第141話・自衛隊VSエルフ
【いきなり戦闘でスタート!? この配信チームいっつも戦ってんな】
【毎度状況がおかしいんだよ】
【ダンジョン危険すぎる。やっぱ民間のハンターじゃ危険だよ】
【これ相手は誰? モンスター?】
96式にもたれながら、坂本が特に緊張した様子もなく、ライブ画面が映ったスマホを操作していた。
「四条2曹ー、コメント欄は許可で良いんでしたっけ?」
けたたましい銃声の中、呑気に質問。
スコープが載った89式アサルトライフルを撃っていた四条が、マガジンを落としながら隠れる。
「大丈夫ですよ。それより、ちゃんとわたしのカメラと同期できてますよね?」
「そこは問題無いみたいです、しっかり四条2曹のヘルメット視点ですから」
「駐屯地から大分離れてるのに、しっかり4G回線なあたり……このダンジョン自体が、通常の物理法則を無視して作られてるんでしょうね」
普通なら、こんな雪山に来た時点でよっぽどの中継局でもなければ、インターネットには繋がらない。
しかし坂本の言った通り、ダンジョン内での配信は4G……場所によっては5G回線で安定している。
これはやはり、空間が見た目よりずっと歪められているせいだろう。
いずれにせよ––––
「好都合です、透さん!!」
「なんだ?」
マガジン交換をしていた透が、岩の影で返事をする。
「敵の配置、そろそろわかりましたか?」
「あぁ、ちょっと待て……」
目を瞑り、神経を集中させる透。
彼の持つ特殊な異能、“危機察知能力”がフルパワーで発動された。
さっきは考え事で脳のほぼ全てを使っていたので奇襲を察知できなかったが、基本的に彼へ先制攻撃は通じない。
「10、20……なるほど」
もし今回のように奇襲が成功したとしても、戦闘が攻撃側に有利となることは無かった。
なぜなら––––
「敵が突っ込んでくるぞ! 結構速い。近接戦闘用意!!」
彼の危機察知能力は、戦闘中––––“無制限”に範囲と精度を高めていく。
この戦いが始まってまだ5分だが、既に半径1.5キロが透の能力のカバー範囲。
「着剣!!」
透、四条、久里浜が各々のライフルに、銃剣を装着した。
同時に、傍の隊員が叫ぶ。
「敵エルフ10体以上! ジグザグで突っ込んでくる!!」
アラン達エルフ部隊が、斜面を高速で滑って一気に肉薄して来た。
87式と96式が、機銃で迎撃するが……アラン達は曲芸じみた動きで弾丸を回避。
数人が射殺されるも、数を殆ど減らすことなく自衛隊部隊との距離を詰めて来た。
【エルフ!? 本物のエルフだ!!】
【自衛隊VSエルフってどんなファンタジーだよ】
【すげえ動きしてんぞ、あれも魔法か!?】
ざわつくコメント欄の意見は間違っていない。
アランを始めとしたエルフ突撃隊20名は、『身体能力強化魔法』を使用していた。
それにより、常人を遥かに上回る動きを可能にしている。
「死ね!! 魔王軍!!」
大きくジャンプし、1人のエルフが96式の重機関銃手へ剣を振り下ろす。
確実に仕留められるシチュだが、剣が当たる間際に彼は横っ腹から衝撃を受けた。
「誰が魔王軍よ、失礼ね」
全力ダッシュしてきた久里浜が、寸前で横から蹴りを入れたのだ。
地面へ落ちる僅かな間で、彼女はすぐに姿勢転換––––HK416A5を連射し、エルフを仕留めた。
「総員着剣!!」
発砲をやめた自衛隊部隊は、すぐさま近接戦闘に移行した。
よく銃剣は現代の戦闘において不要と言われるが、実際は間違いである。
「坂本は64式で久里浜の援護に徹しろ! 俺らが壁になる!!」
至近距離まで詰めて来たエルフ6体を相手に、透と四条はCQCを織り交ぜた銃撃で対処。
その動きは、魔法で強化された敵を上回っていた。
【出た! サバゲで見せたエグい近接戦闘術!】
【2人共に息がピッタリ過ぎるだろ】
【自衛隊が銃剣に拘り続けた理由がこれか……!】
前回サバイバルゲームで見せた透と四条の動きは、今回––––味方同士となったことでさらに磨きが掛かっていた。
「よっ」
「はぁっ!」
斬撃を銃剣で防ぎつつ、透はすぐさまストックでの打撃に移行。
生じた隙を縫って、腰のSFP-9自動拳銃で対処。
また、すぐ近くの四条と連携することで、数倍の敵を至近距離で次々に捌いていった。
「四条」
「わかってます、“生け取り”ですよね? 急所は外してますよ」
透と四条は、敵を殺さず無力化に留める。
一方の坂本と久里浜は、生け取りを2人に任せて鏖殺へ回っていた。
「なんだこのガキ……! こっちは魔法で強化してるのに、動きが速すぎる!!」
4人掛かりで久里浜に攻撃を仕掛けるが、彼女は小柄な体躯を活かして全回避。
ライフルから手を離して、サブウェポンのG17 Gen5 MOSハンドガンへ切り替え。
体術と組み合わせて、特殊作戦群に相応しい動きで撃ち殺していった。
「部下はこれ以上やらせん! ここで––––貴様ら魔王軍を食い止める!!」
もはや壊滅状態となったエルフだが、最後に残ったアランが透へ斬り掛かる。
だが、背後からの奇襲など透には決して通じない。
「おっら!!」
柔道の要領で背負い投げを食らい、アランは雪原に叩きつけられた。
次いで、すぐさま銃剣を顔へ突き付けられる。
「知性のある敵は執行者以来なんでな、悪いけど……駐屯地まで一緒に来てもらうぜ」
「ッ…………!!」
剣から手を離すアラン。
見れば、他のエルフたちも既に自衛官達によって制圧されていた。
まさか……!
「魔法無しで……、こいつら日本人はここまで強いと言うのか……!!」
降伏するエルフ部隊。
それでもまだ諦めたわけじゃない、念波を感じる……さっきの増援要請を受けて、100を超える他のエルフ部隊がこちらへ向かって来ていた。
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