第187話・異世界人と自衛官、雪山での恋バナ
ノイズゲート使ってるので視聴者に声は入りません
「ほえ? 透のこと……ですか?」
熱々ご飯を飲み込んだテオドールは、四条の質問に目を丸くした。
「はい、ちょっと相談がありまして……」
「んー……良いですよ、わたしで良ければぜひ相談に乗ります。ご飯のお礼……コホン。四条は透の大事な仲間ですから」
スプーンを空の容器に置き、天使のような笑顔で応答した。
あまりにも眩しいそれは、自分に存在しない魅力。
勝てるわけが無い、そう思い知らされても……四条は聞かずにいられなかった。
「テオドールさんは、っ……! と、透さんのことをどう思ってるんですか?」
「…………」
テオドールの目の動きが止まった。
那由多に等しい時間が流れたと思ったが、実際には3秒ほどの時間……。
テオドールはしばらく考えて、返答を行う。
「わたしを新しい世界に連れ出してくれた……、唯一の存在です。透がいるからこそ、今のわたしがあるのです」
澄み切った声に、ウソ偽りは全く無い。
だがテオドールは地で頭が良い。
四条の聞きたい意味、内容をしっかりと理解していた。
「でもこれは……ただの一側面にすぎません、四条はきっとこう聞きたいのでしょう?」
金色の瞳は、優しく四条へ向けられた。
「わたしは透に、“好意を抱いている”のかと」
読み切った顔で返され、四条はたまらず両手を上げた。
「その様子ですと、わたしが透さんに好意を抱いているのも……バレてそうですね」
「はい、四条は透のことを好きなんだろうなーとは思ってました。口に出したのはこれが初めてですが」
テオドールは一呼吸置いてから、まっすぐ四条を見つめ返した。
「気になっているんですね……? わたしたちの関係がどのようなものか、と」
彼女の眼差しには冷静さと、四条を気遣う優しさがこもっていた。
それはかつて敵だった執行者テオドールとしてではなく、仲間として存在する少女の瞳。
新海透のそばにいる……、1人の重要なパートナーだ。
「透とわたしは、マスターと眷属です。お互いを尊重し、比喩抜きで支え合っています。それがどれだけ深い絆であるか、四条も近くで見ているはずです」
うなずきながらも、四条は心中複雑な思いを抱えていた。
彼女の求める答えは、もっと個人的なものだったからだ。
「っ…………」
……自分は新海透という人間が好きだ。
本来なら1人の女として、策謀を巡らせ……いかに透を魅惑し、自分のパートナーにすべきか考える場面。
しかし、彼女にそれはできない。
しようとも思わない。
その純情にして奥手な感情が、四条からあらゆる選択肢を奪っているとわかっていても。
四条エリカは、テオドールから透を奪えない。
奪う手段を持たないのだ。
「……四条は良い人ですね」
純粋な言葉に、思わず戸惑った。
「はい? どこがです……? 言っときますけど透さんとの第一印象は互いに最悪でしたよ?」
「聞いています。確か配信の護衛役で、四条を守っていたとか……そして最後盛大にやらかして、透を有名人にしてしまったことも」
「あうう……、透さん。それは慈悲で伏せててくださいよぉ……」
レーションを置き、幼子のように頭を抱える四条。
そんな悩める自衛官を見て、テオドールは思っていたことを正直に話す。
「大丈夫ですよ、四条がとても強くて優しい人なのは……透が一番わかっています」
「……本当ですかね?」
「えぇ、例えばわたしが敵にボコボコにされて死にかけた時……透は間違いなく助けに来ると信じています。でも––––」
肩の銀髪をかき上げ、陽光に照らされながら……異世界の女の子は優しく続けた。
「そんな透を助けるのは、きっと四条の役割のはずです」
「随分と物騒な状況想定ですね……、テオドールさんが痛めつけられたら世界中で暴動が起きますよ」
「ダンジョンの人たちにはそんなの関係ありません、だから……改めてお願いします」
向き合ったテオドールは、四条の自衛官にしては小さい手を握った。
「どうかわたしが死にかけた時、透がそんなわたしを助けようとしている時……どうかマスターを支えてあげてください。さすがのわたしも、意識が無ければ透を手助けできませんから」
四条は思う。
この子は本当に13歳なのか? 普通に生きていたら、自分が死にかける想定なんてしない年齢だ。
自衛官である四条よりも、異世界で生きて来たテオドールの方が、よほど死生観が生々しい。
こういう時に、四条は嫉妬よりも先に畏敬の念を覚えてしまう。
テオドールの言葉に嘘は無い、無いからこそ……応えるべきだと直感で悟った。
ちょっと伏せ気味だった顔を上げ、四条は彼女を見返した。
「わかりました。もしそんな状況になったら、必ず透さんを助けます……」
ニコッと微笑むテオドールに、四条は「ただし」と付け加え––––
「ですが……“貴女も必ず助けます”。テオドールさんが仰る通り、戦闘で死にかけたり、小さなことでも何か悩みがあれば……わたしが絶対協力します。四条家の名に掛けて」
「ふふーん。じゃあわたし達は、透を中心とする同盟関係ですね」
立ち上がったテオドールが、魔力を体内から引き出す。
「お話も纏まりましたし、そろそろ戻ります。雪山での任務は辛いと思いますが……頑張ってください」
「えぇ、テオドールさんも。後で会いましょう」
「はい、でも……」
異世界の魔法少女が、転移の光に消えて行く中––––これまでで初めて見せる肉食系の顔を少し覗かせ。
「ウカウカしていたら、透はわたしが頂きますよ?」
反論する暇すら与えず、テオドールは姿を消した。
ご丁寧にも、自分が食べた分のレーションは持って帰ったようだ。
「…………侮れない少女です」
辺りを片付け、四条は再び本隊との合流を目指して歩き出した。
異世界の女の子と交わした約束を、胸で何度も反芻しながら……。
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