第192話・テオドールVSベルセリオン
「久しぶり、お姉ちゃん。少し痩せた?」
皮肉気味にそう呟いたテオドールを見れば、明らかに雰囲気からして違っていた。
髪は美しく手入れされ、服の質も執行者用の物を数段上回っている。
極め付けはその圧倒的な魔力量だろう……。
前見た時に比べて、魔力の充実具合が段違いだった。
現に、ベルセリオンの魔導防壁はいとも簡単に破壊されている。
「そういうアンタは随分と変わったわね、この裏切り者」
ベルセリオンはその場に立ち尽くし、敵意と困惑が入り混じった複雑な感情を顔に浮かべた。
彼女の強大な守りが一瞬にして壊された……、日本の食事で栄養満点となったテオドールの前に、既に無力感を覚えていたのだ。
「マスターを裏切って、罪悪感は無いの?」
「裏切り?」
テオドールは冷ややかに微笑みながら、静かに前へ進み出た。
金色の目には悲しみも怒りもなく、ただ冷静な決意だけが宿っていた。
「美味しいご飯も満足に食べさせてくれないマスターに、お姉ちゃんは忠誠心とか抱いてるんだ」
「ご飯……? どういう意味よ」
「今はわからないで良いよ、でも1つだけ宣言しておくね」
両手に絶大な魔力を纏ったテオドールが、たっぷりの殺意を込めて構えた。
「わたし––––今からお姉ちゃんをボコボコにするから、できるなら歯を食いしばって」
「ッ!!」
一瞬だった。
まばたきするよりも速く、テオドールがベルセリオンに肉薄して来たのだ。
「ッ!!?」
––––ダァンッ––––!!!
激しい衝突音。
振られた拳を腕でガードしたが、それでも尚ベルセリオンは勢いよく吹っ飛ばされた。
すぐさま空中で姿勢を立て直し、前方を見るが……。
「なっ……!」
つい2秒前までいた場所に、テオドールがいない。
幻影の魔法でも使われたのかと思ったが、そうではなかった。
「遅い」
脇腹に強烈な衝撃が走った。
気づかぬ内に背後へ回り込んでいたテオドールが、回転と同時に裏拳を叩きつけたのだ。
地面を転がった姉を見て、妹は冷たく見下ろす。
「お姉ちゃんは昔からダンジョンマスターのことばかり……、どんなに酷い扱いを受けても、絶対に疑ったりしない。ある意味ピュアだよね」
「裏切り者よりかは……ゲホッ、マシじゃない?」
「さっきからそればっか言ってるけど……、違うよ? お姉ちゃん」
またも高速移動で姿を消すテオドール。
一体どういうわけだ……! 執行者時代なら実力はほぼ互角……いや、僅かに自分の方が上だったはず。
それがどういうことだ。
スピード、パワー、魔力……全てにおいて圧倒されていた。
どんな修行をしたら、ここまで変われるというんだ。
「わたしは裏切ったんじゃない」
背後から聞こえた声に、反射で肘を打つが当たらない。
当然だ……テオドールはそれよりも速く、ベルセリオンの正面に移動していたからだ。
「表返っただけだもの」
テオドールは魔力を右拳に纏い、それを勢いのまま無防備なベルセリオンの腹部に思い切り叩き込んだ。
凄まじい音と衝撃波が発生し、拳から手首まで柔らかいお腹にめり込んだ。
「カッハ…………ッ!?」
激痛で頭が真っ白になったベルセリオンの口から、大量の唾液が溢れ落ちた。
その一撃はあまりに強力で、執行者の頑丈な肉体を以てしても耐えられない威力。
「悪いけど、少しだけ寝てて。お姉ちゃんは起きてると面倒くさいから」
健康優良児となり、本来のポテンシャルを引き出したテオドールの前に……ベルセリオンは呆気なく敗北。
意識を失った。
脱力した姉の体を床に置いたテオドールは、周囲を見渡す。
「エリアボスはいない、っということは……ここの管理はお姉ちゃんがやってたのね」
透たち自衛隊への手土産としても、エリア解放はしておきたい。
ベルセリオンの魔力を封じれば大丈夫だろう。
そして、これでアッサリ終わり……なんてことは無いと、テオドールはわかっていた。
「やっぱり来ましたか、エクシリア」
いつの間にか広間の中央に立っていたのは、金髪をなびかせた少女。
「強くなったわね、テオドール」
ダンジョン最強の執行者––––エクシリアだった。
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