第186話・ワクワク野外クッキング!
「水だけで熱々のご飯を!?」
驚きと好奇心に満ちた表情を見せるテオドールの瞳は、雪に反射する陽光のように輝いていた。
彼女は戦場飯という新たな発見に興奮を隠せない様子で、四条が用意する姿をじっと見つめていた。
「本当にそれだけでいいんですね! どうやって?」
「特殊な加熱素材が入っていて、水と反応して熱を発生させるんです。だから、どんな環境でも自衛隊のレーションは温かい食事を提供できるわけですよ」
テオドールは興味深そうにパックを手に取り、四条の説明に耳を傾けながら中身を確認する。
彼女の顔には子供のような……っというか年相応の子供らしい無邪気さが浮かんでおり、そのギャップがテオドールの魅力を一層引き立てていた。
「凄いです! こんな技術があるなんて……わたしのいた世界では考えられないですよ」
彼女の言葉に、四条は優しく笑顔を返した。
「異世界の魔法もすごいですけど、科学も侮れないんですよ。ね、皆さんもそう思いません?」
四条の言葉にカメラの向こうの視聴者たちは、一斉にコメントで反応を示した。
【発達した科学は魔法と見分けがつかないからな!】
【テオドールちゃんとのほえほえトーク、最高に楽しい! そしてかわいい!!】
「四条! 早速食べたいです! 早く作りましょう」
「了解です、じゃあコツとかあるので一緒にやりましょう」
四条は『サンマピリ辛』を、テオドールは『豚肉と里芋煮』のパックを開封。
中には“白ごはんパック(通称消しゴム)2つ”、“おかずパック”、“加熱剤”などが入っており、それらを温めるための“加熱袋”が付いていた。
不思議そうにするテオドールに、四条はわかりやすく説明した。
「じゃあテオドールさん、以下の順番で袋に入れていってください」
四条の指示で、テオドールはぎこちなくも丁寧に作業を開始した。
加熱袋を広げ、まず加熱剤をセット。
さらにその上へ白ごはんパックを置いて、さらにさらにおかずパックを重ねた。
テオドールからすれば、ここからどうやって暖かい食事になるのか想像もできない。
それは視聴者も同様なようで……。
【レーションの調理か……、初めて見るな】
【四条さんの数分クッキングじゃん】
【相方はほえドールでお送りします】
加熱剤、ご飯、おかずの三段重ねになった袋の中。
“転売禁止”の文字がデカデカと書かれたそれらに、四条はまず水を用意して––––
「はい、ではこれを入れます」
ダイレクトに袋へ飛び込ませた。
度肝を抜かれたテオドールだが、すぐに持ち直して自分も水を袋に入れる。
化学反応が発生すると同時、四条は非常に慣れた手つきで袋の上部を締めていった。
「ほ、ほわぁ……」
感嘆するテオドール。
しかし、四条はまだ気を抜いていないようで……。
「テオドールさん、この雪山です……このままではおそらく加熱が足りず、白ごはんが固いままでしょう」
「ほえっ!? そ、それは困ります……!! せっかくなら全部熱々で食べたいです」
かなり真剣に困った表情をするテオドールに、四条はしたり顔で返す。
「手があります、わたしとテオドールさんの加熱袋を互いにくっつけ合うのです」
「そ、それだけでいけるんですか?」
「戦闘糧食の調理失敗は、その大体が白ごはんの加熱不足によるものです。これをこうして……」
四条がテオドールの加熱袋を自分のものとくっつけると、中の素材が均等に暖まるように調整した。
「こうすることで、熱がより効率的に集中されるんです。二つの袋が支え合いながら加熱されますから」
袋が凄まじい勢いで膨らみ、音を立てて蒸気を噴き出す。
テオドールはその技術に目を輝かせた。
「なるほど、これは凄いです! こんな風になるなんて……まさに魔法のようです!!」
四条はにっこりと笑いながら、応答する。
「まあ、いわばこれも一種のマジックですよ。こちらは科学の力を利用していますがね」
そうこうしている間に、袋の中で加熱反応が一段落し、ふっくらと蒸されたごはんと温かいおかずが出来上がった。四条は慎重に袋を開け、2人でその中身を確認する。
「おっ、完璧ですね。これで冷たいごはんを食べる心配はなくなりました」
テオドールはほっとした表情を浮かべつつも、四条の説明に夢中だった。
「じゃあ、いただきますか!」
二人はその場で自衛隊のレーションを味わうことに。
おかずを豪快にパック飯へ乗せ、スプーンを差し込む。
四条が先に一口食べ、うなずきながらテオドールにも勧めた。
「さあ、テオドールさんもどうぞ。サンマのピリ辛と豚肉の里芋煮、どちらもいい感じに仕上がっていますよ」
テオドールは少し緊張した様子で一口食べ、そしてその味に驚いた。
「ほえぇ……! ほ、本当においしいです! こんなに手軽に、しかも温かくて美味しい物を野外で食べられるなんて」
四条は満足げに笑い、彼女の反応を楽しんだ。
「でしょう? 日本の食に掛ける熱意は他国の軍隊に絶対負けませんからね。こういうのも新鮮でしょう?」
「はい! 四条のところに転移して来て正解でした!」
無邪気に喜ぶテオドールは、その小さな身体に自衛隊の大盛りレーションを詰め込んで行った。
「ンッ、むふぅ……フフッ」
改めて生で見ると、本当に美味しそうに食べる。
世界中の企業から、案件が押し寄せるのも頷ける可愛さだった。
四条はこっそりノイズゲートを起動し、テオドールに話しかけた。
「テオドールさん。少し……お話したいことがあるのですが、良いですか? 貴女のマスター、透さんのことです」
「ほえ?」
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