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第203話・第3エリア攻略完了

 

 佐世は息も絶え絶えのまま、錠前の冷酷な言葉を聞きながら、目の前の現実を受け入れるしかなかった。


 彼女の心には、絶望と怒りがひたすらに渦巻いていた。

 錠前の足が体を踏みつける痛みが、何よりも深く彼女の精神を傷つける。


「私が……、こんなところで……」


 佐世は必死に抵抗しようとしたが、体はもはや動かなかった。

 アノマリーの圧倒的な力の前に、自分の無力さを痛感する。

 しかし、彼女の心の奥底にはまだ希望の火が残っていた。


「まだ……終わらない……。きっと中国が助けて……」


 彼女は最後の力を振り絞り、錠前の足を掴んだ。

 一瞬驚いた表情を見せたが、すぐ冷笑に変わる。


「まだ諦めないのか……立派な精神だけど、今時流行んないよね」


 そう言って錠前は、踏みつけた足裏から魔法を発動し続けた。


「今––––君の体は僕の魔法によって死ぬ速度を極限まで遅くされている。時間がない、答えろ」


「なっ、ぐ……」


「お前が関わった外国人の名前、全部答えろ。そしたら助けてやるのを考える」


「ッ!?」


 差し伸べられた救いの手は、佐世に究極の選択肢を突き付ける。

 己の思想を排し、忌むべき男の手によって生きながらえるか……このまま死ぬか。


 さっきまで興奮状態だった彼女は、途端に身体が冷えていくのを感じた。

 それは陶酔によって忘れていた、“死の恐怖”。


 矢継ぎ早に、佐世を疑問が襲った。


 ––––なんで陳大佐は助けに来てくれないの?


 ––––なんで加勢すらしてくれなかったの?


「あっ……、あぁ……」


 ようやく気づいた。

 自分は都合よく利用されていただけなのだ……。

 陳大佐は、最初から北京のポストなど用意していなかった。


 佐世を使い、錠前の強さを検証するという道具として利用されたに過ぎない。

 世界で一番クリーンで、自由な国。


 佐世の中で確固たる地位を築いていたこの認識は、一般人から言わせれば“幻想”である。

 脆く儚い、極めて偏った情報弱者の見る夢……。


「君は中国人に理想を抱き過ぎたんだよ、連中はインドと同レベルで自己中心的だ。同時に……彼らは裏切り者を最も信用しない」


「…………ッ」


 チェックメイト。

 体も心も、ジャーナリストとしても……佐世は完全に敗北した。

 心臓が止まっていく。

 

 死の恐怖が全身を襲い、生への渇望が顔をのぞかせた。


「ち、陳大佐……中国国家安全部のエリートよ。ロシアからはスペツナズのセルゲイ少佐。北朝鮮も李大尉という人間を派遣している……」


「3人か?」


「主要なのは、ゲボっ……その3人よ。アンタの言う通り喋ったわ。お願い……」


 血の塊を吐きながら、佐世は涙目で懇願した。


「私を助けて……、おかげでっ、今やっと真実に目覚めたわ。中露も北も最初から信頼なんてしてなかった。記事も今度は真実を書く、だからお願い……」


「…………」


「助けて……くださいっ」


 本気の言葉、紛れもない本心。

 これらの言葉を受けて、錠前は極めて優しく微笑む。


「ダメ」


「ッ!!!?????」


 錠前が指を横になぞると、地面ごと佐世の首が切断された。

 なんの感慨もなく、国家を裏切った犯罪者を暗殺する。


 噴き出した血を避けつつ、彼は呆れ顔で続けた。


「助けるのを”考える“のであって、確約したわけじゃない。君は罪を犯し過ぎたよ」


 踵を返し、すっかり銃声の収まった城内を歩きながら彼は携帯を取り出す。

 ただのスマホではない、秘匿通信用の小型衛星携帯だ。


 呼び出し音が3回鳴って、相手が出る。


「もしもし雄二(ゆうじ)? 久しぶりー、大親友の錠前勉だよー」


『間違い電話です、お掛け直しください』


 かなり低音での否定に、錠前は「つれねー」とぼやく。


「間違いじゃないよ雄二、防衛大で君が任官拒否した時以来……かな? 元気にしてた? 30超えた?」


『まだ29だ、っつか誕生日くらい知ってっだろ……。用が無いなら切るぞ。国家機密にも等しい俺の番号に気安く掛けて来やがって』


 雄二と呼ばれた不機嫌そうな男に、錠前は頬を吊り上げながら呟いた。


「中露北の3国がダンジョンと手を組んだ。もう世間は大騒ぎだろうが、明日からはさらに拍車が掛かるだろう。メディアへのリーク前にお前に教えておく」


『……マジか』


「大マジ、雄二も良い加減よさげなポジションに就けたでしょ? ”公安“の方でもそろそろ動いてよ」


『あのなぁ勉ぅ……、官公庁ってのはお役所だからすぐにはキツい。第一……俺ら公安が一介の自衛官の指示で動くわけには––––』


「今すぐ使える部下を動かせ、反論する上も説き伏せろ。日本という国を10年後にも残したかったらな」


『…………お前は相変わらずイカれてんな、自衛隊に行かなくて良かったよ。新宿の一件で外事課も余裕は無いし、そんな超大事な案件……俺は関係ない』


「国の金で大学を卒業させて貰ってるんだ、少しは義理があるはずだろ」


『……チッ、わかったよ』


「それはそうと、近々また東京に降りるからご飯でも––––」


 衛星携帯の通話が切られた。


203話を読んでくださりありがとうございます!

第3エリア攻略戦は以上となります、お疲れ様でした!


次回からは新たな湧き出る資源や、とうとう世界に暴露された中露北の3国を絡めた地球視点のお話を進める予定です。

もちろん、ほえや灰皿、特務小隊のみんなもどうなるかお楽しみに!!


「少しでも続きが読みたい」

「面白かった!」


と思った方は感想(←1番見ててめっちゃ気にしてます)と、いいねでぜひ応援してください!!

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[良い点] 佐世の死にざまが気に入った、色々なが裏切りストレスになっていたので・・・ [気になる点] 錠前の進化が段違い過ぎて主人公が困りそう。 [一言] 今後も期待しています。もっと更新をしてくださ…
[一言] さよなら佐世さん!次に転生するときはちゃんと勉強しような。 こんなヒトカスでもちゃんと使いこなす陳大佐はにくいあん畜生でありますな。
[良い点] 手のひらくるくるのテロリストは生かしておく理由ないんよw 大親友殿は少しばかり泣いて良いけど友情って素敵ね!(白目
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