第185話・レーション開封配信!
美味あるところにほえアリ
雪の結晶が空気を澄ませ、辺りを色取る純白の舞台に、彼女は突然現れた。
そこにいるのは、お嬢様学園の象徴たる金色のブレザーを纏った少女––––執行者テオドール。
彼女の姿は銀髪のせいかまるで天使のように見え、服装はテオドールの性格を語るかのように整然としており、ダンジョンの厳しい環境にあってもその清楚さは損なわれなかった。
「あっ、レーションの中から、どれを選ぶかはあなたの自由ですよ、四条」
と彼女は言い、微笑んだ。
その笑顔は、冷え切った空気さえも暖かくするかのようだった。
っが……四条からすれば「ちょっと待って」と言いたくなる。
「な、なぜテオドールさんがこんなところにいるのですか!? 貴女は最終戦の“切り札”で、今はヘリコプターの中じゃ……」
「あぁ、そういうことですか。四条が転移妨害の結晶を壊してくれたので……暇だから来てみたんです」
アイドル顔負けの美麗顔で、ニヘっと笑うテオドール。
魔力の節約とかは大丈夫なのかとも思ったが、聞けば一応1回だけなら転移魔法を使っても良いとのこと。
そもそも彼女は異世界の魔法使い……、ましてやこの性格だ。
魔法の使用に躊躇が無い。
まさしく、美味あるところにほえアリと言えた。
「それで四条、わたしのお食事センサーが反応したから来たんですが……これ食べ物なんですか?」
銀色のアホ毛がピコピコと動いたような気がした。
『豚肉と里芋煮』のパックに手を伸ばしながら、不思議がるテオドール。
とりあえず、予定には無かったがこうなったら仕事をしようと彼女は切り替えた。
無線機を持っていないので、スマホを取り出し通話ボタンをタップ。
数秒の後に、相手が出た。
『もしもし、新海です』
「お疲れ様です透さん」
『なんだ四条か、無線機持ってなかったの?』
無線が無いのでスマホで通話。
外野が見たら自衛隊はこれで良いのかと思われるかも知れないが、今回だけは相手が中露の軍隊ではないので少し妥協した。
そもそも配信をしているのだ、情報保全は地球上といくらか違う。
「こっちにテオドールさんが来たので、ライブの権限を移してもらいたいんです」
『は? なんでお前がテオと一緒にいる……あー。大体わかった。さては飯食おうとしたな?』
なぜわかったのかとギョッとするが、答えはすぐに教えられる。
『アイツ、俺と近しい人間の状態がなんとなくわかるっぽいんだよなぁ。例えば空腹感とか……あと眠気とか』
「そのようですね」
『まぁ配信の件はわかった。こっちはゴタゴタしてて今それどころじゃないし、画面は渡すよ』
ゴタゴタとはなんだろうとは思いつつも、長話になりそうなので返事だけした。
すぐに通知が来て、四条のカメラがライブ権を握る。
【おっ、画面切り替わった】
【メディアのやらかしでネットは今お祭りだから、俺しばらく離席しようか……って、ほえドールちゃんいるじゃん!!】
【ほえ! ほえ!! ほえ!!】
【我らがアイドル、ほえドール様!!】
何か別のことで盛り上がっていたコメント欄が、木にもたれかかるテオドールを見て一変。
一瞬で大盛り上がりとなった。
機を逃さず、四条が畳み掛ける。
「じゃあテオドールさん、ご飯にしましょうか」
【これってレーション?】
【今回は戦闘糧食か!】
【ほえ様、少し肉付きと肌の具合良くなった?】
コメント欄をよそに、テオドールはレーションをウキウキで選んだ。
「わたし、『豚肉と里芋煮』が食べたいです!!」
ほえのオーダーに、四条は微笑んだ。
「良いですよ、じゃあわたしは『サンマピリ辛』にしましょう」
だが、テオドールからすればよくわからないことがあった。
「四条、この袋からどうやって料理が出来上がるのですか? 火を使うんです?」
そう言って、彼女は右手からコンロくらいの火をボッと出した。
突然の魔法少女ムーヴに、コメ欄はさらに加速。
【すげぇ……サラッと魔法使うじゃん】
【さすが我らの魔法少女……!】
【これ見ると、改めて異世界人なんだってわかるわ】
四条も同じ感想を抱きつつ、首を横に振った。
「いえ、火は使いませんよ。なんとこれ––––」
パックを開けた四条が、ニッと微笑む。
「お水を使うだけで、こんな雪山でも熱々の食事が食べられるのです」
「ゴクッ……!」
テオドールのボルテージが一気に上がった。
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