第149話・後塵を拝すつもりはありません
「どもどもっす〜、異世界人と新海3尉の勝負場所はここですかー?」
––––ユグドラシル駐屯地、グラウンド。
椅子に座っていた四条、坂本、久里浜に陽気な声が掛けられた。
振り向けば、長い黒髪に八重歯が特徴的な若い女性自衛官。
最初に反応したのは四条だ。
「聖園3曹じゃないですか、アパッチの整備はもう終わったんです? っと言うかなんで模擬戦のこと知ってるんですか」
聖園と呼ばれた女の子は、「大丈夫っすよー」と快活な笑みを見せた。
「久しぶりっすねエリカ。自分で見る場所は終わったし、先輩の許可も取りましたよ。模擬戦のことは噂話にめざといわたしの情報網からっす」
「全く貴女は……、教育隊の時からまるで変わってませんね。相変わらず子供っぽい」
「たっははー、昔と変わらず氷の白雪姫は手厳しいっすねー」
座っていた坂本が、四条の方を向く。
「四条2曹の後輩ですか? なんつーか随分とガキっぽいですけど」
「後輩に見えますが同期です、でもお子様みたいなものなので好きに呼んであげて良いですよ。敬語も不要です」
この聖園という自衛官は、先の雪原エリア偵察戦で航空支援を担当したアパッチのガンナーだ。
四条とは兵庫県にある駐屯地の教育隊で一緒になり、仲良くなったとのこと。
その際、色々あって四条には逆らえない関係となった。
「酷いなーエリカは、もう少し同期をリスペクトしてくれても良いんじゃない?」
「リスペクトできる部分、ありましたっけ?」
「探してください! そこは全力で探すのが誠意ってものでしょ!?」
「貴女に誠意とかちょっと……」
「ほんっっとエリカはぁ!」
そう言いつつも、空いていたベンチのスペースに座る聖園。
坂本は女子3人に挟まれる形となり、肩身を狭くした。
「で、アレが噂の異世界人と攻略組の精鋭っすか?」
聖園が向けた視線の先で、透が準備運動をしていた。
迷彩服の上着を脱いで、モスグリーンのシャツから出た腕が陽に照らされる。
「透は良い筋肉をしていますね」
「そうか? 一応自衛官だしな……こんくらい付けないと仕事できないんだ」
普段彼は着痩せして見えるタイプだが、普通に細マッチョと呼ばれる部類の人間だ。
高校時代は色んなスポーツもやっており、その身体能力は日本人でもトップレベル。
ゴツゴツではないが、バランスの良い体型だった。
「なるほど、道理で強いわけです」
相対するテオドールはと言うと、やはり体付きなどは13歳女子のそれ。
腕も足も色白で細く、常識的に考えて透と戦えるはずも無いのだが……。
「なぁテオ、さっき魔法は無しって言ったけど……」
腕を振った透が、笑みを見せた。
「せっかくの機会なんだし、『ショックカノン』以外の魔法なら何でも使って良いぞ」
「その言葉……二言はありませんね?」
「あぁ、俺は本気のお前が見たいんだ。掛かってこい––––全力でな」
隙なく構えた透の正面、執行者テオドールはゆっくり目を閉じ……。
「透、わたしは貴方の眷属ですが……永遠に後塵を拝すつもりは一切ありません。だから––––」
金色の瞳が開かれた瞬間、彼女から膨大な魔力が溢れ出た。
覇気と一緒に放たれたそれは、暴風となって周囲へ吹き荒れる。
小さな体躯からは、想像もできないエネルギーだった。
「全力で––––貴方を倒します、我がマスター」
人間離れした速度で距離を詰めたテオドールが、本気のパンチを放ったことで試合は開始された。
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