第166話・ロングレンジ攻撃
第3エリア本格侵攻にあたり、陸上自衛隊はまず特科による制圧砲撃を開始した。
「第3、第4部隊––––所定位置に着きました」
即席の野戦司令部で、特科部隊の自衛官たちが忙しそうに動いていた。
前回の威力偵察では奇襲を受け、少ないながら被害が出たことで、自衛隊はより堅実に攻めることとしたのだ。
「MLRS部隊へ伝達、攻撃開始」
前線から数十キロ離れた後方で、16両のM270ロケット砲が火を吹いた。
弾頭は無誘導の通常弾だが、その命中率は驚異的だった。
「第一波––––弾着、今ッ!」
森へ隠蔽するように建てられた拠点へ、ロケット弾が寸分の狂いもなく落ちていった。
爆炎が木々を燃やし、エルフを吹っ飛ばす。
この自走ロケット砲は、ウクライナ戦争でハイマース自走砲と並んで活躍した兵器だ。
本来の運用方法は、ソ連軍へ対してクラスター弾頭での広範囲制圧が主だったが、日本が同弾頭の使用を禁止したため……一気に陳腐化したと思われていた。
実際、北海道でしか運用できないピーキーさも相まって陸自は2025年時点で全車退役。
もう二度と使わないと思っていた。
ところが––––
「前線のドローンより映像入電、……命中です。目標撃破」
自衛官が淡々と報告。
砲兵兵器は、ウクライナ戦争でその有用性が再証明された。
しっかりと観測しつつ、さらに日本の自衛官の高い練度が合わされば––––精密誘導弾と同等の戦果を叩き出せると判断したのだ。
実際、今この雪原エリアを10機以上の高性能国産クアッド・ドローンがくまなく飛行していた。
これは無線で十数キロを飛行可能で、前線に近い部隊が主に使って映像を送り––––渡された諸元を参考に特科が砲撃を行う。
ウクライナ戦争で、圧倒的物量を誇るロシア軍を撃退した有効な戦術だ。
その精密な砲撃により、エルフたちの拠点は壊滅的な打撃を受けていた。
「そろそろかな」
しかし、自衛隊もまた……敵の策略には警戒を怠らない。
彼らはこちらのロングレンジ攻撃や奇襲を想定して、今までよりもまだマトモな防衛策を取っていると推定されたからだ。
「第2波、準備完了。目標を再指定してください」
特科大隊の指揮官は、ドローンからの生中継映像を基に、攻撃目標を更新した。
前線の情勢は刻一刻と変わり、彼らはできるだけ敵に時間を与えたくないのだ。
「目標確認。エの3拠点、攻撃を開始します」
再び、ロケット砲からの攻撃が始まる。
しかし、今回はエルフたちも準備ができていたようで、弾着と同時に強力な防御魔法が展開され、一部の攻撃を防ぐことに成功した。
「魔法による防御か……。しかし、これで彼らの重要拠点位置が明らかになったな。観測部隊、この防御魔法の座標連絡を急いで進めてくれ」
野戦司令部では、戦闘の各情報を集約し、今後の作戦に反映させる準備が進められていた。
エルフたちの魔法技術は未知だが、今の自衛隊にはそれを解析し、対策する能力があった。
なんと言っても、こちらには“魔眼”持ちのアノマリーがいるのだ。
連中が未知の魔法を使えば使うほど、解析が進んで相手は不利になっていくのである。
同時に、歩兵からなる小規模な部隊が、エルフの拠点の側面を突くため……静かに雪原を進んでいた。
彼らは砲撃で撹乱されたエルフの防衛線を突破し、至近距離からの攻撃を目論んでいる。
「中隊長、進行状況は?」
「予定通りだ。敵の注意が砲撃に向いている間に、接近を試みる」
彼らは北海道に配備されていた、北部方面隊の雪原特化型戦闘員。
なんと、その移動手段は“スキー”だった。
「小隊前進! 目標地点まで進むぞ!」
この部隊は、スキー板を駆使しながら敵陣深くへと進んでいく。
自衛隊の北部方面隊が誇る雪原戦闘は、世界でもトップクラスだ。
スキーを使った機動戦術は、方面隊レベルながらフィンランド軍にすら匹敵する。
1900年代後半––––、超大国ソヴィエトとタイマンを挑むために創られた北海道の部隊は、まさに陸戦最強と言っても過言ではない。
部隊が林を高速で駆け抜けた先、ロケット砲の着弾した煙が見え始めた。
「さて、始めようか……ついて来れてるかな? 四条2曹?」
中隊長が振り返った先では、他の隊員と遜色ないレベルでスキーを使いこなす女性自衛官の姿。
第1特務小隊所属、四条2曹がスキーを使っていた。
「問題ありません、ではこれより––––」
彼女は頭部のカメラをオンにし、持ってきたスマホと同期させた。
「配信を開始します」
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