第181話・末路
突如として訪れた残酷な暴力という現実に、逃げてきたメディア一行は硬直した。
一瞬の沈黙の後、恐怖に顔を歪めたカメラマンが叫び声を上げる。
「逃げろ!」
しかし、その声が終わる間もなく、さらに何発かの狙撃が続いた。
まるで、避けることを許さないかのように精密な射撃が彼らを襲う。
続く瞬間、カメラマンの頭部が粉砕される悲惨な光景が佐世の目に焼き付いた。
体はぐったりと雪に倒れ込み、一瞬にして温もりを失った。
それは、まるで佐世がこれまで数多くの映像で見せてきた「売れ行き」のための物語の一場面のようだったが、今回ばかりはその現実が彼女自身に襲い掛かってきたのだ。
次いで飛んできた狙撃は、絶叫するマイク担当の首をえぐった。
「ゴフッ……ごぼ」
血の泡を吹き、その場に倒れる。
あれでは気管が血で圧迫されて、失血と窒息の二重苦という地獄が襲うことは明白。
しかし、本来彼らを守る自衛隊から逃げて来たのだから……当然の結末だった。
「ゴボっ……!! ざ、よ……さん!! たづけて……!!!」
悲痛な叫びで求める声を無視し、佐世は全力で逃げた。
逃げて逃げて、ひたすら走る。
なんで自分がこんな目に……! なんで自衛隊は来てくれないの!!
彼女は、非情な現実と自身の置かれた立場の狭間でパニックに陥る。
佐世がこれまで歩んできたメディア人生が、たった一瞬で崩壊し始めた。
その時、遠くから声が聞こえる。
「動くな。お前だけは生かしてやる……陳大佐への手土産だ」
声の主は、千里眼の異名を持つ少女のエルフ。ミーナだった。
佐世の周囲には、いつの間にか武装したエルフが立ち並んでいる。
とてもではないが、逃げきれない。
「ミーナ。こいつはどうするんだ? 他の2人と同様に殺すか?」
隊長格のエルフの念波越しの問いに、数百メートル離れた位置にいたミーナが答える。
「いやダメ、これは日本人を初めて捕虜に取れるチャンス。執行者もお喜びになる」
「わかった、じゃあ逃げられないよう拘束させてもらおう」
そう言ったエルフの1人が、眼を光らせた。
「『拘束魔法』」
瞬間、佐世の体を光の鎖が縛りつけた。
物理的に触れていないのに、彼女は身動きの一切ができなくなってしまう。
痛みもなく、しかし確かな重さで佐世の自由を奪った光の鎖。
彼女が何をしても、その束縛は微塵も緩むことはなかった。
恐怖が彼女を完全に支配下に置き、心臓の鼓動が耳鳴りのように響き渡る。
その中で、エルフが静かに歩み寄ってきた。
「お前の名前は?」
その問いかけに、佐世はかすかに頷いた。
彼女の心の中には、恐怖とは別の感情が生まれ始めていた。
それは、この絶望的な状況で何もしてくれない自衛隊への……日本という劣等国家への“憎悪”。
もし中国軍やロシア軍なら、きっと守ってくれたのにという希望。
「佐世……佐世です」
「佐世か……本当に日本人らしいな、お前の命はとりあえず助かった。だが、これから一緒に来てもらう」
エルフの言葉には威厳があり、それでいてどこか慈悲のようなものを感じさせた。
彼はその場に立ち尽くす佐世を他のエルフたちに任せ、自らは転移魔法でどこかへ行った。
“千里眼”で一連の様子を覗いていたミーナが、手に持った得物を握り締める。
「さて、万事上手く行けば良いけど……」
スキャン・イーグルがカメラマンとマイクの遺体を見つけたのは、それから10分後だった。
そこに佐世の姿は無い。
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