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第159話・初めてのスパチャ

 

「とおるぅ〜……」


 ––––ユグドラシル駐屯地 食堂内。

 時刻は夜の11時半を回った頃、執行者テオドールの眠そうな声が響いた。


「あの。もの凄く眠たいんですけど……、なんでこの時間に配信するのですか? ふぁあ……」


 大欠伸するテオドール。

 彼女は普段、夜の10時には寝るタイプだった。

 お風呂はとっくに終えており、上下をパジャマで包んだ如何にももう寝ますよという格好。


 今日はピンクが基調の半袖と、飾る程度に柄の付いた同色のゆったりした長ズボン。

 ストンとした長い銀髪が合わさり、半端じゃない可愛さを誇っていた。


 それに対して、透もジャー戦姿でカメラの準備をする。


「テオ、食事をする上で––––どのタイミングが一番美味しいと思う?」


「どのタイミング……、やっぱり空腹時ですか?」


「半分正解、今からテオに食べてもらうのは––––ハッキリ言って今までと次元が違うぞ」


 異世界人の唾液が溢れ出そうになる。


 他に誰もいない食堂内で、テオドールが小さな身体を椅子に乗せた。

 正面に4Kカメラをセットし、いよいよ今回のご馳走を置く。


「これは……」


 配信をスタート。

 平日の夜ということもあり、仕事終わりの社会人などが一斉にチャンネルへ食い付いた。


【配信キタ!!】

【ほえドールちゃん久しぶりじゃね? パジャマ姿超可愛い。いつ見ても神々しいんだけど】

【やっぱこうして見ると異世界人だよなぁ……、アイドルかってくらい可愛いんだがさ】


 同接数は瞬く間に1億を突破。

 6割が日本人で、残りが外国人だった。


 戦闘はもとより、食レポでもない動画というのは言語をあまり必要としない。

 なので、外国勢の大半は多少の自動翻訳を使っての視聴だった。


 最も––––2025年時点では、AI技術もかなり進化している。

 細かなニュアンスなどはまだ無理だが、単純な会話なら個人が自己補完して楽しめるくらいまで成長した。


 時代の波が、第1特務小隊の配信を手助けしているのだ。

 ……まぁ、テオドールに関しては翻訳魔法のおかげで、全世界の言語をナチュラルに喋ってしまうのだが。


【おい、これテオちゃんの前に置いてあるのって……】

【は? まさかこれを食わせる気か……!?】

【おいおいおいおい、この時間にそれはヤバいぞ!!】


 スマホに流れるコメント欄を見て、透が声を出す。


「今日テオに食ってもらう物––––それはだな、これだ」


 フォークとコップを置く。

 テオドールの目の前には、『超濃厚!有名店完全再現、味噌辛野菜ラーメン』と書かれたインスタント食品が置いてあった。


【カップ麺!!!】

【だからこの時間なのか!!】

【おいおい新海3尉……! 罪の味を教えるつもりか!!】

【しかもこれ、明日発売の新商品じゃなかったっけ? なんで現物あんの?】


 前回のテオドールの動画から、彼女が美味しそうに食べるだけで莫大な宣伝効果が見込めることが判明していた。

 今日に至るまで国内外の至る所から、新商品をレビューして欲しいと防衛省に案件依頼が押し寄せた。


 普通ならば自衛隊なので企業相手に応じることは無いが、そこは透がカバーした。

 日本を復活させた英雄としての影響力は、1佐階級の錠前にも引けを取らない。


 彼の采配で、数多ある企業の商品から抽選で選んだのだ。


「透、これはなんですか……?」


 蓋を半分まで開けたテオドールが、不思議そうに中を見つめる。

 透の指示でスープとかやくの袋を取り出し、あらかじめ用意していた熱湯を注ぐ。


「これはカップ麺と言ってな、驚くことにお湯を入れて3分でラーメンが出来上がる凄い食事なんだ」


「凄い……ですか」


 蓋の上にフォークを置いたテオドールが、ニッと謎のドヤ顔をした。


「わたしだって今日に至るまで、様々な地球の食事をして来ました。もう十分舌の肥えたわたしを……あまり舐めない方が良いですよ?」


【ドヤドールちゃん】

【気のせいか、新宿の頃より肌の質感が良い?】

【肥えドールちゃん可愛い】

【なんか謎の自信持ってて草】


 そんな余裕のテオドールに、透は邪悪な笑みを見せた。


