第171話・混成兵団殲滅戦
特戦群はその性質上、一定の隊員を除いてサプレッサーを愛用している。
ゆえに、今轟いた銃声は味方の誰のものでもない。
––––ウォッチャーが叫んだ。
『敵最後方! アサルトと思しき発砲を確認!!』
言われたと同時、飛翔してきた弾丸がプリテンダーの20メートル脇に着弾した。
雪を巻き上げる着弾点から、プリテンダーは一瞬のうちに姿勢を低くし、周囲を警戒する。
「何者だ!」
キャスターが無線で問いかけるものの、誰からも即座に返答はなかった。
「……少し、厄介なことになったぞ。戦術的にも政治的にもな」
その間も、エルフたちからの反撃は衰えることなく、彼らは残された力を振り絞って戦い続けていた。
しかし、今回の敵は彼らだけではないことが既に明らかになっていた。
アーチャーが狙撃位置を変更しながら、冷静に状況を分析する。
『サプレッサー未装着の銃声……直感だが、エルフたちとは異なる“誰か”が撃ってるぞ。しかも、射撃技術と狙いは結構確かだ。エルフにしては異質すぎる』
ウォッチャーがドローンの視点を急いで最後尾に移し、新たな敵の姿を捉える。
確かに、エルフたちの列の最後尾に……明らかに彼らとは異なる装備をした小さな集団が確認できた。
敵の持つ銃は、エルフたちが使う典型的な弓や杖とは全く異なる、いわば現代のものだった。
服装が他と同じのため、完全に騙された。
「これ……もしかして、エルフと手を組んだ人間の兵士か!?」
思わずキャスターが推測する。
そこで、ウォッチャーが対応を提案した。
『一旦エルフたちから距離を取り、その兵士たちの動向を見よう。ヤツらがこの戦いの鍵を握っているのは明らかだ……最悪、市ヶ谷に報告案件だぞ』
「わかってる、国籍も目的も不明……厄介だな」
キャスターはすぐに命令を下す。
「アーチャー、兵士の位置を把握して狙撃の準備を。プリテンダーと俺は引き続きエルフを牽制しつつ、そいつらへの対応を考える」
アーチャーが迅速に狙撃位置を確保し、敵集団を射線に収める。
一方、キャスターとプリテンダーはエルフとの戦闘を続けながらも、不意の射撃に備えた。
緊張が高まる中、プリテンダーがさらなる発砲を試みる。その射撃は正確で、エルフたちの間に再び混乱を引き起こした。
しかし、そんな中でも兵士たちの銃声は冷静で一定のリズムを保ち、加えて正確に飛んでくる。
彼らの存在感は、この戦場において無視できないものとなっていた。
手練れだ……、新宿で戦った中国人部隊とは明らかに違う。
服装によるカモフラージュに加えて、射撃技術も自衛隊で言う“特級”相当。
ただエルフが銃を持ったにしては強すぎた。
『キャスター、連中は特殊戦の訓練を受けている。どうやら本物の兵士か何かみたいだ。目的は不明だが、エルフとの共闘は確からしい』
キャスターが返答する。
「どこの誰だよ……。しかも、どうやってダンジョンに銃器ごと入った……」
『こうなった以上、こっちも手を抜けない。プリテンダー、敵の兵士への攻撃準備を。アーチャー、狙撃で援護を頼む』
プリテンダーの持つM250の猛烈な制圧射撃は、2人が後退するのに十分な余裕を稼いでくれた。
しばらくして、残存したエルフ達の動きがわかる。
敵もまた、兵士と一緒になって体勢を再編しようと躍起になっていた。
彼らの間には明らかに指示を出している者がおり、それに従い、エルフの部隊はさらに組織的な動きを見せ始めた。
「…………」
しかし、特戦群の目は確かで、ウォッチャーはその動きをすぐさま察知する。
『プリテンダー、アーチャー、キャスター。敵に追加の動きがある。エルフと兵士は絶対に結束している。ヤツらの指揮系統をまず断つべきだ』
HVT(最優先目標)は決まった。
アーチャーは、冷静に狙撃の機会を見計らい、指示されたターゲットに向けて慎重に照準を合わせる。
その手には、確かな射撃を可能にする集中力と、世界最高峰の冷静さが宿っていた。
一方、プリテンダーは、戦闘の中心に近づく形で、敵への圧力を維持しつつ移動する。
機関銃の制圧射撃が、活きる形だった。
『50メートル南に窪みがある、そこへ隠れろ』
その間も、ウォッチャーはエルフと兵士の動きを細かく監視し、戦況に合わせた指示を出し続けた。
キャスターとプリテンダーは指定された窪みに入り、マガジンを交換。
2人は射撃を再開した。
「前衛を減らせ! 本丸を引っ張り出すぞ!」
銃弾の激しいシャワーを浴びせる。
同時に、敵の弾丸も至近距離に着弾した。
「良いぞ、乗ってきた!」
篭城する2人に痺れを切らしたのか、アサルトがゆっくり前線へ近づいてくる。
「アーチャー、目標を変えろ。敵の指揮官だ。ヤツを倒せば連中の動きは鈍るはずだ」
『了解』
アーチャーの一発の狙撃が、戦局を左右する可能性を秘めていた。
彼は息を整え、照準を合わせ……そしてトリガーを引いた。
––––バスゥンッ––––!!!
その瞬間、特戦群とエルフの間で最高潮に達していた緊張が一変する。
アーチャーの狙撃が吸い込まれるように命中し、敵アサルトが倒れたのだ。
「指揮官ダウン! 敵の動きが鈍化した! 今だ、押し込め!」
キャスターの声が無線を通じて特戦群に響き渡り、部隊は一気に反撃の態勢に入る。
プリテンダーの制圧射撃が敵をさらに抑え込み、一気に戦場を支配していった。
この瞬間から、戦いはこちらにとって有利な方向へと大きく転じることになった。
エルフと兵士の連携が崩れ、特戦群の圧倒的な技術と戦術がその真価を発揮したのだ。
最後の1人が倒れるのに、わずか5分と掛からなかった。
「イレギュラーありとはいえ、10分以上も殲滅に掛かったな……。錠前一佐に知れたら無限ハイポート走の刑だぞ」
『だろうな、でも今はそれより確認すべきことがあるだろ』
「あぁ……ウォッチャー、ドローンで敵アサルトの確認をしてくれ」
ドローンのローターを変形させ、オスプレイのようなホバリングへ移行。
至近距離に近づいて、兵士の正体を確かめる。
緊張の数秒が流れ、ウォッチャーが呟いた。
『……痩せたアジア系の男性が4人、筋骨隆々の白人が1人。武装は……“AK-12”アサルトライフルと思われる』
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