第14話・好きに使えと言われましても……
「ッヴヴヴゥゥヴヴ––––ッ!!! グスッ! えぐ、うううぅぅううッッ!!!」
応接室に戻った久里浜は、それはもう盛大に泣きじゃくっていた。
整っていたセミロングの茶髪は乱れ、ひたすら子供のように泣き明かしている。
っというか、完全に子供だった。
「いやー見事な戦いだったよ、これだけで来た甲斐があったというものだ」
非常に満足そうに頷く城崎群長。
対面に座った透としては、どこか気まず〜い感じがしてたまらない。
とりあえず、気になっていたことを聞いてみる。
「えっと……、つまり。久里浜士長が負けることを……特戦の先輩方は分かってて見てたんですか?」
透の問いに、12.7ミリ対物狙撃銃を持った特戦員が答える。
「まぁそうだな、だってこいつ……まだ特戦に入って1ヶ月だし。そもそも19のガキだし、実戦任務もまだのひよっこだよ」
「マジすか……」
道理で他の隊員と雰囲気が違うわけであった。
彼らは明らかに人を殺し慣れた目をしているのに、久里浜だけはどこか一般隊員と似ていたのだ。
つまり、訓練以外で撃ったことなど無いのである。
「ッ……!! グゥっ、えっぐ! ふぐぅ……! 悔しいよぉぉ……!!」
「はいはいヨシヨシ、頑張った頑張った」
盛大に泣く久里浜を、他の特戦員がまるで子供を宥めるように接している。
最初は上下関係を無視するほど強いと思ったが、実態は少し違った。
単に、上官や先輩からやたらと可愛がられているだけなのである。
しかし––––
「ルームクリアリング、状況判断、装備の使い方。どれも久里浜士長はかなりのレベルだと思いました」
透は純粋に久里浜の実力を見ていた。
「ルール上問題無かったとはいえ、壁越えというイレギュラーを使わなければ……一方的に負けていたのは俺の方です」
「特殊作戦はイレギュラーが付きものだ。地形を利用し、不意を突いた君の戦術は確かに久里浜を上回っていたよ。謙遜しなくて良い」
透は思う。
おそらくだが、群長を始めとして他の隊員たちはこの結果がわかっていたのだろう。
強さは普通の自衛官を大きく超えているものの、“イレギュラー”という要素を久里浜に体験させたかったのではないか。
「いつまで泣いてるんだ久里浜」
「だってぇ……! 悔しいんですよぉッ!!」
「結果は結果だ、受け入れろ。あと––––新海3尉にお前は言うべきことがあるんじゃないのか?」
城崎の声に、まだ声を上擦らせた久里浜が目を擦る。
「……すみませんでした新海3尉、グスッ! 自分の言動が間違っていました……!」
「俺はそこまで気にしてないよ、納得してくれたならそれで良い」
「次は……! 次は絶対倒すッ。覚悟……ひぐっ、しててください!」
ボロ泣きでのリベンジ宣言を受け取り、思わず微笑む透と隊員たち。
そこで、城崎がいきなり手を叩いた。
「新海3尉、君たちは3人で配信チームを構成しているんだよね?」
「えっ? まぁはい……市ヶ谷(防衛省)からの指示でダンジョンの配信を––––」
「せっかくの機会だ、ウチの久里浜士長をその配信チームに、一時的に入れてやってくれないか?」
「「ッ!!?」」
俺だけじゃなく、名指しされた久里浜も思わず飛び上がる。
「き、城崎群長……!! それってどういう……!!」
「お前に足りんのはイレギュラーへの対応力だ、教範通りやっても戦場で正解は得られない。新海3尉たちにしっかりダンジョンで指導してもらえ」
「じゃ、じゃあ……特戦は……?」
「一時的に異動だな、なにせウチの男共じゃお前を甘やかしちまう。安心しろ、ちゃんと配信の任務が終わったら戻れるようしておいてやる」
絶望––––これ以上なくその言葉が似合う顔をした久里浜が、机に突っ伏した。
「市ヶ谷には俺から言っとく、そんなわけで新海3尉。我々はそろそろ本土へ戻らんといかん。そこでくたばってる久里浜は貸してやるから、好きに使ってくれ」
「えっ、はい!?」
「じゃあ皆さん、全員撤収。習志野まで帰るぞ〜」
ドヤドヤと退室して行く特戦群。
後に残ったのは透と久里浜のみで、
「あっ、隊長……。地竜エリアの攻略日時が決まったのでお知らせを––––」
部屋に入った坂本が、気まずい空気に当てられた。
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