第179話・10式戦車VS多脚戦車
ひっ捕えたエルフ達と共に下がった透に代わり、純国産戦車10式がカメラを受け継いだ。
ノイズゲートによって声は聞こえないが、発射音などだけは聞こえるように調整されている。
そんな最新主力戦車隊の前へ、敵は現れた。
「目標確認、斜面をスキーでも滑るように降りてくる。現在おおかたで20機を目視!!」
「砲手、形状はわかるか?」
「8本足の多脚戦車です! スラスターまで付いています。機動力はかなり高そうですよ……まるでSFだ。10式ならこの距離でも当てられますけど」
部下の声に、車長は首を横に振った。
「それじゃ中に乗ってるエルフごと爆散させちまう、それに……」
「それに?」
「バカな財務省がそんなの見たら、『対戦車ミサイルで良いだろう』とか言い出しかねん。人権保護団体にでも映されてみろ……絵面は最悪だ。映像は健全でハリウッドに出せるくらいの物を目指すぞ」
「了解!!」
両者はグングン距離を縮め、やがて相対距離が1000を切る。
先に動いたのは、10式戦車だった。
「目標前方、敵機甲兵器! 弾種徹甲、小隊躍進射––––撃てッ!!」
––––ドパパパァンッ––––!!!
国産の120ミリ滑腔砲から撃ち出されたAPFSDS弾は、砲口初速マッハ3で飛翔。
ジグザグで機動する多脚戦車の、“脚だけ”を撃ち抜いた。
姿勢を崩した敵兵器が、雪を巻き上げて脱落する。
「命中!! 続いて撃て!!」
10式戦車のその革新的な能力は、双方が機動している際に発揮される。
国産のセンサーは相手の細かな情報を取得し、ほぼ全自動で敵を追尾。
さらに74式戦車から続く日本オリジナルの油圧制御システムにより、120ミリ砲を殆どブレずに発射可能だ。
結果––––
「命中!!」
1キロ先の小さな目標、しかもコックピットと思しき場所を狙わず、ピンポイントで砲撃していた。
この命中精度は、アメリカのM1A2エイブラムス。ドイツのレオパルド2A7すら上回る。
相手が東側戦車なら、この精密さに勝てる車両は無い。
「敵、発砲!」
「ッ!!」
光り輝く魔法が、多脚戦車から撃ち出された。
「回避ッ!!」
キャタピラで雪を巻き上げ、全速で回避。
まるでドリフトを彷彿とさせる動きは、とても戦車とは思えない。
「砲弾か!?」
「いえ、攻撃魔法のようです! 後ろの木々が雷でも落ちたようにへし折れた」
「車体そのまま、次弾用意!!」
10式が時速60キロという、かなりのスピードで動き回る。
さらにそこに超信地旋回を加え、車体と砲塔をグルグル回しながら発砲。
驚くべきはその命中精度だった。
「命中!!」
ジグザグに動く多脚戦車の足を吹っ飛ばし、またも雪原に転がした。
車両自体が激しく回転しているのに、10式の砲口だけは常に相手を睨んでいる。
かつて戦車後進国と呼ばれた大日本帝国陸軍と違い、現代の陸上自衛隊は世界屈指の戦車を保有していた。
【ドリフト&超信地旋回しながら射撃してんの!? 意味わかんねぇ!(褒め言葉)】
【これだから日本の戦車は頭がおかしい】
【撃ってるの120ミリ砲だよな? 全然反動無いじゃん】
視聴者でも着弾がわかる距離での交戦に、コメント欄も大賑わいだ。
彼らは知る由もない、これらはエルフが古代より遺した兵器で、ベルセリオンが絶大な信頼をもって投入していることに。
尚、その信頼は––––
「命中!!」
“不殺”という縛りを課した自衛隊の前に、蹂躙されていた。
ようやく距離が500メートルを切った辺りで、多脚戦車が目のような砲塔から速射した。
「おっと!」
車長が中に入ると同時、10式の正面装甲に魔法弾が直撃した。
炎属性魔法が付与されていたようで、車体を炎が覆い隠す。
しかし––––
「雪原で寒い中、熱い一撃くれるじゃねえか! 弾種変更!!」
現代のMBTは、複合装甲などで守られているため非常に硬い。
それこそ正面からでは、同じ120ミリ口径の戦車砲弾ですら弾き返すほどだ。
魔法で薄皮を焼かれた程度では、10式を止められない。
「目標、正面! 小隊集中行進射––––撃てッ!!」
––––ドパパパァンッ––––!!!
この砲火の雨は、視聴者にとっても、戦場に立つ兵士たちにとっても、予想外の光景を描き出した。
10式戦車の砲弾が炎を帯び、多脚戦車に向かって飛ぶ。
今度は左右のスラスターを正確に捉えた。
大気を切り裂くような爆音が響き渡り、発射された対戦車榴弾が目標を捉えた瞬間––––多脚戦車の一部が爆発し、炎と煙が雪原を覆った。
「命中確認! 目標、制圧!!」
砲手の超早口報告に、車長は小さく息を吐いた。
しかし、彼らの戦いはまだ終わらない。
10式戦車の先進技術と操縦技術が光る中、次々と現れる敵に対して、自衛隊員たちは淡々と任務を続けた。
視聴者の間では、次々とコメントが飛び交う。
それは賞賛、驚愕、時には心配や批判の声も含まれていたが、その全てがこの未曾有の戦いに魅了されていることを物語っていた。
「さあ、次だ!! まだまだ行くぞ!!」
車長の声が乗員を鼓舞し、10式は再び戦闘位置に移動する。
その間も、視聴者の目は画面から離れなかった。なぜなら、彼らはただの観客ではなく、この歴史的な戦いの一部となっていたのだから。
10式が無双を展開する中で、上空には1機の無人機……。
透の要請を受けて飛んできたスキャン・イーグルが、赤外線カメラで逃げたメディア達の姿を捉えたのだ。
179話を読んでくださりありがとうございます!
「少しでも続きが読みたい」
「面白かった!」
と思った方は感想(←1番見ててめっちゃ気にしてます)と、いいねでぜひ応援してください!!




