第195話・乱入! 陸上自衛隊!
突如としてアカシック・キャッスルの中央塔に現れたのは、陸上自衛隊の10式戦車だった。
車体のあちこちに傷が付いていることから、おそらくここへ来るまでの最短ルート……。
すなわち、壁を全部ぶち破って来たことがわかった。
「撃てッ!!」
そんな劇的過ぎる登場をした10式から、120ミリ戦車砲弾が放たれた。
狙いはもちろん、エクシリアど真ん中。
「……!! 魅せてくれたわねテオドール!!!」
対戦車榴弾が、エクシリアに命中。
かろうじてハンマーで防御するが、現代兵器の主兵装をまともに受けてタダでは済まない。
血界魔装に変身した彼女を、またも壁まで吹っ飛ばした。
「今だ! 新海3尉!! 四条2曹!! あのヤバそうなファンタジーのガキはこっちで食い止める!」
10式の車長がそう叫ぶと、車両の後ろにしがみついていた2人の自衛官が飛び降りた。
「助かります! どうか無茶だけはしないでください!!」
荒んだ地面に足をつけた四条は、すぐさま一緒に降りた仲間の方に声を掛ける。
「透さん! 貴方はテオドールさんを! わたしは姉の方を運びます!」
「了解!!」
魔法合戦の戦場に現れたのは、戦車に加えて透と四条だった。
彼ら2人は、防衛ライン突破と同時に合流––––アカシック・キャッスルにテオドールが飛び込んだのとほぼ同じタイミングで、突入を行っていたのだ。
「急ぎましょう!」
配信のスイッチは入れたままだが、今はコメント欄を確認している場合じゃない。
激しい音で機関銃を撃ちまくる10式を背に、2人は倒れる少女たちの傍へ駆け寄った。
「テオ! しっかりしろ!! 目ぇ覚ませ!!」
ボロボロになって目を閉じるテオドールに、必死で叫ぶ透。
マスターとして、彼女の命が消えかけているのは既に知っていた。
本当ならこうなる前に駆け付ける予定だったが、エクシリアが想像以上に強かった結果だと言えた。
あれだけパワーアップしたテオドールをもってしても、削りが精一杯なのだ。
「透さん! テオドールさんは……ちゃんと生きてるんですよね!?」
とても不安気な表情で、ベルセリオンを担ぐ四条。
透は首を縦にも横にも振らず、大急ぎでポーチをまさぐった。
「一応生きてる、意識もギリギリあるみたいだ。けど怪我の痛みで指一本動かせないらしい」
「そんな……」
「マスターとして感じる感覚だけどな。多分……骨を数本、内臓もかなりやられてる。普通の人間だったら死んでてもおかしくない」
透が取り出したのは、陸上自衛隊のメディカルキット。
中から針の付いた小さい袋を取り出すと、躊躇なくテオドールの腕に突き刺した。
「テオ! なんとか踏ん張れ! これで痛みは和らぐはずだ!!」
透が注射したのは、麻薬指定されるレベルで強力な鎮痛剤。
“モルヒネ”だった。
かなり強い鎮痛剤であり、オピオイド系のこれは脳内および中枢神経の受容体に作用する。
異世界人に有効かは未知数だが、効果が出れば痛みの大幅な減少。
そして場合によっては意識も回復するはずだった。
注射後、苦痛が和らいだのか……テオドールの呼吸が戻り始める。
そんな彼女を持ち上げ、四条と2人でまだ安全そうな壁際に運ぶ。
だが、その道中で動きがあった。
「これが鉄の象……、少し厄介ね」
「ッ!! マジかよ」
あれだけの砲撃を食らってなお、額から少量の血だけを流すエクシリアが現れる。
「目標正面!! 自由射撃!!」
10式がエンジンを全開にして、中央塔内を機動しながら主砲で攻撃。
だが、いかなこの戦車とて……ファンタジーな速度で走り回る少女へ当てるのは、至難の技。
砲撃と機銃掃射を舞うようにかわしたエクシリアは、10式の側面を取った。
「天界1等戦技––––『雷轟撃鉄拳』!!」
雷を纏ったパンチは、10式の側面装甲を以てしてギリギリ防げるレベルの威力。
そのパワーは凄まじく、戦車自体がただのパンチで10メートル近く弾き飛ばされた。
車体にしがみついた車長が、声を上げる。
「ギリギリ装甲で防げたか……! だがそう何発も食らって良いもんじゃねえな」
「しぶといわねぇ……、テオドールに魔力を削られてなければ今ので決まってたのに」
だが今度こそ決める。
両拳に魔力をこめていくエクシリア。
しかし、1つ……この場で関係ないはずの疑問が彼女を襲った。
––––そういえば、テオドールはなぜ本来持てる以上の魔力を持っていたの?
本当なら、ベルセリオンと戦った時点で魔力切れを起こすのが普通。
考えられるのは、どこかの誰かから“魔力を前借り”したくらい。
「まさか……!」
エクシリアは10式から視線を外し、すぐさま横を向いた。
そこには、こちらへ向かって20式小銃から外した銃剣を振り下ろす透の姿。
普段の彼女であれば、何もせず障壁を展開していなした場面。
だが、今回だけは隙ができるのを承知で自ら動いた。
––––ガギィンッ––––!!!
銃剣とハンマーが衝突。
咄嗟とはいえガードに成功したエクシリアだったが、眼前の自衛官の持つ力に思わず目を見開く。
––––重い、地球人がこんなパワーを? いや、これは……。
鍔迫り合いを回避し、すぐさま後退。
ハンマーを構え直したエクシリアは、「なるほど」と呟く。
「貴方だったのね……、テオドールの新しいマスターは」
エクシリアが見た先。
銃剣を隙なく構える陸上自衛官、新海透は––––確かに“魔力”を纏っていた。
その魔力は、テオドールの持つものと1から100まで全く同じ性質だった。
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