第154話・魔王
ミリタリー路線からブレるつもりは無いのでご安心を、この男がおかしいだけです。
––––竜人は思考していた。
持ち得る力。持ち得る知恵。
己の持つ全てのカードと睨めっこしながら、蒼い空を見上げる。
「なぜだ……」
自身の身体は宙に舞っており、下には沖縄の街が広がっている。
全身の節々が激痛に悲鳴を上げ、抵抗する力をドンドン失う。
勝つつもりだった、圧勝できるはずだった……。
少なくとも、日本人に遅れを取るレベルではないと自負していた。
「まさか…………」
頭上に響くは冥界の鐘の音。
蒼色が狂気なまでに染まった空で、魔王の笑い声が響いていた。
狂気と惨劇を混ぜ合わせたような高笑いが、隔絶された空間を走り回る。
「まさか、ここまでとは………………ッ!!!」
高らかに笑いながら急降下してきた錠前は、空中にいる竜人へ襲いかかった。
その速度は凄まじいもので、ソニックブームの衝撃波と共に敵を殴り落とした。
「ぐぅおおああ!!?」
あまりに重すぎる一撃は、竜人を隕石のように地面へ叩き落とした。
コンクリートが噴き上がり、周囲が液状化する。
こいつは……、こいつは––––
「なんだ、もうおしまいか? まだ準備運動すら終わってないぞ」
何者なんだ!!!
「ぬぅああああああッ!!!!」
クレーターから飛び出した竜人は、建物を蹴って高空へ移動。
当たり前の如く空へ浮かぶ錠前に、両手を向けた。
「まだまだァッ!!!」
沖縄県那覇市を舞台に、ファンタジーもいいところな戦闘が繰り広げられていた。
まるでアニメか漫画かと見紛う光景だが、決してフィクションではない。
人間を超えた地球唯一の存在と、人外による激闘だった。
「ぬぅぁあっ……!!」
内側にエネルギーを集約、圧縮していく。
放たれればそれなりの威力になるであろう高熱の魔法は、しかし現代最強の男の前に––––
「ッ!!!?」
呆気なく破られた。
0.5秒という一瞬で距離を詰めて来た錠前が、すれ違いざまに竜人の両手を斬り刻んだのだ。
やはりというか、今度も魔力の流れを感知できなかった……。
いや、そもそもこいつは、
「天界2等技術––––!!!」
本当に“人間”なのか?
「『溶太刀』!!」
失った両手を魔力で再生。
道路上を超高速で機動する錠前に、竜人は燃える斬撃をマシンガンのように撃ちまくった。
空中から降った斬撃に建物や路上が溶断され、着弾箇所からマグマが噴き出す。
「ぬんっ!!」
柱となった溶岩の塊を操作。
それぞれが追尾性能を持った攻撃として、次々と襲いかかるが––––
「良い技だ、腕の再生も早い。思っていたより骨がありそうじゃないか」
「ッ!!」
周囲をマグマに囲まれた錠前は、溶けた路上をスケートでもするように移動。
サングラスの微調整をしながら、涼しい顔で猛攻を避ける。
「でも君は人間じゃないんだろ? 魔力による腕の再生は比較的簡単なはずだ。僕と違ってね」
建物を蹴り、再び空中へ。
信じられないことに、マグマの奔流を足場にして竜人へ接近。
驚愕に染まる寸前の顔を掴んで、
「もっと本気出せよ」
音速まで加速。
那覇の市街地へ向け突っ込み、もみじおろしの要領でモノレールの高架へ押し付けた。
「ゴッッガガ!! アゴアァァアアアアアアッ!!?」
痛みに悶える暇もなく強烈な打撃を貰い、ホテルに勢いよく突っ込む。
だが狂人は一切容赦しない。
空いた大穴から竜人へ追いつく勢いで侵入し、ホテルをぶち抜く前に相手を蹴り上げた。
天井から屋上までを一気に突き破り、高空へ飛ばされる。
再び蒼色の空が視界に入り、彼を不気味な鐘の音が迎えた。
––––カーンッ––––!!!
この戦闘が始まって4回目の音。
同時に、錠前の纏う魔力出力が一気に底上げされた。
やっと理解する。
この魔法結界は、時間経過であの狂人を無制限に強化する作用があるのだ。
さながらあの鐘は、魔王を讃美する死の狂想。
探知不能の斬撃、規格外の結界術、異常な再生能力、そして人間離れの身体能力。
自身の真上へ、錠前が超高速でやって来る。
その顔は、とても楽しそうであった。
「こんなはずでは…………」
鐘の音と笑い声が迫る。
「こんなはずでは……、なかった…………ッ!!」
「そぉらッ!!」
背中に砲弾級の蹴りを食らった竜人は、なす術もなく吹っ飛ばされた。
海浜公園の砂浜に落下し、周囲に衝撃波が走る。
もう限界に近い身体を起こそうとする彼の前に、錠前は降りて来た。
「天界1等神獣だっけ……、確かに強いんだろうけど––––」
ニィッと笑った魔王は、サングラス越しに雑魚を見る目を向ける。
「僕が強すぎるのかな? まぁ“食べた物”が物だしね〜、しょうがないか」
ようやく立ち上がった竜人は、なんとか魔力で全身を再生させる。
この一連の戦闘でやっとわかった、ヤツは。
この狂人は––––
「アノマリーを……、食ったというのか!?」
「そうだけど、なに?」
「ッ!!」
なぜそんな表情ができる。
どんな世界においても、この世の法則を超えた存在であるアノマリーを体内に入れれば……賢者級の魔導士でも即死する!
これはたとえ魔力適性がずば抜けた執行者という存在でも、例外じゃない。
あり得ない存在、常軌を逸した強さの正体に竜人は困惑する。
「っ……」
––––彼の推察に間違いは無かった。
実際、他の地球人や執行者がアノマリーを食べても、適応できず……死ぬだけだ。
なら何故この男は平気でいられるのか。
答えはとても、単純だった。
「お前自身も––––この世の法則を外れた者だと言うのかっ!!」
竜人の問いに……錠前は「さぁね」とだけ答えた。
もう躊躇などしていられない、自爆用の魔力を残す余裕など残されていなかった。
眼前に迫った死へ、竜人は最大限の抵抗を行う。
「主は微笑みて、光を注さん。盤外の空より手は伸びる––––」
右手に全ての魔力を集め、歩いてくる錠前に向けた。
それは、韓国で戦闘ヘリを両断した魔法のフル詠唱版。
「天界1等技術––––『斬』ッ!!!」
放たれた最高出力の斬撃は、錠前の両腕を斬り飛ばし……その腹へバックリと傷口を開けた。
血が溢れ出し、砂浜へ大量に赤色が染み込む。
仰け反った錠前に対し、竜人はすぐさま第2射を撃った。
照準は首––––胴から頭を離せば、たとえアノマリーだろうと確実に殺せる!
全ての望みを賭けて、彼は全力の『斬』を放った。
0.7秒後……必殺の斬撃は、威力をさらに上げて錠前1佐の首へ命中する。
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