第198話・陳大佐VS第1特務小隊
本日は大盤振る舞い! 2話同時更新です
「こいつ……!!」
絶対に当てたと思った弾丸を避けられた久里浜は、思わず舌打ちをする。
すぐさま照準を直し、第2射を放とうとして––––
「新宿で鹵獲した武器か、ロシア人め……つくづく役に立たん連中だ」
撃てなかった。
あまりに速い速度で、陳は久里浜に接近したのだ。
「クソッ!!」
「ショットガンの有効射程は10〜100メートル、良い判断だったが……」
信じられない攻撃を繰り出す。
防御しようとした久里浜へ、陳は柔軟な足でSAIGAショットガンのマガジンリリースレバーを蹴った。
重いドラムマガジンがロックを外され、自重で落下すると同時––––
「よっ」
鋭い掌底突きで、コッキングレバーを叩いて往復させた。
チャンバー内に残っていた弾丸が吐き出され、久里浜のショットガンが僅か1秒で無力化される。
だが久里浜の動きも負けていない。
ショットガンが使えなくなったと判断した瞬間、即座にナイフを振り抜いた。
潔く弾の入っていないSAIGAを捨て、得意の近接戦闘へ移行。
一般隊員とは一線を画すナイフ捌きに、陳は思わず感動した。
「良いね! そう来なくては……」
もちろんそれを誰もが見ているだけではない。
側面に回り込んだ坂本が、ヴィントレスを構えてセミオートで射撃を行った。
「ほう」
それらは陳の回避先を読んで撃たれたもの。
動かなければ、当たらない弾丸だった。
陳大佐は冷静に分析し、第1特務小隊の練度の凄まじい高さに唸る。
「なるほど、私の動きを封じ……彼女のナイフを当てる算段か。悪くない」
「ウチの非モテ陰キャを舐めないでよね!」
「誰が非モテだ」と胸中で思う坂本が生んだチャンスを、みすみす逃す久里浜ではない。
生じた隙を狙って、陳の首へナイフを突き刺そうとして––––
「っ……肝が座ってるわね!」
「そうでもなければ、14億のトップ。中国最強は名乗れないよ」
陳は自身の右腕を盾にし、ナイフをワザと受けることで致命傷を避けた。
すぐさま出血を狙って引き抜こうとするが、陳はそんな久里浜のさらに先を行っていた。
彼女の腕を払い、強烈な回し蹴りをカウンターでお見舞いしたのだ。
「げぼっ……!!」
腹部に足がめり込む。
ゴリラに殴られたような威力をまともに受け、久里浜はたまらず嘔吐した。
「無理するなよ、まだ19歳のガキでしょ?」
そう言った陳は、すぐに余裕を崩された。
「ッ!!」
「だぁああ!!」
蹴り飛ばされた久里浜とスイッチする形で、銃剣を持った四条が突っ込んで来たのだ。
ほぼ同時に、弾切れのヴィントレスを捨てた坂本も接近してくる。
どちらかをガードすれば、どちらかを食らう。
死の選択肢を突き付けられた陳は、脳内ニューロンの限界伝達速度で判断。
「やるねっ」
繰り出したのは、狂気的な笑み。
そう言って、陳は四条のナイフ攻撃を既に負傷した右腕でもう一度防いだ。
銃剣が2本も刺さった形だが、彼は顔色1つ変えずに反撃。
「あぐッ!?」
四条の細い首を掴むと、恐ろしい剛腕で坂本めがけて放り投げた。
「うおっ!?」
当然避けることなどできず、2人して地面を転がる。
「私はね、強者が覇者らしく振る舞える世界を作りたいだけなんだ。そのためにはダンジョンだろうとなんだろうと––––」
刺さっていた銃剣を引き抜き、そのまま逆手で持ち替える。
出血などお構いなしなところから、普通の状態でないのは明白だ。
真後ろから奇襲を掛けた久里浜を、華麗な剣捌きで迎撃する。
「とことん利用させて貰うだけだ」
「アンタ……!! 何者なのよ!!」
「ただの愛国者さ、まぁ……君たちの上司。錠前勉よりかはいくらかマトモだろうけど」
「それは否定できないわね」
再びカウンターを行う陳だが、同じ攻撃を2度も食らうほど彼女の練度は低くない。
「四条先輩!!」
久里浜が叫ぶと同時、満身創痍で起き上がった四条が腰のSFP-9拳銃を発砲。
数発が、陳大佐の胴体に命中。
そこへ追い討ちを掛けるように、今度は久里浜が回し蹴りを敵の顔へお見舞いした。
鼻血が噴き出す。
「中華思想ってやつ? 古臭いわね……西暦を数えなおせ!!」
仰け反った陳へ、久里浜も装備していたG17自動拳銃を発砲。
マガジン内の全てを、相手の顔面へ正確に撃ち込んだ。
硝煙が晴れる頃……、久里浜は思わず歯軋りした。
「魔法が使えるダンジョンと組んでるんだから、そう来るわよね……」
陳大佐は体内の弾丸を排出しながら、感嘆の意見を漏らす。
「チッ……私に非常手段を使わせるとは、やるじゃないか自衛隊。推し量るに……君たち個人の強さは、認めたくないが一般的な人民解放軍兵士の10倍はあるようだ」
「そりゃどうも、確かに今のは度肝を抜かれたけど……」
拳銃をリロードした久里浜と四条が、銃口を向けた。
「想定内ね、そう何度も使えないでしょ? さっきの再生する能力」
「あぁ、そもそも今戦ってわかった……」
陳大佐は、舐めるようにその場の全員を見た。
「私1人では、現時点だとどうやっても君たちに勝てないらしい……。錠前勉だけ警戒すれば良いかと思ったんだけど、誤算だったな」
「問答する気はありません、今ここで死んでください」
時間稼ぎすら許さず、四条が発砲するも––––
「ッ!?」
放たれた9ミリ弾は、全て出現した魔導防壁によって防がれていた。
見れば、血を拭ったエクシリアがヨロヨロと立ち上がる。
「回復はできたかい?」
「おえっ……こほ。ギリギリ、死なない程度にはねぇ……、けどこれ以上は無理そうだわ。テオドールのことを言えたもんじゃない……」
「私も同意見だ、じきに自衛隊の本隊も来るだろう……認めたくないが、ここは我々の負けらしい」
素直に敗北を認めた陳を、このまま逃すまいと透は動こうとするが……。
「四条!! 久里浜!! 下がれッ!!!」
「「ッ!!」」
彼の指示で2人が後方へ下がると同時、空の覗く天井から何体もの異形が降ってきた。
それらはモンスターではなく、四条が最初に遭遇した魔導パワード・スーツ。
体格は7メートル以上あり、甲冑をそのまま大型化したようなデザインだ。
そして、中央のスーツに乗っていた女の顔に、透は見覚えしかなかった。
「遅くなってごめんなさい、陳大佐。真打ち登場よ」
舐め腐り、調子に乗った声でそう言ったのは––––朝川TV新聞記者の佐世だった。
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