第200話・炸裂、錠前1佐無力化プラン
突如現れた現代最強の自衛官は、ライフルすら持たず透たちの前に立った。
それは、本来あまりに危険な行為。
しかし……錠前はまるで気にも留めていなかった。
まるでそれが当然であるかのように……。
「お待たせみんな、遅れてしまってすまない……情報共有を怠った僕のミスだ」
「錠前1佐……、魔眼の適応がまだ済んでなかったんじゃ? しかも何故ここに」
疑念しか無い透に、錠前は飄々と返した。
「あぁ、だから作業率70%くらいで切り上げて––––ここまで“走って”きた。配信で見ててちょっとヤバそうだと思ったからね」
「ははっ……」
あまりにも規格外。
最強の上官の到着を、透も今は歓迎しようと思考。
そして、自衛官のしがらみに囚われた自分たちでは……邪魔になると即座に判断。
「全員後退! ここは錠前1佐に任せて下がるぞ!!」
透がテオドールとベルセリオンの2人を抱え、全力でダッシュ。
四条、久里浜、坂本や10式の隊員たちもその隙に塔を脱出した。
残されたのは、錠前と佐世の率いるパワードスーツ部隊のみ。
静けさを破って、鋼の音が響いた。
「私たちが侵略者ですって……? 認知の歪みも甚だしいわね。自衛隊が今どれだけ世界に迷惑を掛けているかわかってないの?」
再び剣を構える佐世に、錠前はケタケタと笑いながら返す。
「中露北の三国を世界と表現するなら間違ってないが……、生憎。世界はもっと広いんだよ? アメリカとか行ったことないの?」
「ほざきなさい、あなたが来るのは陳大佐にとって万一の想定内よ」
そう言った佐世の脳内で、数時間前にした会話が蘇る。
『現代最強の自衛官……、錠前勉を知っているかい? 佐世さん』
『錠前……忘れもしないわ、わたし達を1週間も駐屯地に監禁したイカれた男。あんなのが自衛官だなんて、いよいよ日本もおしまいね』
『そうだ、だから我々にはそんな終わってしまった国家にトドメを刺す義務がある。慈悲と寛大な心による優しい処置だ……』
『フフッ、さながら自分を元気と勘違いする老人への介錯ね』
『さすがジャーナリストだ、言葉の使い方がお上手で』
『おっほほ。しかし随分大仰に言うけど、ただの自衛官じゃないの? アナタ達の部隊がなんかこう……遠距離から狙撃するとかで暗殺できないわけ? 映画みたいに』
『それができたら苦労はしないな、例え我々が奇襲的に彼の家へICBMを撃ったとしても……仕留めることはできないだろう』
『人間でしょ? いくらなんでもそんなフィクションみたいな––––』
『それがあり得るのが錠前という男だ、じゃなければ君を頼ったりしない』
『なるほど、だから私にこのスーツへ乗って欲しいのね?』
『そういうわけだ。日本の自衛官が国民に銃口を向けることは許されない、それはあの錠前勉であっても例外ではなく、佐世さん……貴女が彼の前に立てば、万一ヤツが来ても一方的に討伐できるだろう』
陳大佐は、錠前勉の規格外の強さを沖縄で知っている。
だからこそ彼は離反した佐世を北京のポストで釣り、日本人同士の戦闘状態へ持って行った。
これこそが、用意していた対錠前の決定的切り札。
日本人を前にすれば、それが例え腐ったミカンだろうと……錠前勉を無力化できる。
「なーんて、浅い考えで国を売ったんだね」
「ッ!!?」
錠前はそんな自身に対する無力化計画を、1つの間違いもなく言い当てた。
その上で、彼は言葉を続ける。
「確かに僕は自衛官だ……、国民に銃を向けることは許されない。無力化案としてはよくできてるよ」
唯一装備していた拳銃を取り出すと、彼はマガジンをアッサリ抜いた。
「僕ら自衛官に日本人は撃てない、あの中国人もなかなか侮れないね。ちょっと驚いちゃったよ」
「フフッ、なら大人しく降参することね……今なら言い訳くらい聞いてあげるわよ?」
スライドを引いて残弾を排出すると、錠前は拳銃を放り捨てた。
鉄の音が鳴り渡ると同時に、彼の背後からドス黒い魔力がゲラゲラと笑うように溢れ出る。
「勘違いすんなよ」
あまりにずば抜けた殺意と魔力に、パワードスーツが警告音を鳴らす。
これは、相手の魔力量が本気のエクシリアを超えたラインで設定しているため……本来聞くはずの無かった音。
「この程度の愚策で僕を無力化できると思った、そのおめでたい発想に感嘆してんだよ」
「ッ!!?」
錠前が足裏で地面を叩くと、全長数キロにも及ぶ拠点を『魔法結界』が覆った。
「あいにくと僕は特殊な訓練を受けていてね……」
ファイテングポーズを取り、両手に魔力を宿した錠前が一言発した。
「マスゴミなら本気で殴れる」
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