服は1シーズンにつき1回買えば済む」
「まぁ男の人はそうでしょうね、じゃあこうしましょう」
前に出た四条が、美麗な顔で振り向いた。
「わたしの服を、透さんが選んでください」
「俺が!? 言っとくけどセンスねぇぞ……? っていうか」
顔を逸らした透が、ドギマギと答える。
「俺に選ばせたら……、俺の好みになるっていうか……」
「良いですよ、透さんが似合うと思った服を選んでください」
乗り気な四条に押される形で、早速服選びに入る。
駐屯地でもトップクラスの美人、しかもご令嬢に自分の好きな服を着てもらえるとなっては……さしもの透であってもドキドキするというもの。
だが同時に、責任感も湧いて来た。
「四条の雰囲気なら……、いつも着てそうなこういうのとか?」
透がまずチョイスしたのは、今四条が着ている物と大差ないコーデの服装。
言うならばガチガチの清楚系、だが四条は首を横に振った。
「それでは普段と変わりませんよ、言ったはずです。透さんの“好きな服で良い”と」
「ッ……!」
こうまで言われては、日和ってなどいられない。
向こうが言ってきたんだからと自分に言い聞かせ、透は思い切って本音をぶちまけてみる。
「ら、ラフな格好の四条とか……見てみたいって言ったら?」
透の緊張しかない問いに、四条は柔らかく微笑んだ。
「構いませんよ、透さんが見たいなら。試着は……汗が付きますが、どうせ全部買うので良いでしょう」
そう言って、彼女は何着かを選び取った。
すぐに試着室へ行き、透は前で待つことに……。
中で衣擦れの音がするたび、童貞の彼は心拍数を上げた。
「よしっ、開けて良いですよ」
「おっ、おう……!」
緊張の一瞬……。
覚悟を決めた透が扉を開くと、そこには普段のイメージと全く違う四条が立っていた。
「うおっ!」
いつもの明るい清楚系とは正反対。
黒いプリントシャツに、同じく黒色のショートパンツを合わせたフェス風コーデ。
帽子と中のシャツは白色でレイヤードしており、単調と言えばそうでもない。
お嬢様感溢れる四条がこんな格好をすると、ギャップで死にそうになってしまう。
何より普段はロング丈の物ばかりの彼女が、太ももまで剥き出しにした短めのズボン。
手足が本当に細く白いので、華奢さから来るバフが凄まじいことになっていた。
端的に言って、透の好みド直球である。
「ど、どうでしょう……意気込んではみましたが、似合いませんかね……? わたしなんかがこんなに足出して、はしたないでしょうか」
「いやめっちゃ似合う! 久里浜とは別方向で良い感じ!!」
「そ、そう……ですか? なら良いのですが」
「お、俺なんかが四条の着せ替えして良いのか不安になって来たよ……。お前の方こそ、文句とか無いか?」
「いえ、透さんが良いとおっしゃってくださるなら……全く構いません」
顔を赤らめて、再びドアを閉める。
視線が遮られた瞬間、四条はその場に座り込んだ。
––––褒められた!! 透さんに似合うって言われたぁ!! やったやった! もうこれは買うしか無いわよね!!? ここで恥ずかしいとか言ったら四条家の名折れだわ!!
心の中で叫び倒しながら、無表情を装って元の服へ。
「お待たせしました、じゃあこの店はお会計にしましょうか」
「おう、その……なんだ」
絞り出すような透の声に、四条は耳を傾けて……。
「可愛かったよ……、俺には勿体無いくらい」
「ッ!!!!」
四条の感情がオーバーフローした。
お互いに距離感を探り合う様子は、はたから見れば完全にカップルである。
そんなお洋服デートを楽しむ2人だが、ここで透と四条––––両方のスマホが振動した。
すぐさま画面を開き、内容を確認した透が笑みを浮かべる。
「おっ、テオが動いたぜ」
「あら……思ったより早いですね、じゃあすぐにお会計を済まして来ます」
「了」
駆け出す四条を見送りながら、透はスマホに視線を落とす。
目に入ってきたのは、世界的に有名な短文投稿アプリ。
アカウント名は––––“陸上自衛隊 第1特務小隊”
投稿されたポストの下部には、#東京、#異世界人旅行。
っと書かれていた。
早く皆さんにキャラデザを見せたいですね




