第147話・錠前1佐への報告
「いやーご苦労ご苦労、雪山で襲われたんだってねー。心労お察しするよ」
––––陸上自衛隊 ユグドラシル駐屯地。
第1特務小隊監督室。
広い部屋に入った小隊長の透は、眼前に座る陽気な上官へ呟いた。
「錠前1佐の予想通り、敵は執行者に次ぐ知的生命体でした。見た目は完全にエルフです」
「だよねぇー、完全にファンタジーな住人だもん。っていうか……87式が小破させられたってマジ?」
「大マジですよ、魔法……なんですかね。RPGほどではないにせよ対戦車能力があったみたいです」
「なるほど、つまり航空支援があっても油断できないってことだね……なぁ新海?」
「はい、わかってます。ヘリでの索敵もあんまりアテにし過ぎると––––」
「違うよ新海、僕が言いたいこと……わかるでしょ?」
背筋が自然に伸びる。
異質な覇気を持った錠前が、指を2本立てた。
「君は世界で僕に次ぐ異能だ。そんな新海がエルフごときの奇襲を許した、能力的に考えてあり得ないはずなんだけどなぁ……」
「ッ……!」
錠前が何を言いたいのか瞬時に理解した透は、目を逸らしながら頬をかく。
「ちょっと……、些細な考え事をしていまして。この際だから1佐に聞きたいんですけど……」
「おっ、なんだい? このグレートな上官に答えられないことなんて––––」
「女子がこっちに好意を向けてくれているとして、こういう場合は……俺からアプローチを掛けるべきなんでしょうか?」
「…………新海」
小皿のチョコレートを頬張った錠前は、コーヒーを飲んでから一言。
「お前……女たらしのくせに、今更そんなところで悩んでたの?」
「ばっ!! 女たらしじゃないですって!! ただちょっと、女子の気持ちがわからないだけで……」
「かぁ〜っ、……お前は基本スペック高いのにどうしてこう、女のことになるとポンコツになるのかねぇ。上官として心配になるよ」
「やっぱ、聞かなかったことにしてください……。別の相談相手を探します」
「そうして、女に興味が無い僕じゃ不適格だし」
話は戻り、エルフの処遇になった。
だがその処置は、早速透を驚かせる。
「軟禁はせず、自由に暮らさせる……ですか? それはいくらなんでも危険じゃ?」
捕まえて来たエルフは全員で8名。
今は拘束しているが、明日には駐屯地内を自由に歩かせるらしい。
「新海の意見は最もだと思うよ、けど今回はテオドールくんもいるし、そもそもあんな貧弱もやしのエルフごとき、暴れたところで誰だって制圧できる」
「まぁそうですが……、いえ。上官の命には従います。異論ありません」
「そう言ってくれると助かる、大丈夫––––必ず良い方向に進むから」
「はい、ところで……」
透はさっきからずっと気になっていたことを、錠前に意を決して聞いて見た。
「なぜそんなサングラスをしているんですか」
「あぁこれ? 良いでしょ、安物じゃなくて良いの買ったんだ」
「そうじゃなくて、どこに付けていくつもりですか……ダンジョン内にリゾートはありませんよ?」
「あっ、そういえば新海にはまだ言ってなかったっけ」
机の中から出されたのは、旅行雑誌。
かなり読み込んだ跡があり、あちこち擦れていた。
「実は明日から休暇の予定を入れていてね、本当に久しぶりだから……つい浮かれちゃって」
「あぁ、そういうことでしたか。ぜひ楽しんで来てください」
「もちろん、なんと1年前からホテルの予約をしてたんだ……。海の幸堪能コースで、色んなアクティビティ付き、最近は毎日“クソ不味い物”ばっか食べてたからね。久しぶりの休暇。楽しんでくるよ」
「ソウルでは謎の攻撃があったそうですから、気をつけてくださいね。日本人に被害が無かったのは奇跡でした」
「北朝鮮による東京襲撃、それを受けての反撃で……外務省が韓国内、特にソウルからの退避を勧告していたからね。邦人に被害が無くて良かったよ。気負うことなく遊びに行ける」
機嫌良さそうに雑誌をしまう錠前に、透は何気なく聞いた。
「ところで、どこに行かれるんですか?」
透の問いに、サングラスを上に上げた錠前が答える。
「––––沖縄♪」
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