第138話・新兵器導入
––––ダンジョン内、ユグドラシル駐屯地。
陸上自衛隊 第2戦闘団、仮設飛行場。
駐屯地から800メートル離れたところにあるここは、陸上自衛隊のヘリコプター部隊が拠点とする場所だった。
格納庫やヘリポートが点在しており、何機もの航空機が止まっている。
全て、ダンジョンの外から一部分解して中に入れて来たものだ。
「いよいよ本格攻略まであと1週間だ、いや〜……間に合って良かったですよ」
コンクリート塗装の上を歩いていたのは、陸上自衛隊のダンジョン派遣部隊、航空群長を務める中田2佐。
そして、柄の違う迷彩服を着た軍人が数名。
日本人と比べて圧倒的に体格の大きい彼らの服には、“us army”と書かれていた。
「我々こそ、今日という日を迎えられて嬉しいですよ。Mr.中田。自衛隊が攻撃ヘリを全廃すると聞いた時は個人的にショックでしたが、まぁ結果こうなった……とても素晴らしいことです」
そう英語で話したのは、アメリカ陸軍 第3歩兵師団所属––––キング・ラッセン大佐だった。
彼ら数名の米軍人は、ダンジョン内に入れる数少ない外国人である。
ラッセンらアメリカ人に、中田2佐は流暢な英語で返した。
「攻撃ヘリの有用性は、残念ながら正規戦においては相対的に低くなってますからね。特にSAM(地対空ミサイル)が厄介です、ウクライナ戦争ではS-300や貴国のパトリオットの活躍が有名だ」
あの戦争では、当初圧倒的な航空戦力を持つロシアが圧勝すると言われていた。
だが蓋を開けてみれば、お互いが長距離SAMで睨み合って、航空機がゲームチェンジャーとなることはまず無かった。
一部……ウクライナ反抗での機動防御で、カモフ・攻撃ヘリコプターが活躍したが、それでも非常に多くが地対空ミサイルによって落とされた。
正規戦では、攻撃ヘリコプターの有効性が失われているのも事実だったが。
「しかし、依然––––非正規戦においてはとても有用な兵器です。ダンジョン攻略なら、さらに可能性は広がるでしょう」
彼らの目の前。4つあるヘリポートには……4機の攻撃ヘリコプターが停まっていた。
塗装は新品の陸自迷彩で、テールローターには【陸上自衛隊】の文字。
これらは、今まで自衛隊が保有したことのない最新鋭ヘリだった。
「『AH-64E・ガーディアン』攻撃ヘリ、期待しても良いんですよね?」
中田の問いに、ラッセンは大きく頷いた。
「もちろんです、本機は我が国が誇る最強のヘリコプター。もしウクライナ戦争で投入されていれば、間違いなくロシア軍を押し返すことでしょう」
何度も言うが、この型のアパッチは今まで自衛隊で導入していない。
ダンジョン出現後、大型UAVを中に持ち込めない事実を受けた政府が、秘密裏に米国へ打診––––
最新ヘリコプターのアパッチ・ガーディアン数十機と、パイロットの訓練プログラムパッケージを購入していたのだ。
機体は米国本土で訓練に使用した物を、日本人パイロットごとダンジョンへ投入。
かなり高く付いたが、ダンジョンが日本へもたらす恩恵を考えれば安い買い物だった。
プラス米国はアフターサービスで、弾薬の常時完全供給。並びに腕利きの整備兵を派遣。
さらには、自衛隊整備員への指導パッケージまで盛り込んだ。
上手く行けば、数ヶ月で日本人単独でのガーディアン運用が可能になる手筈だった。
「本来ならイスラエルに売却予定でしたが、日本は重要なインド・太平洋地域の同盟国です。我々としても、協力は惜しみません」
彼の言う通り、元々の納入はかなり先の予定だったが、日本は札束と太平洋戦略、ダンジョンの恩恵に物を言わせた。
結果として、第1陣の部隊がエリア攻略戦に間に合ったのだ。
「スペックの予習をしたいんですが……」
「もちろんです、アレを見てください」
ラッセンが指差した先で、米兵が給弾作業をしていた。
「機首の30ミリチェーンガンです、弾種は徹甲榴弾。4キロ先から一方的にモンスターを狙えるでしょう。威力はロシア軍の主力重AFVを蜂の巣にできますよ」
「なるほど、ミサイルの搭載能力は……当然コブラを上回るんですよね?」
「もちろんです、自衛隊のコブラはペイロード不足でフル武装ができない弱点がありましたよね? ですが、ガーディアンは完全に克服しています」
「コブラはTOW有線誘導弾2発と、ハイドラ70ロケット弾を積んだらもう限界だったな……ガーディアンだとどうなんです?」
「最新のヘルファイア対地ミサイルを8発、加えてハイドラ70を2基、さらに自衛用の空対空ミサイルを積んでも、コブラより航続距離は上です」
「ほぉ」
聞く限りは非常に魅力的だった。
このダンジョンは広い上に、モンスターが若干タフであることからコブラだと少々頼りなかった。
でもこのガーディアンなら、それら問題を一発で解決できる。
光学センサーや照準器の類いも、現行のアパッチを遥かに上回るとのこと。
防御力も向上しており、コックピットに12.7ミリ重機関銃を撃ち込まれても問題無いらしかった。
「このダンジョンじゃ毎回バカみたいに撃つんですけど、弾薬は約束通り供給して貰えますよね?」
「当然! 北米大陸から毎日新鮮な弾薬を無料でデリバリーしますよ。貴方がたは、実戦で得られたデータを我々にも共有してくださるだけで良い、言うならば……それが弾薬代です」
自衛隊に入ってから毎度思うが、太平洋の向こう側がこの味方で本当に良かった。
米軍の在庫を使い放題で攻略できるなら、隊員も気楽に撃てるだろう。
「さらにこのガーディアンの魅力は、単体での戦闘能力ではありません」
直後、中田たちの上空を12機の小型ヘリコプターが通り過ぎた。
コックピットを見る限りそれは“無人”であり、誰も乗っていなかった。
「ガーディアンは1機につき、3機の無人ヘリコプターを同時操作できます。貴方達自衛隊には、それの試験を行ってもらいたい。もちろん––––さっきも言った通り、弾薬はいくらでも提供しますよ」
最高の言葉を貰った中田は、早速ラッセンの方を向いた。
「ではすぐ使わせてもらいます、本隊進撃の威力偵察として……今から第3エリアに飛ばします。大佐たちもぜひ司令室でモニターしてください」
4機のガーディアンに自衛官たちが乗り込み、発進の準備がなされた。
138話を読んでくださりありがとうございます!
「少しでも続きが読みたい」
「面白かった!」
と思った方は感想(←1番見ててめっちゃ気にしてます)と、いいねでぜひ応援してください!!




