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第161話・員数外の武器

 

「奇遇だな」


「奇遇ね」


 ––––ユグドラシル駐屯地、屋外射撃場。

 米国のシューティングレンジをイメージしたここで、坂本と久里浜はバッタリ出くわした。


 通常陸自の施設……特に射撃関連は、厳重なセキュリティがある。

 しかしここは最前線。


 上長の許可を得られれば、休憩時間などにいつでも射撃ができるようになっていた。


 レンジの長さは20メートル、50メートル、100メートル、500メートルと4つも贅沢に用意。

 各々が使う照準器のゼロインのため、あらゆる種類のターゲットも設置されている。


「アンタも新海隊長に許可貰って来たの?」


「お前こそ、今日はレンジャーの連中と一緒に走り込みじゃなかったのか?」


 久里浜はその小さな身体に、まるで覆い被さるようなガンケースを背負っていた。

 重さは7キロを軽く超えているが、肩との摩擦部にクッションを置くなど対策していた。


「そっちこそ、デカいバッグ持ってどうしたのよ。64式はもうとっくに整備終えてるんでしょ?」


「お前こそHK416は手入れ済みだろ、なんでここに来た」


 だがそんな問いは、互いにバッグを開けたことで明示された。


「やっぱり……」


 久里浜が呟く。

 彼女の視線の先では、64式でも89式でも……なんなら20式とも違う銃が映っていた。


 古めかしい木製ストックに、古風なスコープ。

 バレル全体を肉厚の消音器(サプレッサー)で覆ったそれは、日本の銃ではない。


「『VSSヴィントレス』……、もしかしてロシア人の?」


「そっ、新宿で鹵獲したのを員数外として手に入れた。ダンジョン内部なら個人で管理して良いってさ」


 坂本は得意げに微笑みながら、VSSヴィントレスを慎重に取り出した。その独特なデザインと機能性は、一見しただけで価値が理解できるものだった。


「エルフとか耳が良さそうな相手の戦闘には、このサプレッサー付きの銃が最適だからな。音も小さくて、夜間や少数での作戦行動にはこの上ない」


 久里浜は興味深そうにそれを眺め、次に自分のガンケースを開けた。

 中から取り出したのは、彼女のお気に入りのHK416A5ではなく、ロシア製––––『SAIGA-12』だった。


 これは、セミオートで12GA散弾を連発できるショットガンだ。


「お前もかよ」


 そう、久里浜のこれも新宿でロシアから鹵獲した銃だった。

 しかも特筆すべきは、坂本と違って恐ろしく手が入れられているところだろう。


「マシマシだな、某ラーメン店みたいな感じ」


 坂本が呟いた通り、久里浜のSAIGAは持ち主だったロシア人が見たらひっくり返るレベルの物。


「ストックは固定だと使いにくかったから、根っこを加工してFAB(イスラエル製)の伸縮ストックに変更したわ。ハンドガードもリューターで削ってサードパーティ製のアルミ合金Mロックに」


 彼女の言葉通り、一新したハンドガードには1500ルーメンを誇るフラッシュライト、加えて持ちやすいようハンドグリップが装着されていた。


 さらに––––


「ハンドガードがアッパーレシーバーの上部まで伸びてるから、もちろん光学機器も載せたわ。ロシア人はアイアンサイトで運用してたみたいだけど……わたしからしたら論外ね」


 彼女の言う通り、銃上部にはイオテックのホログラフィックサイトが搭載されていた。

 これももちろんハイエンドモデルで、近接戦闘に特化した久里浜お気に入りの照準器。


 近距離で撃ち合いになったら、まず外すことは無いだろう。

 久里浜の解説は続いた。


「で、銃口(マズル)にもデバイスを付けたわ。近接戦に特化した相手をぶん殴れるやつ」


 これは文字通り相手を殴るため、先端がスパイク状になったマズル。

 いざと言う時は、これが銃剣代わりになるのだ。


「で、極め付けはそのクソデカいマガジンってわけか」


 通常SAIGAはAKに似た形のマガジンを使うが、今久里浜が持っている物にそれは付いていない。

 丸い箱型をしており、サイズは通常のマガジンの遥か上。


 圧倒的な装弾数を誇るこれは––––


「“ドラムマガジン”よ、装弾数は12ゲージ散弾が32発入る。もう最高、文字通り撃ち放題! SAIGAなんて撃ったことないから今からほんと楽しみなの!」


 彼女の声には明らかなわくわくが含まれており、その瞳は期待に輝いていた。

 坂本は彼女の熱意に感心つつも、1つ……思ったことがあった。


「なぁ久里浜」


「ん? なに?」


「前から薄々思ってたんだけど……、お前って重度の“銃器ヲタク”だよな?」


「……………………」


「いや……最初は特戦だから仕事でやってるのかと思ったんだけど、違うなって……この間のサバゲで確信したよ。普通の自衛官はエアガンに百万円以上も掛けないし、ロシア製SAIGA-12Kのカスタムをそこまで知らない」


 ダラダラと冷や汗を流す久里浜に向けて、坂本は無情にも言い放った。


「お前、自衛隊の入隊志願は確か災害派遣が理由だったけど……さては銃が撃ちたくてここに入ったな?」


 坂本が言い終わると同時だった。

 銃を放り置き、久里浜が物凄い勢いで坂本の服を掴んで来る。


「お願いお願いお願い!!! みんなにはそれ黙ってて!! なんでもする!! ホントお願いだからぁッ!!!」


 涙目になりながら、久里浜は必死に懇願した。

 どうやら、本当にまだ周囲にバレていないと思っていたようだ。


161話を読んでくださりありがとうございます!


「少しでも続きが読みたい」

「面白かった!」


と思った方は感想(←1番見ててめっちゃ気にしてます)と、いいねでぜひ応援してください!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 特選の方々は気付いてないふりをしてあげてたんだろうな
[良い点] ん?今なんでもって? [一言] 透との模擬戦で憧れの特戦と言っていたけど、あれが伏線だったとは…読めなかった!このリハクの目をもってしても! 休日はサバゲでエアガンに金かけて実銃撃ちたく…
[一言] めっさ古いライフルを愛用している銃器オタクが目の前にいますよ?(ニッコリ
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