第188話・ミーナの願い
第3エリアに散りばめられた隠蔽クリスタルの数は、現在判明している限りで16個存在する。
これらは事前のスキャン・イーグルで確認された分もあるが、実を言うと空中偵察で判明した物などほんの数個に過ぎない。
当初はそれが全てかと思われていたが、今––––自衛隊は“16個”で全てとわかっていた。
その要因は……。
「16個のクリスタルが、第3エリアを統括する【アカシック・キャッスル】を隠蔽してる。座標はさっき教えた通り、疑うならあなた達の持っている空飛ぶ精霊で確認すれば?」
数十両もの装甲車両が周囲に展開する中で、LAVの椅子に座らされたエルフ。
千里眼のミーナが喋る。
車内の暖房が心地良いようで、完全にお寛ぎモードだった。
「いや……色々教えてくれんのは良いんだけど、マジで信じて良いのか? 随分とアッサリ喋るから拍子抜けなんだが……」
隣でSFP-9自動拳銃を持った透が、困惑気味に呟いた。
このミーナという美麗なエルフは、投降するや速攻で寝返ったのだ。
現在までで既に、隠蔽クリスタルの数や地雷原の詳細まで喋っている。
ここまで来ると、嘘をついているんじゃないかと疑いたかったが……。
「そんなに疑うなら地雷原に突っ込んでみたら? それで死んでもわたしのせいにしないでよね。あっ、お茶とか言ったっけ……美味しいからおかわりちょうだい」
「こいつ図々し過ぎるだろ」
透の反対で挟むような位置で、細かくメモを取る坂本。
最初は車内で拳銃を突き付けての尋問だったが、あまりにアッサリ情報を吐くので尋問は無しに。
それどころか、日本人的に例えれば––––嫌だった職場を辞めたような雰囲気だ。
「はい、お茶」
「どーもー」
坂本が気怠そうに渡した。
美味しそうにコップをあおり、飲み干すミーナは非常に満足気。
その満足そうな表情の裏で、ミーナはどうやら何かを企んでいるようだった。
彼女の言葉一つ一つには、はっきりとした目的が込められている。
しかし、それが何かを透はまだ見抜けていない。
ミーナの言葉を信じるにはあまりにも多くの疑問が残るが、それを解決する手がかりもまた……彼女の中にしかないようだった。
「じゃあ、自衛隊さん、わたしがなぜこんなにも情報をオープンにしてるか分かります?」
ミーナが突然問いかける。
「え、命のため……とか?」
尋問経験皆無の透が言葉に詰まる。
その様子を見て、ミーナは碧眼をフロントガラスの奥の雪景色に向けた。
「見返りが欲しいからよ。わたしがここで皆さんに協力的なのは、わたしの家族をアカシック・キャッスルから救い出してほしいからなの。それが唯一の望み」
「家族が囚われてる……? どういうことだ、エルフはダンジョン側の戦力だろう」
「エクシリアっていう執行者のやり口でさ、わたし達若いエルフが逆らえないように……親や祖父母を一部監禁してるのよ。戦闘から逃げないように」
その言葉に、車内は重苦しい空気に包まれた。
透と坂本は顔を見合わせる、ミーナの願いが真実かどうかはさておき、彼女がこれまで提供してきた情報の価値は計り知れない。
もし家族を人質に取られて戦わされているなら、倫理の観点からも無視はできない。
ミーナの要求を受け入れることによって、第3エリアの探索が飛躍的に進む可能性だってある。
信じる価値はグングン上がっていった。
「ミーナ、君の言うことが真実だとして……本当に家族を助けることに繋がるのか?」
透が慎重に問い詰める。
「ええ、もちろん。わたしがあなたたちに教えたクリスタルを破壊して、鉄壁の防御を無効化すれば……中に入ることができるわ。その中にはわたしの家族だけじゃなく、他にも多くの無実のエルフたちが囚われてる」
ミーナの話には一貫性があり、彼女の表情からも真剣さが伝わってくる。
これまでの彼女の協力的な態度も、話が真実であることを示唆している可能性が高かった。
「わかった、ミーナ。暫定だが一部信じよう。ただし、嘘が少しでも含まれているようなら……覚悟はしてもらう」
「おー怖、急に女たらしの目じゃなくなったね」
「当然だろ、仲間の命が掛かってるんだ……罠に掛けようとすれば躊躇なく殺す」
「オッケー、それでいいよ。こっちはただ家族が無事であることを望んでいるだけだから」
その後、透たちはミーナと共にクリスタルの位置を再確認し、アカシック・キャッスルへの侵攻計画を練り始めた。
これから先、ミーナが示す道がどれほどリスクを伴うかは未知数だが、提供された情報が戦いを左右することは間違いない。
––––作戦開始だ。
「施設科部隊に伝達! “92式地雷原処理車”を前へ!! 敵の爆裂魔法陣地に突破口を開く!」
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