第17話・お風呂の時間と久里浜の至福
かなり遅めの時間だったため、浴場に他の隊員の姿は無かった。
そもそも、ここユグドラシル駐屯地に女性自衛官はほぼいない。
規模は男子風呂と同等だが、明らかに四条と久里浜で使い切れる面積ではなかった。
だが、将来の拡張性を重視しての設計なので、特に問題は無い。
「こ、こんな大きくて綺麗なお風呂……わたし達で使って良いの?」
服を脱ぎ終わった久里浜は、あまりの感激にまた涙を流しそうになっていた。
次いで四条が入ってくる。
「えぇ、わたしも最初は戸惑いましたが……遠慮なく使ってください」
彼女から見て、久里浜は予想通りかなり華奢な身体をしていた。
潤いのある肌は張りがあり、セミロングの茶髪が子供らしさを際立てる。
身長は150前半なことも相まって、本当に高校生くらいにしか見えない。
正直言って、あの特殊作戦群とは思えなかった。
まぁ、それを言えば四条も自衛官には見えない容姿ではあるが。
「なっ、何ジッと見てるのよ……!」
「あぁ失礼……! つい。そうだ––––怪我は大丈夫ですか? あの訓練弾、かなり痛いらしいじゃないですか」
見れば、久里浜の身体のあちこちに軽いアザが出来ていた。
昼に透と戦った時のものだ。
「フンッ、これくらいの怪我––––特戦にいれば当たり前のようにつくわ。いちいち気にしないって」
そう言いながら、シャワー台へ行く彼女。
置いてあるシャンプーやコンディショナーが気に入ったのか、嬉しそうに洗い始める。
四条もそれに倣って、隣で一緒に洗う。
先に四条の方が全身を洗い終え、髪の長い久里浜が数分ほどして湯船に入って来た。
「ねぇ、アンタたちの配信チームってどんなことしてんの?」
気持ち良さそうに湯船に浸かる久里浜が、顔を向けながら聞いた。
「そうですね、主に広報目的でダンジョンの様子を生配信して国民に届けています。時には探索、時には戦闘……実戦経験という意味では、久里浜士長にとって悪くない環境だと思いますよ」
「フーン、まぁ群長が考えなしに行動するわけ無いか。わたしも配信に出れば良いの?」
「それが、少しグレーな部分でして……」
困ったように頬をかいた四条は、軍隊であれば至極当然の問題を口にする。
「貴女は特殊作戦群の隊員ですので、基本的に顔出しNGなんですよ。なので出すとなると……」
「なると?」
「全身を常時モザイクで覆うことになるかと」
「ブッはっ!?」
想像して思わずひっくり返った久里浜が、少し溺れかけた後に顔を出す。
「何それ却下! 余計怪しまれるでしょ!!」
「確かにわたしとしても編集がかなり面倒くさいのですが……、機密上仕方ないですよ」
「……ッ! 余計な心配しないで!」
キッと見つめて来た久里浜が、四条に詰め寄る。
「今のわたしはもう“特戦じゃない”。所属上––––習志野から来た普通の自衛官よ! そのために異動になったんだから」
言われてみればそうだった。
少々特殊とはいえ、彼女は今第1特務小隊の隊員なのだ。
身分上は、四条と大差無い。
顔出しNGは現役時が問題なのであって、実際に特戦を辞めた後は普通に顔出しをする元自だっている。
「なるほど、地獄の全身モザイク編集はとりあえず回避できそうですね」
「適当に第一空挺団から来たとか言えば良いわよ、下手に小細工したら今時のミリオタはすぐ見破ってくるし」
久里浜に関しては、次回の配信の時––––久しぶりに声ありで紹介しようと思った。
そこまで来て、四条はまだ大事なことを聞いていなかったと視線を向ける。
「貴女……、下の名前はなんて言うの?」
「言ってなかったっけ?」
「いえ、聞いてませんが」
「千華よ、久里浜千華––––あなたは?」
「衿華です、もしかして漢字一緒ですか?」
「っぽいわね……」
2人の女性自衛官は、その後も和気あいあいと話し込んだ。
入浴時間は35分。
ホカホカに暑くなった彼女たちを、しっかり冷えた––––久里浜ご所望の涼しい部屋が迎えた。
「この駐屯地––––最高!」
久里浜の満足気な声が響いた。
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