第145話・ソウル事変2
攻撃に参加した兵士、そして観戦に来た野次馬が見たものは––––
「なんだよ……、アイツ」
「人……じゃないよな?」
河川上空25メートルに浮遊する、“人型の何か”だった。
何かと表現した理由は、至って単純である。
その“異形”が、人間とかけ離れた姿をしていたからだ。
全身を甲殻で覆い、角まで生えている。
「…………」
ゆっくりと……粘膜に覆われた目を開けたそいつは、周囲をじっくり見渡し、
「えっ?」
群衆の眼前から忽然と消えた。
否、より正確に言うなら––––民間人のど真ん中へ移動していたのだ。
信じられない、超高速で。
「逃げっ––––」
スマホを落とした時にはもう遅い。
ドラゴンと人間を合体させたような見た目の生物は、なんの躊躇もなく腕を払った。
変態が終わり、牙を剥き出しにした口が滑らかに動く。
「天界2等魔法––––『斬』」
焔を纏った腕が振られると、ひしめき合う群衆が一瞬で引き裂かれた。
胴体を真っ二つにされた200人以上が、体を燃やされて絶命する。
「なっ……!!」
愕然とする部隊。
何が起きたか理解できないが、現に今あの異形は––––魔法とも言うべきもので市民を殺した。
だがチャンスも生まれる。
距離500メートルまで迫ったコブラ攻撃ヘリは、市民が全員死んだことで武器を使用できるようになったのだ。
「化け物めッ!!」
トリガーが引かれると、20ミリ機関砲が発射された。
しかし––––
「なにっ!?」
地を蹴った敵は、とんでもないスピードで公園を走り抜けた。
弾幕を掻い潜り、気づけば上空から真横へ肉薄されて……。
「––––『斬』」
2本の指を向けたそいつが、魔法を発動。
コブラの航空機用合金製テールローターが、一瞬で切断された。
機体の制御が一気に失われる。
「メーデー! メーデー!! こちらハンターキラー04、墜落する!!」
操縦手の必死の抵抗虚しく、ヘリは建物に突っ込んだ。
爆炎が上がり、ビルが崩壊する。
パイロットも、建物内にいた人間も即死だった。
「1体目」
そう呟いた敵は、屋上を大きく跳躍。
混乱に陥ったコブラ部隊へ、追撃を掛けた。
「全機、全兵装自由使用!!」
歪んだ横隊で、コブラからTOW対戦車ミサイル、ハイドラ70ロケット弾、20ミリ機関砲が放たれる。
しかしそれら全ての猛攻を、正体不明の敵はビルの屋上を高速で飛び移りながら回避。
まだ発砲途中だった1機を掴んで––––
「ぬぅんッ!!」
地面へ向かって放り投げた。
凄まじい力に逆らうことができず、ヘリは未だ避難途中の市民へ突っ込んだ。
大爆発を起こし、街と人が業火で焼かれる。
「2体目……ん?」
砲弾と機銃弾が掠める。
体勢を立て直したK2戦車が、持てる全ての火力を投射したのだ。
「殺せ!! なんでも良い! とにかくアイツを殺せ!!」
燃え残った車を次々踏みつけながら、仮称––––“竜人”は突っ走った。
同時に、指を顔の前に持ってくる。
「闇より現れ、深淵を払え。我が穿つは天の御業––––」
上空へ大きく跳躍。
戦車、ヘリコプター、そして……大量の市民が眩い輝きに照らされた。
竜人は不気味な笑みを浮かべ––––
「天界1等魔法––––『爆轟烈波』」
自身の持つ全魔力を爆発エネルギーに変換。
竜人を中心として、超巨大な火球が出現した。
「はっ……………………?」
莫大な衝撃波が街を薙ぎ払い、逃げようとしたコブラ攻撃ヘリコプターは全機墜落。
主砲を向けていたK2は紙のように吹っ飛ばされ、落下先で大爆発。
野次馬に集まっていた市民も例外なく燃やされ、全てが灰と化した。
極大の爆発は己の存在を引き換えとして威力を圧倒的に底上げした、いわば自爆殲滅魔法。
爆発半径およそ2キロ超が蒸発、そこから10キロが即死範囲。
60キロ先まで巨大な衝撃波が押し寄せた。
ビルはドミノのように倒壊し、外に出ていた民間人は軒並み全滅。
ソウルに点在していた主要省庁を飲み込み、さらに悪いことに……避難のためヘリで離陸したばかりの政府専用機へも直撃。
その場で空中分解され、韓国政府の全閣僚が安否不明となった。
山より大きいキノコ雲の下は、まさに廃墟だけが残り……人口900万人の内、250万人(推定)が死亡。
行方不明者130万人(最低人数)、負傷者400万人(推定)を記録する––––韓国史上最悪の事件となった。
これにより、東京、ニューヨーク、ロサンゼルスと並ぶアジア最大の都市は––––たった一晩で“壊滅”した。
残存した政府要人は、釜山に首都機能を一時的に移すと同時、国連などに緊急人道支援を要請。
日本や欧米、台湾が主に応えた。
この爆発によりソウル市の実に3分の2が壊滅。
そしてさらに悪い報せとして––––韓国の北部国境。
38度線に、北朝鮮の陸軍大部隊が集結しているとの情報が入った。
総書記は声明で「併合の時が来た」と繰り返しており、弱った韓国へ侵攻する構えを見せていた。
これに加えて、韓国に生じた政治的空白を狙うように、中国とロシアが一斉に領空・領海を侵犯。
北朝鮮領内をロシア軍が南下していることを確認し、中国も強襲揚陸艦と艦隊を黄海に展開。
両国は「38度線以南は、歴史的に見て北朝鮮の領土だ」と主張。
軍事的バランスの崩壊により––––極東アジアは、一気にその緊急度を加速させた。
まるで、3国が示し合わせたような動きの速さと連携だった。
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