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第210話・奇妙な噂と一本釣り

 

 ––––ダンジョン内、ユグドラシル駐屯地。


 朝鮮半島で激しい戦闘が起こっている頃、本来であれば戦闘の最前線であるはずのダンジョン。

 こちらは逆に、妙な安寧を維持していた。


 正確にはまだあちこちにモンスターは出現するし、ダンジョン運営という敵勢力も健在な訳だが……。


「なんか暇っすねー」


「そうだな、良いことだ」


 第3エリア攻略成功によって、透たちは本土と変わらない平和な休暇を送っていた。

 ベッドで寝ながらスマホゲーをしていた坂本が、表情を変えずに呟く。


「でも今回の攻略戦、結構ハードでしたよね?」


「あぁ、実際……かなり危なかった。みんなも頑張ってくれたし、近いうちに労いの会を開いても良いかもな」


「それ良いですね、僕お店探しときますよ。外泊許可出ればですけど……」


「外に出られれば良いんだが、まぁ駐屯地内で配信しながらみんなでパーティーってのも悪くないかな」


 坂本がゲームに興じる中、透は机でパソコンに向かっていた。

 作成しているのは、当然だが今回の件の報告書である。


 小隊長として、今日中に仕上げて錠前1佐に渡さねばならなかった。

 しかし、既に3時間ほど集中して作業していたので流石に疲れた。


「坂本、冷蔵庫からコーラ取ってくれ。糖分欲しいからゼロカロリーじゃない方で」


「了ー解っ」


 スマホを置き、冷蔵庫の扉を開く。


 炭酸にも関わらず、坂本は躊躇なく缶を投げた。

 落としたらゲームオーバーなそれを、透は慣れた手つきでキャッチ。


 すぐにカシュッと蓋を開け、中の甘いコーラを喉に流し込む。

 休憩と言うことで、ニュースサイトをザーッとながら見していく。


「仁川で邦人に中国がミサイル攻撃……、いよいよヤバくなって来たな。各国も動きが不穏だ」


「ダンジョン問題は世界中が注目してますから、特に中露北の同盟は看過し難いでしょう。やっぱり……」


「あぁ、第3エリアで戦った陳大佐……奴が問題だな」


 缶コーラを机に置く。

 実際に戦った久里浜によると、近接戦闘術は彼女に匹敵するかそれ以上。


 現に、久里浜は1発腹に蹴りを入れられただけで吐いた。

 彼女いわく、「痛すぎて一瞬死んだかと思った」と言っていたので、奴個人の実力は相当なものだろう。


 間違いなく特殊部隊出身者だ。

 あの時錠前1佐が来てくれなかったら、本当にヤバかったと言える。


「んー」


 ニュースをさらに見ていると、中国の空母打撃群が太平洋に展開を開始したとの情報もある。

 今はまだ戦火が日本本土に及んでいないが、時間の問題かも知れない……。


「なぁ坂本、中国って今何隻空母を持ってたっけ?」


「『遼寧』、『山東』、『福建』の3隻ですね」


「錠前1佐から聞いたんだけど、統幕はこのどれかを艦隊ごと沈めるつもりらしい……どうやるかは知らんが」


「邦人攻撃への報復ですかね? まぁ自衛隊が上海の金融市街を空爆するわけにも行きませんし、ある意味妥当かもしれませんね」


 こればっかりはダンジョン専門の自分ではどうしようも無いので、海さんと空さんに任せるしかない。

 椅子ごと振り向いた透は、ふと思い出したことを呟く。


「そういえば話変わるんだけど、最近妙な噂話を聞いたんだ」


「噂……ですか」


「あぁ、なんでも第3エリア攻略直後から……“心霊現象”が多発してるとか」


「まさか、ここは旧軍施設でもなければ戦死者も出てない新築ですよ? ましてやダンジョン、幽霊騒ぎとは最も縁が遠いんじゃないです?」


「最初は俺もそう思ったんだが……、四条も昨日遭遇したらしい」


「四条2曹が?」


「あぁ、洗面所で寝る前に歯を磨いてたら、鏡越しに背後で“女が立っていた”って」


「ウゲッ……、結構ガチなやつじゃないすか」


「慌てて振り向いたらいなくなってたらしいが、5分くらいその場を動けなかったってよ」


 四条も久里浜もかなり強いが、自衛官である以前に女性だ。

 サバっとした男子2人や、狂い切った最強の上官と違って心霊現象には弱い。


「っと言うわけで、早急に対策を取ろうと思う」


「何か妙案でも?」


「ここはダンジョン、元々は執行者の管轄領域だ。テオに聞けばなんかわかるかもしれん」


「テオドールちゃん、前の戦いで瀕死になってませんでしたっけ? エクシリアとかいう敵にやられて」


「異世界人だからかな……、一晩点滴しながら熟睡したら完治したよ。アザ1つ残ってない」


「執行者って凄いっすね……」


 感心する坂本の前で、透は何やら準備を始めた。

 適当に取った棒へ、釣り糸を絡めていく。


 謎すぎる行動に、思わず坂本は尋ねた。


「何やってんすか?」


「ん? 釣りの準備だけど」


「ここ海じゃないですよ……?」


「まぁまぁ、そこのドーナツ取ってくれ」


 言われた通り渡すと、それを糸の先端にくくりつけた。

 針の無い釣竿が完成する。


「じゃあ坂本。このドーナツを見ながら美味しく食べるイメージを、脳内で想像してみてくれ。強く念じる感じで」


「はっ、はぁ……」


 何をやりたいのかサッパリわからないが、透がやれと言えばどんなことでもやるのが、坂本という男だ。

 自分が美味しく食べてる絵面を、脳内でしっかり錬成。


 一方の透は、そんなドーナツが吊られた釣竿を椅子に座りながら宙に垂らしていた。


 成人男性2名による、迫真の行動。

 誰がどう見てもおかしい光景だが、答えはすぐに現れる。


「え?」


 それまで何も無かった空間に、眩い光が現れたのだ。

 徐々に形を作って行き、やがて光の中から銀髪の少女が出てくる。


「はむっ!」


 透が垂らした釣竿のドーナツに食いついたのは、金色の瞳を輝かせた、至って真面目な表情の執行者テオドールだった。


「はい、釣れた」


腹ペコの異世界人を釣りたい時にどうぞ

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― 新着の感想 ―
[一言] 外道釣り……
[一言] 甘味で釣るってのはよくありがち(本当に釣り竿使ってたりもたまにある)だけど殆どは匂いを嗅ぎつけてくるわけなんだが、テレパシーを疑似餌にする釣り手に加えて、それを察知して空間転移してエサ呑み込…
[一言] 配信中ならエサ代投げるレベルwww
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