「ほう、つまり……大袈裟なリアクションはしないと?」


「そうですね、もうほえほえと無様な鳴き声は上げません。これでも執行者ですからね、今回で威厳を取り戻しますよ」


 3分が経過。

 随分と余裕たっぷりなテオドールだが、紙の蓋を開けてビクリと震えた。


「こ、これは…………っ!!」


 たった3分待っただけなのに、強烈なスパイスの香りが彼女を襲う。

 麺は柔らかくほぐれており、大量のかやくがお湯に浮かんでいた。


 この時点で動揺するテオドールだが、横から袋が渡される。


「スープの素だ、入れてみろ」


 衝撃が走る。

 まだこのラーメンは本気を出していない!?

 既にかなり濃厚なのに、さらに味付けするとなれば––––


「はわ……わっ」


 味つけ味噌を入れて混ぜた瞬間、スープの色が一瞬で濃厚そうなモノへ変わった。

 かやくと唐辛子の浮かんだスープの中で、モチモチの麺が浮かんでいる。


 立ち昇る湯気と共に、凄まじく濃い匂いが押し寄せた。

 空腹……しかも夜中というシチュエーションが、テオドールを一気に狂わせる。


「ぐぅッ……! こ、こんな程度では……」


 フォークを握り、味噌スープに浸かった麺を絡め取る。

 しばし呼吸を置き、覚悟を決めた彼女は……。


「はむっ」


 音を立てて麺を啜った。

 ––––瞬間。


「ンッ!!」


 テオドールに雷が走る。

 口の中いっぱいに広がった味噌のコク、それに絡みついた濃厚なスープの風味。


 唐辛子の僅かな辛味が合わさって、もはや暴力とも言える刺激のパンチが彼女の舌を襲った。


 咀嚼し、めいいっぱい抵抗……かなり唸ったテオドールだが、そのささやかな反抗も虚しく。


「ほえぇ…………」


 とろけるような笑顔。

 深夜ラーメンという罪の味に、自信に満ちていた彼女は呆気なく陥落した。


【ノルマ達成】

【ほえドール頂きました!!】

【なんだこの子、初めて見たけど可愛すぎる】

【ドヤドールちゃん、陥落】

【アイドルが深夜ラーメンで堕ちた!】


 ようやく一口目を飲み込んだテオドールは、眠気を吹っ飛ばされていた。


「な、なんですかこれ……! こんなの、こんなの抗うなんて出来ないじゃないですか!!」


 夢中で麺を啜り、気づけばスープまで飲み干してしまった。

 身体には悪いが、彼女は普段から健康食だしまだ若い。

 問題は無いだろうと思ったところで、透は大事なことを思い出した。


「あっ、きょうはスパチャのテストするんだった」


「スパチャ……? なんですかそれ」


「テオ宛のコメントに金銭を付与できるんだ、投げ銭とも言われてるな」


「つまり……お金を貰えるのですか? いくら何でも、他人の食事風景に払う人は少ないんじゃないです?」


「どうだろうなぁ……、とりあえずテストしてみないとわからん」


 軽い気持ちで画面をタップ。

 配信画面に「スーパーチャットが許可されました」と出る。

 透とテオドールが、2人してなんの気なしで画面を覗き込んだと同時––––











【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】【¥10,000】…………………………………………………………etc



「は?」


「ほえ?」


 赤色の文字が、画面を埋め尽くしていた。


159話を読んでくださりありがとうございます!


「少しでも続きが読みたい」

「面白かった!」


と思った方は感想(←1番見ててめっちゃ気にしてます)と、いいねでぜひ応援してください!!

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― 新着の感想 ―
読み返し中 126話でも触れていたけど、翻訳の加護があるからテオの分は翻訳しなくていいってことは、 ライブではネット回線を突き抜けて、アーカイブでも残滓があるってことでやばすぎる
[一言] 深夜帯にカップ麺などw コレはショックカノンダイエットの出番ですなwww
[一言] 夜中にラーメンを食わせるなんて、なんという罪なことをさせるんだ!許せん!スパチャ投げてやる! カップめんの会社、株価爆上がりやろなぁこれ…
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