第168話・魔導スーツと新兵器
驚異的な光景に、日本中の視聴者が息を呑んだ。
エルフが魔法と未知の技術を融合させたパワードスーツを開発していたなんて、誰が予想できただろうか。
四条は一瞬の驚きを乗り越え、すぐさま注意を喚起した。
「全員、注意! あのパワードスーツは……きっとただの装甲ではありません。直感ですが、高度な魔法と物理的防御を併用しています。普通の弾丸ではダメージを与えられない可能性が高いです!!」
「構わん、撃ッ!!」
中隊長の指示で、すかさず機関銃手が発砲。
だが、四条の予想通り……5.56ミリ高速ライフル弾は、魔導スーツが展開した“光の盾”に弾かれた。
同時に、敵のエルフは挑発するかのように一歩前に踏み出すと、剣を振りかざし––––強力な衝撃波を放った。
攻撃は地面を掘り起こし、自衛隊部隊に向かって進んでくる。
「避けろ!」
中隊長の指示により、部隊は緊急回避行動を取る。
衝撃波は空を裂き、斜面の一部をえぐり取った。
爆風が過ぎた後、四条はカメラを調整し、深呼吸を一つ。
中隊長と目を合わせ、使うつもりの無かった“とっておき”を使用することにした。
「総員、弾種変更!! “対魔法弾”用意!!」
中隊長が指示すると、全員が青いテープの巻かれたマガジンを取り出す。
弾頭は通常のフルメタル・ジャケットと違い、青く輝いている。
「特殊弾装填よし、安全装置よし、射撃用意よし!」
部隊は命令に従い、速やかに弾薬を切り替えた。
この対魔法弾とは、ダンジョンの防御魔法に対抗するため開発された新型の弾丸で、まだ限られた数しかなかった。
この弾の開発経緯。
それは、まだテオドールが敵だった時のこと……。
彼女が纏った防御魔法を、自衛隊のライフルは終始貫通できなかった。
この先も同様の防御魔法を使う敵が現れた時に備えて、技術研究本部が全力で研究・開発。
ダンジョンで取れる魔法結晶を弾頭に組み込み、なんとか試作の段階に持ってきたのだ。
四条も20式に特殊弾を叩き込み、コッキングレバーを往復させた。
火薬量はJ3と同じなので、威力は十分。
「撃ち方始め!!」
自衛隊は再び一斉射撃を開始。特殊弾が放たれ、防御魔法に着弾する。
一瞬、パワードスーツが光り輝き、弾丸がはじかれるかと思われたが……。
「!?」
特殊弾は魔法による防御を貫通し、エルフのパワードスーツにダメージを与えた。
【効いてるぞ!!】
【この短期間で対魔法メタの弾薬を作ったのか】
攻撃は着実に効いている。
しかし、この特殊弾は全員に1マガジン……つまり30発しか渡されていない。
それを撃ち切れば、今度こそ終わりだった。
「四条2曹! 頼めるか!!」
「了解!!」
すぐさま起き上がった四条は、20式をスリングで吊ってスキー板を接地させる。
「総員、援護射撃!!」
一斉に銃声が轟く。
特殊弾がエルフの盾を粉砕した瞬間、四条は息を吸って––––
「突撃にぃ、前へ!!!」
超スピードで官品スキーを走らせた。
部隊の特殊弾が無くなり、とうとう矛が消え去る。
だがどうという事はない。
「はあぁ!!」
魔導スーツが体勢を立て直す前に、四条は単独で肉薄に成功した。
勢いのままジャンプし、エルフの直上へ辿り着く。
「ッ!!」
スーツに搭乗していたエルフは、反射で剣を振るった。
だが、直前に四条は緩めていたスキー板を足から分離。
囮として落としたそれを斬らせ、自身は背後に回り込む。
それでも尚、敵は諦めずに剣を振ろうとして––––
––––ガギィンッ––––!!!
四条の目の前で、魔導スーツの手首ごと剣が吹っ飛んだ。
少なくとも800メートル離れた場所から放たれた、12.7ミリ弾による狙撃。
生じた隙は、致命的であり決定的だった。
最後のマガジンを装填し、銃のボルトを前進させる。
「終わりです」
J3高威力弾が、魔導スーツの両手両足––––その“関節部”を至近距離から撃ち抜いた。
駆動部を破壊された敵は、糸が切れた人形のように倒れ込む。
ゆっくり近づいた四条は、その端正な顔で––––恐ろしくも優しく微笑んだ。
白色外衣を着ているせいか、雪の魔女のようだ。
「貴方の仲間からお願いされていましてね、助けられる者は全員捕虜にさせていただきます」
雪原に君臨した“氷の白雪姫”を前に、スーツへ搭乗したエルフは呆気なく降伏した。
同時に、周囲の者たちも到着した中隊が次々捕縛していく。
倒れた魔導スーツを一瞥した四条は、防寒戦闘靴で軽く蹴った。
「汚れや錆が多い……、ほとんど未調整で実戦に出したようですね。それでも誰かさんの狙撃が無ければ危なかった。完成か……もしくは調整が終わった物を大量投入される前に、決着をつけないと」
168話を読んでくださりありがとうございます!
「少しでも続きが読みたい」
「面白かった!」
と思った方は感想(←1番見ててめっちゃ気にしてます)と、いいねでぜひ応援してください!!




