第215話・それぞれの休暇の始まり
いよいよ世間では夏休みも終わろうという頃、透たち第1特務小隊は久しぶりに日本本土へ帰った。
それぞれの班に別れ、市ヶ谷を起点に散開していく。
「じゃあ四条、まずは服から見ていくか?」
「はい、透さんがよろしいなら」
––––渋谷観光組、透&四条班。
この2人は特に目的があったわけではないが、もしベルセリオンがこっちに来ていたら……という想定で組んだ。
まぁ、真実を言うならば前回新宿はたくさん歩いたので、四条の要望で渋谷に決まったのだ。
透としても四条と過ごすのは悪くないと思ったので、自然にデートという形になった。
「久しぶりの休暇……、透さんとお出かけできて嬉しいです」
「そうか? そう言ってくれるとありがたいが」
「今日は存分に観光しましょう、わたしは兵庫にずっといたものですから……東京をまだ全然知らないんです。もちろん、ベルセリオンさんも探しますよ」
意気込む四条の格好は、新宿のときと同じノースリーブの服に、サイドの結び目がリボンのような形になったオシャレなロングスカート。
まさしく、ご令嬢といった雰囲気だ。
その容姿端麗さは、日々を過ごし慣れた透をしてもドキドキしてしまう。
やはり、普段迷彩服姿ばかりの美女が、こうして可愛い姿をしているとどこか落ち着かない。
「自衛官の性だな……」
「ん? 何か言いましたか?」
「いやなんでも! それよりほら、昼になる前に服屋回ろうぜ、俺も渋谷は滅多に来ないから楽しみなんだ」
◆
「フンフフーン♪、今日は何キルできるかなぁー」
「物騒な言い方すんなよ……、公共の場だぞ」
「今車両に誰もいないしセーフセーフ、それより荷物持って来たでしょうね?」
––––横浜サバゲ組、久里浜&坂本班。
こちらは完全に休暇モードで、現在は電車に乗って横浜市営地下鉄センター北駅、センター南駅より徒歩5分のフィールドに行こうとしていた。
インドアが醍醐味で、まさしく近接好きの彼女が大好きなサバゲーフィールドだ。
「持って来たけど、本当にゴーグルとかのアイウェアと着替えで良かったんだよな?」
「うん、弾やガスはわたしが持ってるし。アンタはレンタル銃でどんなエアガンが合うか吟味してみて」
意気揚々とする久里浜の格好も、四条と同じく前回同様。
肩出しの半袖シャツに、カジュアルタイプのショートパンツを組み合わせたもの。
白く細い足が収まる靴はスニーカーで、動きやすさと可愛らしさを両取りした彼女らしい服装だ。
おまけに四条と同じく、かなり良い匂いがするので坂本は童貞らしく情緒を乱されていた。
「お前、薄着過ぎないか? いつもそんな格好で出かけんの……?」
「1人の時はもうちょい露出控えめかな、でも今日はアンタが一緒だからちょっと気合い入れたー」
「どういう意味だよ……」
やはり情緒が落ち着かない坂本だった。
◆
「さて諸君、楽しい鬼ごっこの日がやって来たぞ」
––––新宿群狼組、錠前&特殊作戦群。
ここは以前中国工作部隊を葬った、縁起の良い?建物だ。
相変わらず人の寄りつかない廃ビルだが、その2階部分で錠前率いる特殊作戦群は集結していた。
「こうしてみんなが一堂に会するのは、結構久しぶりなんじゃない?」
「そうですね、前は確か……2024年のG7広島サミットが最後でしたか」
大きな荷物を下ろしたセイバーが呟く。
G7サミットとは、日本を含めた先進国のリーダーが集まって会議するビッグイベント。
日本は通常の警備に加え、特殊作戦群も万が一に備えて配備していたのだ。
「あぁ、あの時は闇サイトで募集掛けられた半グレ集団が相手だったか……」
「ニュースには乗りませんでしたが、あの時も楽しかったですね」
「銃を使う必要すら無かったな、まぁしょうがないか……サブマシンガンで武装した素人だったし」
そう言って錠前が床のバッグを開ける。
中から取り出したのは、『MP7A2』と呼ばれる、近距離専用の小型マシンガンだった。
錠前はこの間の第3エリア攻略戦で、魔眼の適応率70%で戦った後遺症のため、魔法の使用が困難になっていた。
「目標はベルセリオンの捕獲だ、絶対殺すなよ。おそらく魔力切れでロクに動けていないだろうから、まだ新宿にいると予想される」
「交戦規定は?」
「ベルセリオン以外の敵対勢力は皆殺しで構わん、一般人に被害が出そうになったら言ってくれ。半径1キロならギリギリ結界を張れる」
「了解」
「じゃあ僕はまず“会いに行くヤツ”がいるから、先行頼んだよ……みんな」
アーチャー、セイバー、キャスター、ウォッチャー、プリテンダー、アヴェンジャーの6名が、私服に装備をしこませ、一斉に動き出した。
◆
「久しぶりに来ましたね新宿、今日は思う存分楽しみますよ!」
「こ、ここが東京……なんて文明レベル。こんなの神の国じゃないですか。不安じゃないんです!? テオドール様」
––––新宿食べ歩き組、テオドール&ミーナ班。
エルフ特有の長耳をフードで隠した、千里眼のミーナはガタガタとおびえていた。
彼女はテオドールの護衛役として、今回の休暇に連れ出されたのだ。
「何も怯える必要はありませんよミーナ、日本人は親切な人が多いですから」
そう言って歩き出したテオドールは、白色のフード付き半袖と、イエローのショートパンツという格好。
銀髪は非常に目立つので、正体がバレないよう髪はフードへ格納している。
「さぁ、食べ歩きスタートです!」
「ま、待ってくださいよテオドール様ぁ!!」
各々の個性的な休暇が始まった。




