第193話・テオドールVSエクシリア
「久しぶりですね、エクシリア……そして、こんな形で会うとは、昔は考えたことも無かったです」
テオドールはそう言いながら、冷静に戦闘の構えを取った。
彼女の目にはかつての“教官”であり、一時期は姉代わりでもあったエクシリアへの畏敬と、どうしても避けられない対決への覚悟が交錯していた。
「まぁ聞くだけ無駄でしょうけど、一応聞いとくわ……なぜ日本人に与するの?」
エクシリアの声には失望とも取れる冷たさが含まれていた。
彼女はテオドールの変貌に全く混乱しておらず、その場の空気を支配する威厳を失っていなかった。
「わたしは自分で道を選んだのです。ダンジョンマスターに従うことが、この先……自分の将来を潰すとわかったから」
「でも、それが意味するのはこういった望まれない衝突よ。わたしはねぇ……テオドール」
エクシリアは前に進みながら、その言葉に重みを持たせていく。
彼女の目は偽りの悲しみに満ちているが、執行者としての冷徹さも見え隠れしている。
「こう見えて……裏でアンタを高く買ってたのよ? そこで倒れてるベルセリオンとは違う。圧倒的な魔力耐性、戦闘のポテンシャル、どれを取っても執行者として相応しかったから」
「なら、ご飯くらいお腹いっぱい食べたかったですね」
「無理よ。我らが主は食事に興味が無いもの、そこは妥協してくれないと」
「そうですか、なら––––」
テオドールは力強くそう言い放つと、両手に魔力を込め、エクシリアに向かって一直線に突進した。
彼女の速度は、まるで音速をも超えるかのようだった。
「わたしが貴女に味方する理由はありません」
エクシリアもまた、強大な魔力を展開し、テオドールの攻撃を受け止めた。
2人の魔力がぶつかり合い、周囲の空間が歪むほどの衝撃波が発生する。
「日本の生活を知ってしまったら、もうダンジョンでの生活に戻る気は無くなりますよ」
「そう、寂しいわね」
テオドールの表情には覚悟が浮かび、その眼差しは固く、目的に向かって真っ直ぐ進む彼女の意志を明確にしていた。
彼女はエクシリアを魔力で突き飛ばし、さらに距離を詰める。
「じゃあ答えはもう明らかね」
エクシリアは慌てず、彼女の動きに合わせて防御を固めつつ、対応を行った。
双方が互いの身体へ向けて、至近距離で魔法を放つ。
「『ショックカノン』!」
「『雷轟弾』」
凄まじい爆発が両者を一旦遠ざけるが、どう見てもダメージを負った様子が無い。
それはテオドール、エクシリア……双方同じだった。
「やっぱりね、執行者は魔法耐性が従来の人間を超えている……考えたことはあったけど、こうしてやってみるとよくわかるわね」
どこか感心した様子で喋るエクシリア。
「そうですね、わたしも貴女も……耐性ならほぼ敵無し。魔法による攻撃は決定打足り得ませんか」
「そのようね……、なら」
瞬間、エクシリアの右手に黄金のハンマーが現れた。
自身の身長より大きいそれを、彼女は軽々と振り回す。
「趣味じゃないけれど……、その可愛い身体を全力で殴れば良いかしら」
「お互い、それが道理でしょう」
両者が再び激突する。
今度は魔法を直接当てるのではなく、魔力によるバフ––––そこから繰り出される体術が戦闘の主役だった。
エクシリアのハンマーは非常に強力で、石畳を簡単に砕く。
だが、テオドールのパンチもまた……鉄球の衝突に等しいパワーを持っていた。
「貴女には多くを教わり、助けられました。けど今回ばかりは––––」
振られたハンマーをスライディングでかわし、テオドールは相手の脚を掴んだ。
「勝たせてもらいます」
エクシリアの視界が反転する。
モンスターよりも強力なパワーで、落ちていた瓦礫に投げつけられたのだ。
砂埃が辺りを覆うが、彼女はすぐに出て来た。
ダメージは多少受けているようで、やはり魔法よりも効果があった。
このまま押し切る、栄養回復で本来のポテンシャルを取り戻した今なら––––
「勝てると思ってるの?」
心中を読まれたような一言。
エクシリアは首をゴキゴキと動かし、その場でストレッチする。
まるで、今までがウォーミングアップに過ぎないような態度だった。
「まぁ確かに強くなったのは認める、少なくともベルセリオンの10倍は戦えると思うわ。けれどそれを踏まえて1つ」
テオドールの背筋に冷たい感触が走った。
よく見れば、エクシリアの体からスパークが溢れ出していた。
「わたしはそんなアンタの5倍は強いわよ?」
「ッ!!」
テオドールが後ずさったと同時だった。
空いた天井の穴をさらに広げて、巨大なイカヅチがエクシリアへ直撃した。
––––カァアンッ––––!!!
響き渡る爆音と衝撃波。
テオドールが目を開ければ、そこには……。
「この姿を見せたのは……、アンタを拾った世界で戦ったアノマリー以来ね」
その姿を大きく変貌させた、執行者エクシリアの姿があった。
金髪はより荘厳に輝き、全身を紋様が覆っている。
激しく飛び散るスパークは、その余剰分だけで魔力においてもベルセリオンを軽く超えていた。
「血界魔装––––『雷轟竜の鎧』」
変身したこの姿こそ、執行者最強たるエクシリアの本領。
その魔力量は膨大で、今のテオドールが矮小に見えるレベルだ。
しかし––––
「ラウンド2よ」
相対するテオドールも、決して無策では無かった。
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