第162話・ヲタバレ
––––こいつ、本当に銃撃ちたいだけで自衛隊に入隊したのかよ!
胸をガッツリ掴んでわんわん訴えてくる久里浜に対し、坂本は「わかったわかった!」と叫んだ。
「内緒にしとく! 新海隊長や四条2曹にも言わない! けど錠前1佐は諦めろ、お前があの人にパーツの手配を頼んだ時点で多分バレてる!」
なんとか久里浜を引き剥がし、小さな肩を叩く。
っというか、普通に考えて上記2名にもバレているだろう。
それどころか、こいつの原隊––––特戦群の先輩すら多分察してる。
「うぅぅうう〜……! できればアンタだけにはバレたくなかったのにぃ……」
「なんで僕なんだよ……」
傍にあった椅子に座った久里浜は、ため息と共に紙箱を取り出した。
「…………幼馴染の頃から付き合ってた元彼の話、前にしたわよね?」
「覚えてるよ、8年以上付き合ってたけど別れたって」
「うん、そいつの最後の言葉がね……」
12ゲージ散弾をつまみ、上に持ち上げる。
「人生を銃器に捧げてる女に、これ以上付き合ってられるかよ。ここは日本だぞ。だってさ」
それは久里浜にとって思い出したくない過去の言葉。
決して受け入れたくなかった、自身の立場を表す言葉。
「ウケるよね、8年以上付き合ってようやく結婚ムード出してたくせに……自分の理想と違うからって、思い出したように消え去った。わたしが自衛隊に入って4ヶ月の時よ」
散弾をドラムマガジンに詰めながら、久里浜は語気を強めた。
「だからわたしは誓ったの、もう失うものなんか無い。とことん自分に正直に、好きなことで食べて行こう……ってね。そんでがむしゃらに頑張って、特戦にも入って好きな銃が好きなだけ撃てる生活を手に入れた」
32発を入れ終わり、ズッシリと重くなったマガジンを持った。
「だから悔いなんて無かった、無いはずだった……。なのにわたしは……また皆んなに趣味がバレるのが怖くなってた。せっかく仲良くなれたのに、また突き放されたらどうしようって……特にアンタは失望したでしょ?」
感情を失いつつある久里浜の瞳に向かって、坂本はいたって普通に返した。
「いや別に、ヲタクの自衛官とか今時珍しくもないでしょ」
「へ…………?」
虚を突かれた顔の久里浜に、同じく9ミリ弾を掴んだ彼は続ける。
「お前が銃器に人生捧げてようと、僕は何も気にもしないよ。エアガンに100万? あー軽い。それで僕を失望させるかもとか舐めてんの? こっちは自衛隊人生で総額500万以上はソシャゲ課金に突っ込んだ限界ヲタクだぞ。サ終したら全額無駄金になる俺とは比較になんねーよ」
マガジンのフチを机で叩く。
あまりに堂々とした態度に、しばし唖然とした久里浜は……。
「ぷっ……ハハ! 凄いわね。ソシャゲに500万って、どんだけなのよ」
涙目で大笑い。
対する坂本は、恥ずかしがる様子もなく銃器を調整していた。
それがどこかカッコよくて、今までウジウジとバレないか心配していた自分が……全くもってバカらしくなった。
いやホント、見事にバカらしい。
もう秘密にする必要もない、そう思った久里浜は––––どこか肩の荷が軽くなってスッキリしていた。
「ねぇねぇ、今日はこれで少し競い合わない? アンタは裸のヴィントレス、わたしはSAIGAでタクトレしましょうよ」
久里浜が陽気に提案すると、坂本は即座に同意した。
「いいだろう。ただし、本気でやるぞ。ぜってー泣かしてやる」
彼らは既にレンジでの準備を終えており、これから一連の射撃訓練を通じて、互いの技術を磨き合おうと提案。
そこには、ヲタク同士の確かな絆……いや、それよりもっと深いものがあった。
マガジンと銃を持っていざ出ようとした時––––
「ほう、君たちか……久しぶりだね。雪山で負けて以来か」
2人が振り向けば、そこには40代半ばの容貌を持った長い耳の人間。
“エルフ”が立っていた。
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