第140話・奇襲攻撃
透たち偵察部隊––––96式装輪装甲車6台と、87式偵察警戒車2台は、完全な待ち伏せに遭った。
雪の積もった森で潜んでいたのは、長い耳を持った異種族。
「奴らがベルセリオン様の言っていた“魔王軍”か、話通りの妙な鉄箱だ……総員攻撃準備!!」
自衛隊部隊が進んでいたのは、峠を越えるための1本道。
左右を濃い森林で覆われていたため、敵が隠れるのは非常に容易だった。
「“千里眼”からの念波をキャッチ、間も無く見えるぞ」
彼らは“エルフ”と呼ばれる種族……、執行者ベルセリオンがここ第3エリアに配置した防衛部隊だ。
その手には、淡く光る木製の弓が握られている。
「炸裂魔法詠唱よし、弓兵部隊準備完了……さぁ来い」
なだらかな坂道に、エンジン音が響く。
いよいよ姿を現した迷彩色の車両に、総勢50名のエルフ部隊が攻撃を仕掛けた。
「黒きを払い、闇を穿て……『高位炸裂魔法』!!」
両側の森から、魔導士を務めるエルフが魔法攻撃を放った。
真横から襲った爆発は、先頭の87式偵察警戒車へ直撃。
6輪あるタイヤの内、3輪がパンクした。
「なんという硬さだ……! 貫通させるつもりで撃ったのだがな、だがこれで良い……。弓兵部隊、放て!!」
次いで木の上に登っていたエルフが、撃ち下ろす形で次々に弓を放った。
“貫通”、“威力強化”、“速度向上”の三大エンチャントを纏った矢は、後続の96式へ容赦なく襲い掛かる。
甲殻型モンスターをも容易に貫く攻撃……、現場部隊長のアランはこの時点で勝利を確信した。
だが––––
「なにっ!?」
左右から飛んできた矢を、96式は装甲板で全て弾いてしまった。
やじりが砕け、雪の上にポトポトと破片を落とす。
「バカな……! 我らの長老が1週間掛けて付与したエンチャントだぞ」
確かに弓矢としては規格外の威力なのだろう。
もしこの場にテオドールがいれば、良い魔法だと少しは褒めてくれたかもしれない。
しかし、彼らが矢を撃った相手が想定する武器は。
「アラン隊長! 千里眼から警告です! 奴ら殆どダメージを負ってない! すぐに次の手を––––」
火薬で音速すら突破する、鉄の塊だ。
パンクさせられた87式偵察警戒車の、25ミリ主砲がグッと旋回––––火を吹いた。
––––ババババババババッ––––!!!
凄まじい連射で、小柄な車体から25ミリ砲弾を撃ち出す。
その制圧力は圧巻で、魔法で派手に輝いていた魔導士部隊を、一瞬にして引き裂いてしまった。
木に隠れた者もいたが、25ミリ砲弾は根っこごとエルフを粉砕する。
次いで、ダメージを与えたと思っていた96式にも動き。
上部に取り付けられたM2重機関銃へ、車内の自衛官が取り付いた。
12.7ミリの大口径弾が、軽快に連射された。
さらに並行して、後部のハッチが解放。
迷彩服を着た隊員たちが、小銃を持って迅速に展開。
たった十数秒で配置に付き、車両や岩を盾に射撃を開始した。
「千里眼から警告です! 攻撃は失敗! アラン隊長!! 今すぐ撤退を!!」
そう言っていたエルフの念波が途絶える。
入念に隠れているにもかかわらず、自衛隊は既に殆どのエルフの位置を把握していた。
彼らは弓矢を果敢に放つが、半ばパニック状態で射っても人間にはそうそう当たらない。
逆に、位置がバレれば木の上だと簡単に逃げられなかった。
––––ダンダンダンッ––––!!
8倍率のショートスコープで位置を捕捉された者から、順に20式アサルトライフルの餌食になっていく。
左右からの挟み撃ちという優位な状況にも関わらず、エルフ部隊はドンドン数を減らす。
もはや逃げることもできないと悟ったアランは、最大出力で念波を放った。
《敵は8番峠にあり! 勇気ある戦士たちは村の存続のため、魔王軍を迎撃せよ!!》
増援要請を送ったアランは、腰の剣に手を伸ばす。
「剣士部隊、前へ!! ここでなんとしても魔の者たちを食い止めるぞ!!」
坂道を滑るように下り、激しい弾幕の中をアラン達は突撃した。
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