第205話・国際社会の反応
ダンジョンと中露北の3国が同盟を結んだ事実は、透たち第1特務小隊の配信によって赤裸々にされた。
当然全世界から猛反発が発生しており、配信直後にはヨーロッパでちょうど会合中だったG7外相全員から、中国、ロシア、北朝鮮への断固とした批判が浴びせられた。
これを受け、中国外務省はまたもでっちあげを行うと思われたのだが……。
「中国は日本政府がダンジョンと呼称する地域を、1つの“国家”として承認する方針である。日本の不当な侵略を受けるダンジョンに対し、我が国は平和のため––––いかなる支援もためらわない」
なんと、中国は事実を認めるどころか、自らを正当化する方向に舵を切った。
そして、同様の声明は……示し合わせたようにロシアと北朝鮮からも発せられた。
「ロシア連邦は、日本の帝国主義的行動に警鐘を鳴らすため行動したに過ぎない。これは国際的にも合法の行為であり、日米を始めとするNATO諸国が自重しない限り、我が国は断固として平和維持に務める」
ロシアに至ってはこれに加えて「ダンジョンとの関係性を非難するなら、ナチズムと現在も結託する欧米も自らを罰せなければならない」と、ウクライナへの支援停止すら絡める始末。
2022年から続くウクライナ戦争によって、ロシアは既に疲弊しきっていた。
自慢の高性能防空システムS-400は、アメリカが供与したATCMS地対地ミサイルによって壊滅。
航空優勢を徐々に失った露軍は、ドネツク以東にまで前線を押し返されている。
ロシアはもう、ダンジョンからもたらされる未知の力と資源、そして中国の協力無しではとても立ち行かないのだ。
この三国の動きは国際社会にさらなる波紋を広げることになった。
アメリカのホワイトハウスは即座に声明を発表し、これに対する強い懸念と非難を表明した。
「合衆国は中国、ロシア、北朝鮮がダンジョンとの同盟を結んだことを最も強い言葉で非難する。この行為は国際法を無視し、地域の平和と安定を脅かすものだ。アメリカは同盟国と共に、必要な全ての措置を講じてこれに対抗する」
さらに、国連でも緊急会議が招集され、各国の代表が次々と非難の声を上げた。
国連事務総長は特別声明を発表し、この同盟が国際社会に与える影響について警告した。
「このような同盟は、国際社会の調和と安全を損なうものであり、断じて容認できない。国連は引き続き、全ての手段を講じてこの脅威に対処する」
欧州連合(EU)も一致団結して、中国、ロシア、北朝鮮に対する経済制裁の強化を即座に決定。
これにより、三国の経済はさらなる圧力を受けることとなった。
だが一方で、ダンジョンからもたらされる未知の力と資源に対して、他の国々も関心を寄せ始めた。
主にインドを中心とした、アフリカ連合やASEAN東南アジア連合。
他にも南アメリカと言った、いわゆるグローバルサウスと呼ばれる国々だ。
これら各国は、実に多様な反応を示した。
「我が国は中国と根強い関係にある、ここでアメリカに対抗して支援すれば国益になるのではないか?(パキスタン)」
「冗談じゃない! 中国に入札した高速鉄道で散々な目に遭ったのに、これ以上入れ込んでなんになる!(インドネシア)」
「だが依然中国とロシアは強国だ、上手く行けばダンジョンの恩恵が手に入るかもしれない(ブラジル)」
っと、共産圏との外交的に密接な国々は国連の非難決議を棄権。
だが軍事力で日米欧には歯が立たないので、コッソリ支援する形でダンジョンを狙った。
一方で、その反対の意見を持つ国も多かった。
「30年後を考えれば、日本を支持した方が国益になるだろう。わざわざ列強に睨まれてまでリスクを負う必要は無い(フィリピン)」
「我が国は日本の主権を支持する、他国領土内の紛争勢力に独立を認めるなど、決してあってはならないことだ(ウクライナ)」
「3国の行動を強く非難する、これは独立国家への干渉行為すら超えた、もはや侵略行為だ!(ベトナム)」
「どちらが帝国主義的かなど、世界はとうに知っている(台湾)」
こちらは中露北への経済制裁にも協力しており、日本への支持を固めた。
様々な思惑が入り混じる国際社会だが、日本政府も黙ってはいない。
「我が国は3国の判断に遺憾の意を伝えると同時に、追加で新たな経済制裁を行うものである。日本は国際法を遵守し、我が国が持つ主権によってダンジョン問題を解決していく。これに他国が敵対的な干渉を行った場合、“相応の措置”を取ることを明言する」
日本政府は、ダンジョンの安全確保と探索を進めるために、追加で特別委員会を設立……各国との協力体制を強化することを発表した。
「ってのが……、今の国際情勢か。どうりで政府が邦人救出を焦ってるわけだ」
仁川港に停泊した海上自衛隊、大型輸送艦『おおすみ』の艦内で、群司令官が呟いた。
手に持ったスマホで、ニュースを眺めていたのだ。
「群司令、現在収容率58%です。あと3時間もあれば第1陣を乗せられるかと」
「そうか、わかった。佐世保からはなんか言ってきたか?」
報告に来た『おおすみ』艦長は、そのまま続けた。
「本輸送群と入れ替わる形で、『くにさき』を旗艦とした第2輸送群が来るとのことです」
「稼働可能な全輸送艦を動員か。総力戦だな……、しかし。わざわざ国連旗を掲げなきゃならんもんかねえ」
彼の乗る『おおすみ』や他の護衛艦も、みな一様に旭日旗と並んで国連旗を大きくなびかせていた。
理由は単純で、反日感情の強い韓国への配慮だ。
韓国は最近こそ対中国の同志国とはいえ、未だ過去のことを根に持つ国民が多い。
よって、最初邦人救出のためであっても「旭日旗を掲げる軍艦には相応の処置を取る」と言われてしまったのだ。
ここで、日本政府は奇策に出た。
韓国へ向かう艦隊をアメリカに頼んで、臨時に国連軍へ編入。
さらには国連軍の米艦を護衛に付けることで、韓国を黙らせたのだ。
これは2017年に策定された案で、まさかここで使う日が来るとは誰も思っていなかったが……。
「邦人の乗艦、あと1時間で完了の見込みです」
「わかった、ちなみにだけど……スパイとか紛れ込んで無いよね?」
「身分証明書とパスポートのダブルチェックです、佐世保でも検査をするので大丈夫かと」
「そうか、なら何も心配することはな––––」
––––カーンッカーンッカーンッ––––!!!!
けたたましい艦内警報が鳴り渡った。
放送が流れる
『米軍より急報! 中国本土から戦闘機部隊が接近中!! 標的は––––ここ仁川!!』
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