第176話・これまでにない試み
配信ボタンがタップされる。
雪原の中心でスマホを見ていると、同接数が凄まじい速度で上がっていく。
【配信キター!!】
【前回に引き続きの雪原じゃん、遂に本格攻略か?】
【またエルフが相手かな……】
錠前と統幕の予想通り、エルフとの戦闘を忌避するコメントが散見された。
透はすぐさまノイズゲートを切り、自身の声を入れた。
「皆さんお久しぶりです。今回の戦いはエルフをできる限り生け取りにし、自衛隊で保護する方針です」
彼の声に、やはりというかコメント欄はざわついた。
【エルフの保護!?】
【それって行けるの? 自衛隊に犠牲が出たら意味ない気がするけど……】
心配の声を他所に、透は自信たっぷりの声で返した。
敬語をやめ、1人の自衛官としてしっかり答える。
「大丈夫、俺たちに被害は絶対出さない––––じゃないと、こんな作戦普通しないよ」
自衛隊は本来––––強大な中露を相手する目的で存在している。
彼らからすれば、中世レベルの技術に魔法が加わっただけの軍勢など赤子同然。
むしろ、大人気なく全滅させる方が世論的によろしくない。
状況の説明をする彼の背後では、第1特務小隊のメンバーが動き始めていた。
雪原の白と自衛隊の迷彩が見事に融合している光景は、配信を見ている視聴者にとってはまるで映画の一場面のようだった。
彼らは今、緊張と期待で満ちあふれる戦闘の前哨戦にいた。
「今日の作戦は、敵を生け捕りにするための非致死性兵器を使用する。エルフたちは人語を理解し、人間と変わらずコミュニケーションが取れる。この状況をできるだけ血を流さず終わらせることが今回の目標だ」
そろそろ慣れてきたのを見計らい、敬語をやめた透だが、視聴者達は特に気にしていなかった。
【おぉ、これが噂の……】
【自衛隊に配備されてたんだ】
カメラは自衛隊員たちが持つ非致死性兵器のアップに切り替わり、その説明がなされる。
ゴム弾頭やネット投射装置など、視聴者にとっては珍しい装備の数々が映し出された。
それらは全て、エルフを殺さずに制圧する目的で選ばれている。
特に中でも––––
「今回使用する“フランジブル弾”は、防衛装備庁が新たに開発した新弾薬だ。目標に当たったら粉になって砕けて、殺さず無力化する……その代わりすっげー痛いけど」
透の言葉を聞いて、コメント欄の空気が変わり始めた。
【なるほど、非致死性兵器でエルフを生け捕りにする作戦か】
【自衛隊ってこんな装備も使えるんだね、なんか新鮮だわ】
【エルフとのコミュニケーション取れたら、平和的解決に繋がるかも……わたしは賛成!】
自衛隊としては異例の配信作戦だが、それは同時に新しい時代の戦い方としても機能していた。
人々は、ただ争うだけでなく、理解し合うための努力もしている自衛隊の姿に興味を持ち始めている。
配信の画面は再び透に戻る。
彼は深呼吸をしてから、もう一度視聴者に向けて語りかけた。
「この作戦が成功するかどうかはわからない。けど、我々は出来るならエルフとの共存を目指している。それがこの作戦の真の目的。皆さん、俺たちと一緒にその瞬間をぜひ見届けて欲しい」
【バッチコイ!!】
【やっぱ新海さんカッケェわ】
【無駄な殺戮はしない……自衛隊らしいね】
そして、配信画面の片隅には、現場からの生中継と共に、エルフの村への接近を示すマップが表示され始める。
スキャン・イーグルの一部画像を加工して、配信画面に貼り付けているのだ。
視聴者たちは、ただの観客ではなく、この歴史的瞬間の証人となる準備が整っていた。
しかし、いつの時代も––––“無粋な邪魔者”はいるものだ。
特に現代日本、自衛隊に対しては……。
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