第169話・特殊作戦群
「こちらキャスター、目標沈黙。ロマンたっぷりなパワードスーツは無力化された。やるなぁ……四条家のお嬢さん」
中隊から約1200メートル離れた位置に、2人の自衛官がいた。
固定式の双眼鏡を覗きながら喋っているのは、防寒戦闘服の上から白色外衣を着た男。
「錠前1佐の受け持ちって聞いたから見に来たけど、結構やるじゃん。ぜひ特戦に欲しいね」
「特戦の試験は空挺とレンジャー資格を取ってからだ、んでもって連隊長の推薦。忘れたのかキャスター?」
「はいはい覚えてますよ、お前はお堅ければ、声も怖えなアーチャー」
「うるせぇ、声は元からだ」
アーチャーと呼ばれた自衛官は、匍匐の状態で隙なく巨大なライフルを構えていた。
40倍率という驚異的なズーム能力のスコープを乗せた、バレット社の『M107』対物狙撃銃が、銃口から煙を上げている。
「まぁ、錠前1佐が認めてるのは確かだな……。あんな動き、普通の隊員じゃできないだろう。官品スキー履いてジャンプなんかしないぞ普通……」
「俺思い出しちゃったよ、新着任者冬季戦技集合訓練の時のこと。福知山駐屯地だったかなぁ……。すっげぇ苦労したぜスキー訓練」
「お前、鹿児島出身だもんな」
「そうそう、だから素であんなスキー技術があるのは惚れるね。新宿での話聞いたか? あの配信小隊、ウクライナ上がりのロシア軍を相手にしても圧倒したらしいぜ」
「そうじゃなくちゃ困る。スペツナズでもない傭兵上がりの軍モドキに負けてたんじゃ、久里浜は一生特戦に戻れない」
「厳しいねー、アーチャーさんは」
そう言って双眼鏡を下げたキャスターは、横に置いてあったタンカラーのアサルトライフルを持ち上げた。
Mロックのハンドガードにはグリップ、さらに最新の照準器とサウンド・サプレッサーが装着されていた。
米国の最新自動小銃––––『M7』だ。
彼らの所属は“特殊作戦群”。
新宿での戦いで、錠前が指揮を執った日本最強の戦闘集団。
自衛隊––––いや、もはや日本軍と呼んでも良いレベルの軍人だ。
『こちら詐称者、配置された防御魔法の位置を大方特定できました。地雷も結構仕掛けられてる』
最新の小型無線機から、味方の声が響く。
「こちらキャスター、よくやった新入り。無力化できそうか?」
『いや難しいですね……、手持ちの装備じゃどれも中途半端になる。下手にやらない方が良い』
「そうか。観測者はどうだ?」
『横でドローンを操縦してますよ、なんなら上空を見てください』
言われた通り見上げれば、遥か高空に小さな物体が視認できた。
おそらく、あれでもこちらにわかるよう高度を落としているのだろう。
「国産のチルト・ローター・ドローンか……、どんくらい性能良いの?」
『横からモニターを見る限りは、スキャン・イーグルとほぼ変わらない情報量ですね。けれど性能は全てにおいて上回っています』
プリテンダーによると、1機あたりの価格はスキャン・イーグルの8分の1。
バッテリー交換で稼働し、それもマニュアル通りにやれば素人でも5分で交換できる。
さらには高性能国産バッテリーのおかげで、最大28時間の連続飛行も可能。
今のように人間が操縦することもできれば、あらかじめプログラムしたルートを飛行させることもできる。
もっとも、プログラム飛行はGPSか低軌道衛星のサポートが必須なので、ダンジョンでは使えないが……。
それでも、既存のドローンと比べて驚異的なパフォーマンスだった。
「そのドローン、あと何時間もつ?」
アーチャーはスコープから目を離さずに尋ねた。
「20時間は飛べるってさ」
キャスターの言葉に、アーチャーは頷いた。
彼はスコープで周囲を索敵し、銃口の向きを変える。
「アレで終わりとは思えん、パワードスーツを奪われるのは敵にとっても避けたいはずだ。すぐに反撃が来るぞ」
同時に、プリテンダーの声が無線を通じて届く。
『キャスター、およびアーチャーへ。ドローンで敵の追加部隊が接近しているのを確認。熱源反応は80以上』
キャスターは無線機を持ち、応答した。
「了解、位置は?」
『北東からです。おそらくあのパワードスーツを回収しに来たか、あるいは報復のためかもしれません』
「四条のお嬢さんがいる部隊はもう弾が無いだろう。アーチャー、この位置を保持してくれ。俺とプリテンダーで対応する。ウォッチャーは引き続き観測」
アーチャーは頷き、バイポッドで立てた銃を構え直した。
「任せろ。ここからでも支援射撃は可能だ」
キャスターはM7を肩に担ぎ直し、プリテンダーの方向へ走り出した。
「プリテンダー、戦闘の準備はいいか?」
無線機越しに聞こえるプリテンダーの返事は落ち着いていた。
『準備完了です。射程に入り次第敵を迎え撃ちます』
「オーケーだ、これより普通科の撤退を援護する。相手は魔法使いだ、どんなファンタジーな戦法を使って来るかわからん。一気に殺すぞ」
彼ら特殊作戦群が行うのは、普通の戦闘ではない。
現代最強の自衛官––––錠前から叩き込まれた信条はただ1つ、“一方的な殲滅”だ。
特戦のコールサインは、以前読者様に頂いたものを使用しています。
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