第170話・世界トップクラスの戦闘
皆さんコメント欄で結構良い考察とかしますよね。
いつも感想ありがとうございます。
キャスターの言葉が、無線を通じて特戦群全体に響き渡り、部隊の士気はさらに高まった。
彼らは世界トップクラスの軍隊と区分される自衛隊の中でも、特に選りすぐられた自衛官であり、どんな困難な状況でも冷静かつ、効果的に任務を遂行する訓練を受けていた。
あの現代最強と言っても良い錠前1佐が育てた、文字通りの怪物集団である。
5人にも満たない人数で、80以上の敵を迎え撃とうとしていた。
『ウォッチャーより各位、方位300より敵性集団が4グループに別れて進軍中。武装は弓、剣……これは杖か?』
彼はドローンで熱源反応を追いながら、敵の進路と可能な攻撃パターンを迅速に分析していた。
国産高性能カメラにより、敵の動きや装備は丸わかりだ。
それゆえに、“妙なもの”を捉える。
『気のせいかもしれないけど……、最後尾の敵が“銃”を持っているように見える』
「銃だと? 杖の見間違いじゃないのか?」
倒れた木を飛び越えながら、移動中のキャスターが返事をする。
『かもしれない、だが警戒はしてくれ』
「……」
こういう時、あの新海透ならどうするのだろうか。
配信や話を聞く限り、特戦でも十分通用する実力を持っているように思える。
何より錠前1佐の目かけだ……、その時点で弱いわけが無い。
彼ならきっと、自分とは全く違う案を出すのだろうな。
「よし」
徹底的な分析に基づき、キャスターは戦術を立て、敵部隊の接近ルートに沿って伏撃のための位置を選定する。
新海透には、負けられない。
「アーチャー、エルフの部隊が森林を通って進軍してくる。お前の射線上に入ったら撃て、連中が開けた場所に出次第––––数を減らすんだ」
アーチャーは冷静に応答した。
『分かった、風向きと距離を計算しておく。このくらいならレーザー測距儀ですぐ出せるだろう』
一方、キャスターとプリテンダーは迅速に展開し、迫る敵部隊への対応準備を整えた。
キャスターは最新の自動小銃『M7』を構え、ウォッチャーは手元のタブレットでドローンの映像を監視しながら、最適な射撃ポイントを確認。
『ドローンからの映像で敵の陣形と動きを把握している。連中が予想していない方向からの攻撃で、奇襲をかけよう』
ウォッチャーの提案に基づき、キャスターは迅速に機動、敵に気付かれない位置へ移動した。
彼らは森の中に潜み、敵部隊の進行を静かに待つ。
「来たぞ」
やがて、エルフの追加部隊が接近してきた。
彼らは警戒しながらも、パワードスーツを回収するために進軍しているようだった。
その瞬間、アーチャーが動いた。
––––バスゥンッ––––!!!
サプレッサーで抑制こそされているが、距離600メートルでバレットM107が巨大な音を立てて発射された。
飛翔した12.7ミリ弾は、先頭の重武装エルフを撃ち抜く。
鉄の鎧に大きな風穴が開き、血を撒き散らしながら倒れた。
『命中、ハートショット』
ウォッチャーのドローンカメラには、遠距離狙撃で次々と数を減らすエルフが映っていた。
意外と知られていないが、自衛隊の狙撃手は世界的に見てもトップクラスの実力を持っている。
偵察の術はもちろんながら、その卓越した射撃能力は欧米先進国の軍ですら驚くもの。
2018年にオーストラリアで開催されたAASAM2018では、国産スコープを使用しての優勝経験もある。
加えて翌年のAASAM2019では、スナイパー部門と戦闘部門でも大会に名だたる成績を残した。
これは十数ヶ国の軍が参加する、世界屈指の高難易度大会だ。
自衛隊は、その中でも驚異的な実力を世界に知らしめていたのだ。
その中でもさらに上澄みである特戦のアーチャーは、もはや錠前か米軍でも連れて来なければまず相手にならない。
『敵の隊列が乱れたぞ、そっちに逃げてる』
マガジンを交換しながら、アーチャーが動向を報告。
エルフたちはなんとかパワードスーツを回収しようと走るが、目的地には悪魔が潜んでいた。
「いらっしゃいませ」
猛烈な発砲音が連鎖した。
バイポッドで固定した機関銃を、完全偽装したプリテンダーがフルオートで発射したのだ。
彼が持っていた銃は、上述の通り機関銃。
しかし、普通科が使うミニミではなかった。
––––シュドドドドドドドドドドドッ––––!!!!!
打ち鳴らされるは低く重い音。
発射されていたのは、M7アサルトと同じ6.8ミリ弾だ。
銃器名は『M250』。
こちらも米軍が使う、最新鋭の次世代機関銃だった。
「順にあの世へお連れしろプリテンダー、鹵獲したパワードスーツへ近寄らせるな」
M7をセミオートで発砲しながら、キャスターが呟く。
エルフたちはそれなりのタメと詠唱、そして人数がいれば一瞬ではあるもロケット砲すら防げる。
しかし、まるで魔物が食い荒らすかのような鏖殺の現場では、防御魔法の精度も低い。
次々に魔法を貫通され、その数はあっという間に半分まで減らされる。
エルフたちの壮絶な抵抗にもかかわらず、特戦群の圧倒的な火力と戦術が彼らを追い詰めていった。
キャスターの目は冷静に戦場を見渡し、次の一手を考える。
「敵の反撃が予想されるな、ドローンをもっと下げてくれ」
彼の指示で、ウォッチャーはドローンをさらに低空に降ろし、敵の隠れた動きを捉えようと思案。
その時、一つの異変が彼の操縦するドローンの画面に映し出された。
『1グループこっちを向いてる、何かを詠唱してるぞ!』
無線を聞き、即座にキャスターは判断した。
「全員回避!!」
次の瞬間、空から降り注ぐかのような光が森を照らし、大地が轟音と共に揺れた。
エルフたちが最後の力を振り絞り、発動させた大魔法だった。
流星群のような光の雨が降り注いだ。
木々が薙ぎ倒され、発生した揺れで雪崩まで発生する。
しかし、特戦群の読みはそれすらも凌駕していた。
爆発の中心からやや離れた場所へ事前に移動しており、損害を避けることができた。
ドローンによる誘導と、歴戦の勘による神回避だった。
「そろそろかな……」
キャスターは静かに呟き、再び部隊を指揮し始めた。
エルフたちの大魔法による一時的な混乱を利用し、特戦群は反撃の機会を窺う。
「アーチャー、吹き戻しの風が強い……変化を読み、狙撃の準備を。プリテンダー、残弾と配置を確認しろ」
各自が即座に動き出し、再び戦闘の準備を整える。
エルフたちもまた、残った力を振り絞りながら形勢を立て直そうとしているかと思った。
次の瞬間––––
––––ダァンッダァンッダァンッ––––!!!
エルフがいる方向から、剥き出しの乾いた銃声が響いた。
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