第16話・久里浜のお部屋
「今日からここがわたしと貴女の共同部屋です、元からベッドは2つあるからそこを使ってください」
自室に入った四条が、新しく配信チームに加わった特殊作戦群––––否、元特戦の久里浜を連れて入室した。
彼女は群長の判断でいきなりダンジョン勤務が決まり、同じチームの四条と部屋を共有することとなった。
ちなみに、久里浜の私物は後から特戦の先輩方が纏めて送ってくれる。
なので、現状は最低限の物しか持っていない。
「……普通に広いのね、習志野より綺麗」
「それはそうでしょう、つい最近出来た駐屯地ですもの」
白が基調の部屋は、整理整頓されていてとても綺麗だ。
どこか良い匂いがして、ベッドやシーツに至るまでが新品なので、無意識に落ち込んでいた久里浜のテンションを上げる。
そんな彼女は、部屋に付いた“ある物”を見て驚愕した。
「えっ、“エアコン”がある……!!? しかも最新の国産……ッ!」
「っ? はいそうですよ、ユグドラシル駐屯地は一応電力に余裕がありますからね。全隊員が空調を––––」
話している最中の四条の肩を、久里浜がガッと掴む。
その勢いというか必死さは、まるで戦闘時を想起させた。
「じゃ、じゃあ……今日冷房掛けて寝ても良いの!!?」
「も、もちろん構いませんよ。自由に使ってください」
莫大な感激に襲われたのか、エアコンのリモコンを触りまくる久里浜。
そういえばと、四条は本土の事情を思い出す。
「全国の陸自駐屯地は、こぞって部屋に空調がありませんでしたね……。または故障、主に予算不足で」
「そう! そうなのよ! 習志野も地獄だったわ……、せっかくシャワーを浴びても布団で汗だらけになったら意味ないもん!」
「ここはいわゆる最前線ですからね、政府もある程度融通を利かせてくれたんでしょう」
2024年度から防衛予算が増えたとは言え、未だに陸自の生活環境はあまりよろしくない。
それもそうで、予算の大部分が戦闘機やミサイル、イージス艦などの高額兵器。
そして隊員の人件費に使われるのだ。
久里浜にとっては、寝ながら冷房を掛けるなど背徳感が襲うほどの贅沢。禁忌そのもの。
もし同じことを習志野でしようものなら、駐屯地司令にまで問題行動として報告されるだろう。
久里浜の小さな肩が、プルプルと震えていた。
そして、怯えた小動物のような顔で呟く……。
「し、四条2曹……」
「はい、なんでしょう?」
「今日だけ、今日だけで良いので……タイマー無しで冷房掛けながら寝ても良いでしょうか?」
本人なりに真剣なのだろう。
あまりに可愛いお願いに、四条はクスリと笑う。
「良いですよ、ただし風邪は引かないでくださいね」
パッと久里浜の顔が明るくなる。
すぐさま22度設定でエアコンを起動し、蒸し暑かった部屋を一気に冷やしていく。
「あぁ……最高、冷風が染み渡る……! また泣いちゃいそう」
「良かったですね。そろそろお風呂の時間ですが、久里浜士長––––着替えは持っているんですか?」
「ん〜部屋着も後から送られるらしいのよね……、一応PXでシャツとジャージのショートパンツは買ってきたけど」
「なら大丈夫そうですね、行きましょうか」
「ん? どこに?」
着替えを持ち、ドアノブに手を掛ける四条。
「せっかく同じチームになったのですから、部屋が冷えるまで一緒にお風呂……入りましょう」
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