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第196話・魔法に驕った者の末路

 

 ・テオドールが本来持てる以上の魔力。

 ・眼前に現れた、そんな彼女の新しいマスター。

 ・そしてその男は、眷属たるテオドールと同質の魔力を持つ。


 以上の事象から、エクシリアは冷静に仮説を構築していた。


「アノマリー……錠前勉とは、また別の異質な存在。テオドールが本来持つ以上の魔力を使えた理由はこれね」


 咄嗟に思い浮かんだのは、マスターと眷属間の魔力シェア。

 テオドールがいつでも使える形で、外付けの魔力をマスターであるこいつにストックしていたのだ。


 そして、この男が今……そんなテオドールが使い切れなかった魔力を使用している。

 契約内容の拡張、誓約の賢い使い方……やはりテオドールは侮れない少女だと感じた。


 同時に––––眼前の日本人も。


「貴方……名前は?」


「新海透、それ以上は教えん」


「フフッ、十分よ」


 つまりこの新海透は、ただの日本人ではなく……もっと特別な存在だったのだ。

 彼の持つ魔力は、一見すると錠前とは違う特異なもので、透自身がまだ理解していない力をも秘めていた。


 目覚める前に、殺しておきたい。

 四条と10式から放たれた銃撃をかわし、エクシリアは質問する。


「あなた、どうしてテオドールを眷属にしたの?」


 エクシリアの問いに、透は全速で追いかけながら答えた。


「腹空かした女の子を、保護せず見捨てるクソ野郎がどこにいる」


「そうね、愚問だったわ」


 エクシリアはその回答に冷静さを保ちながらも、彼の言葉に隠された真意を探ろうとする。

 その間、透は銃剣を持ち直し……テオドールの位置を再確認する。


 この距離なら、巻き込む確率は少ない。


「じゃあその力……、見せてもらおうかしら」


 エクシリアが言葉を終えるや否や、彼女は魔力を全身に纏い、再び透に襲い掛かる。

 透は冷静に対処を試み、20式小銃から外した銃剣を巧みに使った。


 彼女の攻撃を、魔力由来の動きで次々と防いでいく。

 彼の銃はここに来るまでで弾切れを起こしており、文字通り剣1本での戦いだった。


 その様子を見ていた四条もまた、降ろしたベルセリオンの安全を確認して応戦を開始。

 その時––––四条の脳裏に、雪山で交わされた約束が過ぎった。


『わたしが死にかけた時は、どうかマスターを助けてあげてください』


「ッ!」


 すぐそこを見れば、瀕死のテオドールが苦しそうな表情で寝かされている。


 彼女は、この状況になることをきっと予期していたのだろう。

 それでもなお恐怖を一切見せず、いつもの明るい表情で頼んで来た。


 一体どれだけの度胸と勇気があれば、そんなことができるのだろう。

 そして、そんな優しく可愛い少女を瀕死に追いやった眼前の執行者へ––––四条は本気の怒りを見せた。


「透さん!! 1対1は危険です! 10式と協力して可能な限り連携を!」


「わかった!!」


「あのガキは……!! どう謝って来ても私が許しませんッ!!」


 鍔迫り合いの横から、四条が20式アサルトライフルをフルオートで撃ち放った。

 飛翔した弾丸は、その殆どがエクシリアへ命中。


 彼女をノックバックさせた。


「やっぱり」


 マガジンを高速で交換する四条。

 エクシリアに命中した弾丸は、まるでゴム弾を当てたような感触で跳ね返される。


 だが決して無敵ではないと、彼女は直感で理解していた。

 その証左として、隙を嫌がったエクシリアが再び距離を取ったのだ。


 透と並ぶ形で、相手を睨みつける。


「簡潔に聞きます、今の透さんは魔導士に近いという認識で良いのですね?」


「あぁ」


「だったら作戦は単純です」


 手榴弾のピンを抜きながら、四条は続けた。


「透さんがタンク、わたしがストライカー。10式がサポート……この編成で行きましょう」


「……驚いたな、お前からそんなゲームチックな言葉が出るなんて」


「非番の時に久里浜士長と一緒に携帯ゲームを遊びましてね、さぁ––––行きますよ」


 黒目をキッと対象へ絞った四条は、なんとピンの抜かれた手榴弾を握りながら全力疾走。

 追い越していく透と、遅れて左右から挟撃を掛けた。


 同時に、10式戦車がAPFSDS弾を発砲。

