第142話・アパッチ・ガーディアン攻撃ヘリ
透たち地上部隊から3キロ離れた空に、4機の航空機が浮かんでいた。
ホバリング状態で静止するそれは、陸上自衛隊の”AH64Eアパッチ・ガーディアン“攻撃ヘリだった。
機首には30ミリチェーンガン、両翼からは大量のミサイルがぶら下がっている。
その重武装ぶりは、今まで使って来たコブラと比較にならない。
「戦闘、もう終わったらしいっすよ先輩」
1番機の若い女性ガンナーが、カメラの画面をポチポチと切り替えながら一言。
黒髪を伸ばし、八重歯を覗かせた小柄で可愛いWACだった。
「しくじったな……、上空の風が強くなければ、連中に奇襲なんてさせなかったのに」
1番機の機長兼、パイロットを務める男性自衛官が顔をしかめる。
このアパッチ部隊は、本当ならもう少し早く現場に到着していた。
ところが、低いながらも山々が集うことで発生した暴風のせいで、想定よりも到着が遅れてしまった。
「せっかく米国で訓練して来たのに、出番無しか……。このヘリの性能を試せると思ったんだが……」
「しょうがないっすよ先輩、まぁ今回は運が無かったってことで。っ––––ん?」
点灯するランプ。
地上からの通信だった。
『ウォッチャーからガーディアン01へ、感明送れ』
「ッ……! この声っ」
大急ぎで無線を取ったガンナーが、とっても陽気に声を上げた。
「あっ、こちらガーディアン01。感度良好。もしかしてエリカ!? 久しぶりっすー。送れ」
繋がったのは、地上にいる87式偵察警戒車の無線だった。
だが、相手は車両の主ではない。
『……お久しぶりです聖園3曹、相変わらず元気だけはたっぷりですね。っというか、今は任務中ですので普通に四条と呼んでください。送れ』
「えーっ! 同じ教育隊の同期だった仲じゃーん! ちょっとくらい融通利かしても良いんじゃない? エリカの固いところはお父さん譲り? 送れ」
『利きません、譲りでもないですし。次言ったら無線切りますよ? 送れ』
「ムーっ……」
不満気にした聖園は、とりあえず逆らわないようにした。
「わかったわかりましたよ四条2曹、教育隊の時みたくまた逆鱗に触れたくないですし。送れ」
『なら良いです、ひとまず––––米国で訓練して来た貴女にお願いがあるんです。送れ』
「なんっすかー? 送れ」
『ウチの隊長いわく、ここから4キロ離れた西に敵部隊がいるそうなんです。間違いなく敵でしょうし……掃射をお願いしたくて。CAS(近接航空支援)の要請は貴女にすれば良いんでしたよね? 送れ』
「それは問題ないんっすけどー……、なんで地上の人間がそんなのわかるんっすかー? 送れ」
『ウチの隊長は特別なんです、そのヘリの高性能サーモグラフィーカメラなら、容易に見つけられるでしょう? 終わり』
無線が切られる。
「んー……? 特別ぅ〜?」
半信半疑ながらも、聖園はパイロットに少し移動するよう要請。
木にぶつかるギリギリを低空飛行しながら、尾根を索敵して––––
「あっ、ホントだ……」
第1特務小隊のいる場所からちょうど4キロの尾根に、4つのグループで分かれた熱源反応。
倍率を上げて見れば、間違いなく人型……報告で聞いたエルフだった。
「すごー、本当にいた……」
「増援部隊か? だとしたら不味いな……87式がパンクから立ち直るための時間がいるだろう」
「そうっすね、だからエリ……コホンッ。四条2曹が支援要請を送ったんでしょう。武装は……、どうします機長?」
「4つの集団に、それぞれ4発ずつヘルファイアを叩き込む。今度はこっちが先制攻撃する番だ。地上の連中が先に発見したのは名折れだが……仕事をこなすぞ」
「了解!」
4機のアパッチは、エルフ増援部隊から7キロの場所に到達。
聖園はヘルメットを被り直し、視線と照準システムの連動を確認した。
今彼女の目には、7キロ先のエルフが持つ弓すらクッキリ見える。
「目標の武装を確認、敵性集団で間違いありません」
「よし、機体は安定させた。僚機も準備完了している。弾薬は全部アメリカさん持ちだ、徹底的に撃ちまくれ」
「了解っす、エリカちゃんたちには絶対近づけません」
セーフティを解除し、武装を選択。
赤色のトリガーに指をかけ––––
「発射用意––––発射ッ!!」
「全機、ヘルファイア全弾発射!!」
爆音を立てて、アパッチの両翼からAGM-114ヘルファイア対地ミサイルが発射された。
次々と放たれたそれは、計32発に上った。
ミサイルは上空へ突き抜け、放物線を描きながら目標へ突っ込んで行く。
錠前以来となる自衛隊側のネームドキャラです、少し後輩系っぽいキャラが欲しかったので。
「少しでも続きが読みたい」
「面白かった!」
と思った方は感想(←1番見ててめっちゃ気にしてます)と、いいねでぜひ応援してください!!




