第148話・執行者という存在
錠前への定時報告を終えた透は、敬礼して監督室から通路へ出た。
まだ課業終了まで数時間ある……、残りの事務仕事をしようかと思った矢先––––
「透っ!」
聞き慣れた可愛い声。
振り向けば、こちらに駆け寄ってくる彼の眷属––––テオドールがいた。
服装は都内にあるお嬢様学校の制服を着ており、白のシャツにリボン、チェック柄のプリーツスカートとハイソックス。
銀髪金眼も相まって、留学生感が凄い。
「お仕事は一区切りついたのですか?」
「一応な、お前も今日の聴取終わったんだな」
「はいっ」
テオドールは執行者という立場上、自衛隊よりこのダンジョンに詳しい。
よって、毎日4時間ほど聴取の時間が設けられていた。
「でっ、何か思い出せたか?」
「うぐっ……、申し訳ありません、今回も何も……。でも途中で出された昼食の豚丼が美味しかったです」
顔を赤らめながら言うテオに、透は思わず噴き出した。
「ははっ、テオらしいな。ご飯が美味しかったなら良かった、まぁ記憶はゆっくり思い出して行けば良いよ」
軽く笑いながら2人で歩く。
自衛隊は当初––––ダンジョンの主要施設や、管理室について彼女から聞こうとしていた。
だがマスター権限が透へ移る瞬間、テオドールは寸前でダンジョンの重要情報を脳から抜かれてしまった。
彼女いわく、ダンジョンマスターが行ったのだろうと推測。
ただ完全な記憶操作はできておらず、テオドールに記憶をいじられたという感触を残した。
同時に、うっすらとだが断片的に記憶を思い出せるとのこと。
なので、催眠療法も交えて彼女は毎日任意で聴取を受けていた。
そんなテオドールに、透はふと思ったことを質問する。
「テオって執行者なんだよな、そういう役職についてたってことはやっぱ特別なのか? ダンジョンマスターでも完全に記憶を抹消できないくらい魔法に耐性があるとか」
「その通りです、わたしたち執行者は……特別と言って良いほど魔法に適性がある人間なんです。だから魔法出力は普通の魔導士より遥かに格上ですし、耐性だってもちろんありますよ」
「なるほど、じゃあテオに洗脳とか記憶操作は一切できないってことか」
「そうですね、わたしに完璧な記憶操作は“絶対”にできません。それこそ––––ダンジョンの伝承にある魔王でもないと無理です」
「魔王?」
「わたしも断片的にしか知らないんですが、この世の法則を超えた人間をダンジョンではそう呼ぶらしいです。だからあのエルフ達も、未知の力を使う透を見て魔王軍と呼んだのかもしれません」
魔王はともかく、テオドールが記憶操作系魔法を食らう可能性が無いのは大きかった。
さすがはダンジョンの執行者だ。
「ところで透、1つお願いがあるのですが……この後って空いてますか?」
「なんだ? 別にテオのためなら空けるけど」
「ありがとうございます、いえ実は。前々からちょっとお願いしたいことがありまして」
「お願い?」
「そうです」
ちょっと駆け足になり、透の前に立つ。
「わたしと模擬戦をしてください、もう一度––––今度は透とタイマンで戦いたいのです」
「本当にいきなりだな」
真剣な表情で、テオドールは両拳を握った。
「ラビリンス・タワーでは、最終的に透にやられて負けました。こう見えて、わたしは負けっぱなしだと納得できない人間なんです、どうかリベンジさせてください!」
金色の瞳でジッーと見つめてくる。
こうまで可愛い眷属にお願いされては、とても断れない。
「わかった、じゃあグラウンドでやるぞ。武器は無し、魔法も禁止。ただし魔力と格闘技は無制限––––本気で来い。テオ」
「ッ……!! はい!」
嬉しそうに返事をしたテオドールから、やる気に満ちた銀色の魔力がオーラのように溢れ出た。
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