 音速の数倍という威力のそれを、エクシリアは紙一重でガード。


 しかし、本命がそれでないことは明らかであった。


「はあぁあッ!!」


 フルオートで連射しながら、四条が突っ込む。

 さらに言えば、残弾が無くなった20式を彼女はその場で放り捨てた。


 “手榴弾”だけを手に持って。


「この女……どういうつもり!?」


 魔力も持たないテオドール以下の日本人の行動に、彼女は困惑を隠せない。

 止めていた徹甲弾を弾いたエクシリアは、即座に対応。

 人間離れした力でハンマーを振るうが––––


「させるかよ!」


 反対側から、透が魔力のこもった蹴りを浴びせた。


「クッソ!」


 本来であれば、こんなまがい物で余り物の魔力を持った人間なぞ、いかに執行者のマスターといえどエクシリアなら簡単に殺せる。

 だが、テオドールとの戦闘で付けられた怪我と後遺症が、想像を絶するほどに響いていたのだ。


「お前の砲弾すら弾く防御、一見無敵に見えるが……」


 攻撃を危機察知能力でかわした透が、全力の肘落としをエクシリアの左腕へ命中させた。


「グゥッ……!!」


「身体に纏う防御用の魔力は、圧力を受けると再構築にインターバルが掛かる。つまり––––」


 畳み掛ける形で、透がストレートとジャブの合わせ技で顔面を殴打。

 鼻血が噴き出たのを確認し、断言する。


「強い攻撃を受けた直後は、必ず無防備になる。お前がさっきからやたらと鍔迫り合いを避けるのはそれだろ」


「ッ……!!」


 エクシリアは知る由もない。

 前にテオドールと組み手をした時、新海透は彼女を通して防御魔法の流れと構築を一度見ている。


 その頼りだったテオドールが倒れるというイレギュラーな事態で、透は魔力についての造詣(ぞうけい)を土壇場で深めていたのだ。


「四条!!」


 エクシリアの魔力強化が薄くなったのを見計らい、透はすぐさま彼女のハンマーを持つ手を拘束した。

 もう眼前には、手榴弾を持った四条が近づいて来ている。


 それが魔力を持たない弱者の戦法、自爆覚悟の攻撃と断じたエクシリアは、本来次の防御用に使うはずだった魔力を身体強化に緊急転用。


 透の拘束で使えない右手は捨て、大量の魔力を纏った蹴りを、突っ込んで来た四条の柔らかい脇腹へ全力でぶつけた。


「がっは…………ッ!」


 四条の美麗な顔が苦痛で歪んだ。

 今までの人生で感じたことのない激痛と衝撃、体内の胃液を吐き出させられた彼女が、手に持っていた手榴弾を手離した……。


 即座にエクシリアは余った魔力を防御用に回帰。

 次の爆発に備えたが––––


「弱者の特攻と思ったか?」


「ッ!!」


 空中を飛んだ手榴弾は、まるでパスするように透の左手へ収まる。

 爆発まで3秒––––


「いくら外側は強化できても、中身はそのままだろ」


 見れば、四条はダメージでえずきながらも不敵な笑みを浮かべている。


 この時点でようやくエクシリアは2人の狙いに気づいたが、もう遅い。

 魔力を全て防御用に振っていた彼女の口へ、透は一切の容赦なく手榴弾をねじ込んだ。


 抵抗してくる手に、逆らうだけの力は無い。


「モガッ……!!」


 ––––爆発まで1.5秒。


「ゴクッ…………!」


 同時に透は背中を蹴り飛ばし、距離を取る。

 全てを察して顔を青くしたエクシリアへ、彼は冷酷に告げた。


「終わりだ」


 エクシリアの体内で、鉄製の破片を音速でばら撒く手榴弾が炸裂。

 彼女の口から、大量の鮮血が吐き出された。


196話を読んでくださりありがとうございます!


「少しでも続きが読みたい」

「面白かった!」


と思った方は感想(←1番見ててめっちゃ気にしてます)と、いいねでぜひ応援してください!!

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「薬は注射より飲み薬に限るぜ、〇〇さんよ」 未だに覚えてる権藤一佐とゴジラとのやり取り
[一言] 新海「どうだ地球のパイナップルは? 腹が膨れるだろう?」
[気になる点] 腹を空かせた女の子 もしも仮にIFなアナザーストーリーでテオドールが助けに来ずベルセリオンが捕虜になっていたら、こんなセリフを吐ける間柄になっていただろうか…たぶん無いな。奴は我が儘す…
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