第150話・新海VSテオドール
「行きますよ、透ッ!!」
「あぁ、来い––––テオドール!!」
地がえぐれるほどのパワーで足裏を蹴った彼女は、透の脇腹へ渾身の一撃を繰り出す。
そのスピードは、プロのボクサーを軽く超えていた。
「よっ」
「!?」
だが、透は一歩引くと同時に手で払いのけた。
マトモに食らえば、ガードの上からでも骨を砕く一撃を––––アッサリいなして見せたのだ。
それどころか、愛弟子を見るかのような笑顔で話しかける。
「凄いじゃないかテオ、ラビリンス・タワーの時とは基礎からして違うぜ」
「美味しいご飯のおかげです」
「そりゃ良かった」
鋭いカウンターで反撃する透。
しかし、現役陸上自衛官の打撃を、華奢なテオドールは問題なくガードしていた。
「やっぱ、見た目通り……とはいかねぇな」
攻撃を当ててみての感想は、相手が子供とは全く思えない。
透が言ったように、テオドールは全身を魔力で強化していた。
しかもその精度は以前を遥かに上回っており、栄養満点の食事を得た彼女は––––
「はぁあッ!!」
120%のフルパワーを発揮するに至る。
齢にして13歳のテオドールだが、その拳はなんと鉄筋コンクリートを砕く威力を持っていた。
ガード越しでも受ければ無事では済まない猛攻を、のれんの様に受け流すことで対応。
両者の競り合いがヒートアップする中、外野の観衆たちも盛り上がった。
「そこだ! 打ち込めテオドールちゃん!!」
「良いぞ!! その不埒な女たらしをぶちのめせ!!」
「かっこ可愛いぞ! ほえドールちゃん!」
さっきまでグラウンドをランニングしていた、レンジャー自衛官たちが声援を送る。
「あんの野郎共……!! おっと!?」
「よそ見は厳禁ですよ、透!!」
声援に気を取られた透へ、テオドールが仕掛けた。
「ヤッベ!」
刹那の油断から、透は強烈な足払いを受けた。
このまま尻餅を無様につくところが想像されるも––––
「ほっ!」
柔軟な動きで姿勢転換。
両手を地面に叩きつけ、カポエラの要領でテオドールへ反撃した。
最小限のガードを挟むことに成功するが、仰け反った彼女の腕にジンジンと痛みが走る。
「決めたと思ったのですがね……!」
「マスターが簡単に負けたら、それこそつまんねーだろ?」
「同感ですね、じゃあこれなら––––」
魔力を開放したテオドールが、左右に広げた両手へ魔法陣を浮かべた。
「どうでしょう!!」
パンッと手が合わさると、新海の足元が爆発で噴き上がった。
「あっぶねッ!!」
食らえばタダでは済まない攻撃だが、眷属は容赦しなかった。
「まだまだ!」
全力で回避を行う透を追いかけるように、爆破が立て続けに発生した。
アニメのような光景を見た四条が、汗を流しながら呟く。
「なるほど……、任意の場所に炸裂する魔法を付与しているんですね。それで動きを鈍らせる算段でしょうか」
四条の言う通り、爆発は透の回避先へ集中していた。
動きが止まったところへ、一気にテオドールが畳み掛けるのだ。
まさしくファンタジーな戦闘に、皆が呆気に取られる一方––––
「でも、隊長は地雷の出現位置がほぼわかってるみたいですね。ハンデありでもテオドールを問題なく捌いてる」
彼を誰よりも知る坂本が、冷静に分析。
確かに見てみれば、透はダンスでもするかのように地雷を回避。
その上で、強烈なテオドールの打撃を最小限の力でいなしていた。
そのカラクリを、両手を握った聖園が呟く。
「これが配信で見せてた……、新海3尉の“危機察知能力”ってやつですか」
透は己に向けられた殺気や敵意を、数キロ先だろうが探知できる。
テオドールが展開した魔法を、さっきから彼は直感だけで回避していた。
これこそ、あの錠前が評価する現代の異能––––
「そこ、空いてるぜ?」
「ッ!!」
激しい攻めを掻い潜って、透は掌底突きをテオドールのみぞおちへ打ち込んだ。
「くふっ……!?」
後方へ退いたテオドールは、痛みで呼吸が困難になりながらも反撃。
指先から魔力の塊を発射。
攻撃直後だったこともあり、透の右胸へ命中した。
「いっつ……!」
「ゲホッ、ゴホッ……!」
最初の命中打はお互い同時で終わった。
それでも、ダメージはテオドールの方が大きかった。
痛みで飲み込めなくなった唾液が、口端から溢れ落ちる。
「まずはお互い様だな」
「……そのようですね、けど––––」
口元を腕で拭ったテオドールは、その端正な顔に––––好戦的な笑みを見せた。
「勝負はこれからですよ」
金色の瞳が輝いた。
この5秒後、新海 透は背中に回避不能の一撃を食らうことになる。
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