第194話・2連装・ショックカノン
“血界魔装”。
噂レベルでは聞いたことがあった、テオドールとベルセリオンが拾われた世界において、エクシリアがただ一度だけ見せた究極の変身。
強大な竜の力をその身に100パーセント宿した、アノマリーにも対抗できうる素質。
「ラウンド2よ、テオドール」
かなり荘厳な見た目になったが、ここまではテオドールにとって想定内。
後は運も混ざるが……、全てが上手く行くことを願うしかなかった。
「ッ!!」
刹那に過ぎない時間。
雷のような速度で、エクシリアが肉薄した。
テオドールはほぼ山勘で軌道を読み、初撃をギリギリでかわす。
「やるわね」
「スゥッ……」
深く深呼吸……。
直後に反撃を繰り出すが、やはりというか避けられてしまう。
「良い反応速度だけど、いつまで続くかしらね」
「いつまでだって続けますよ」
テオドールの秘策……。
それは、自身の持ちうる全ての魔力を1回の打撃に込めてぶつけること。
言うならば、“ゼロ距離ショックカノン”だ。
執行者がどれだけ魔法に耐性があっても、今のテオドールならこれで決定打足り得る。
チャンスは僅か……、エクシリアがこちらを舐めている今しか当てられない賭けだ。
「良い目ね……、さすがは私の一番弟子だわ」
今度のエクシリアはさらに速かった。
正面から突っ込むと見せかけて、直前にさらに加速。
テオドールの背後を取る。
最大のピンチだが、“最大のチャンス”でもあった。
「終わりよ」
ハンマーが振り下ろされる。
だが、その一撃はテオドールを掠めて地面に吸い込まれた。
「っ!?」
「わたしの狙いは……、これです!」
攻撃を交わしたテオドールは、足裏に自滅覚悟で小爆発を発生させた。
その勢いを利用して、縦に落ちて来たハンマーを避けたのだ。
「ショック––––」
腕を振りかぶった。
今、テオドールの眼前には攻撃直後で無防備になった敵の脇腹が映っている。
彼女は一切の躊躇なく、右拳に魔力を集中––––全身全霊本気の打撃を叩きつけた。
「カノンッ!!」
勝てる、そう確信した時。
––––パァアアンッ––––!!!
「え……?」
テオドールの本気の拳は、エクシリアの服から離れた場所で止められていた。
魔導防壁? 防御魔法?
否、そのどれでも無い––––
「あ……っ」
無防備となったテオドールのみぞおちに、エクシリアは大威力の膝蹴りを打ち込んだ。
胃液が溢れ出る。
何が起きたかわからない、そんな混乱に満ちた表情の彼女に、エクシリアは容赦しなかった。
「良い考えだったけれど、所詮はガキね」
そう言うと、今度はエクシリアが大量の魔力を自身の腕とハンマーへ流し込んだ。
「しまっ…………」
防御魔法を展開しようとするも、痛みで頭が回らない。
「ハァッ!!」
テオドールの華奢な胴体を、彼女が先ほどこめた数倍はあろう魔力を乗せ、ハンマーで思い切り殴打。
何もできず吹っ飛んだテオドールは、分厚い石レンガの壁へ背中から叩きつけられた。
「かはっ…………」
真っ赤な血を吐き出し、崩落した壁にもたれながら地面に脱力して座り込む。
ガラガラと瓦礫の崩れる音が響く中で、エクシリアは冷たく見下ろした。
「全魔力を込めての一撃……、発想は悪くなかったけど」
テオドールがさっき殴った箇所––––エクシリアの脇から、全保有量の6割にも匹敵する魔力が四散した。
「残念だったわね、あなたが込めた以上の魔力で集中的にガードすれば良いだけの話。さっきはベルセリオンだったから通じたのよ」
見れば、テオドールが身体に纏っていた魔力は残らず霧散していた。
毛ほどの残り香も無くなったそれは、彼女の意識が無くなったことを示す。
死んだか……そう思って凝視するが、
「ほぼ聞き取れないけどまだ小さく呼吸してるわね……、ギリギリのところで生きてるみたい」
壁から剥がれ落ちた瓦礫が、床に音を立てて落下する。
服はボロボロで、口から滴り落ちた血がスカートを濡らしていた。
放っておいても死ぬだろうが、かつて彼女を弟子として世話した身……せめて、楽にしてやろうとエクシリアは思った。
「裏切らなければこんな目に合わずに済んだのに、少しは賢い子かと思ってたんだけど……」
項垂れながら座るテオドールの傍まで歩き、ハンマーを振り上げる。
「さようなら、テオドール」
慈悲の一撃を与えようとした瞬間、それまで脱力していたテオドールの手が動き。
「貴女なら……必ずこうすると思ってました!」
「ッ!!?」
ハンマーが落とされる直前、テオドールは傍に落ちていた瓦礫を掴み、全力で投げた。
飛翔したそれはエクシリアの目に当たり、僅かだが怯ませる。
彼女はここでようやく察した。
––––魔力の霧散はブラフ! 意識を失ったと思わせて、わたしに隙を作らせるのが狙いか!!
「もう遅いです」
今、テオドールの目の前には正真正銘……本当に無防備となったエクシリアがいる。
バネのような瞬発力で立ち上がり、両拳に使い果たしたはずの魔力を纏い直した。
「借りますよ、透っ」
「クソッ!!」
緊急で防御魔法を展開しようとするが、当然間に合わない。
テオドールは、自らを襲う気が狂いそうな痛みに堪えながら叫んだ。
「『二連装・ショックカノン』ッッ!!!」
あらん限りの魔力を、ゼロ距離からエクシリアの胸にぶつけた。
その威力は凄まじく、足元の石畳が砕け散るほどだった。
眩い光が弾け、あのエクシリアが血を吐きながら空き缶のように吹っ飛ぶ。
勢いは止まらず、最奥の壁に轟音を立てて衝突した。
「くぅ…………」
片膝をついたテオドールは、朦朧とする意識の中で呟く。
「…………後は、お願いします。マスター…………」
テオドールが今度こそ気を失う。
そして、怒りに身を震わすエクシリアが瓦礫の中から出て来て––––
「は、はぁっ!?」
思わず声を上げた。
何故なら、倒れたテオドールの後方……壁だった場所が、いきなり弾け飛んだのだから。
「良いんだな!? 英雄さんよ!!」
「構いません!!」
「了解!! 弾種対榴!! 撃てッ!!!」
崩壊した壁を突き破って現れた“10式戦車”が、120ミリ滑腔砲を爆音と共に発射した。
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